第25話

 俺は、パーティ会場の入口である門の前に立っていた。

 警備員の制服を借り、制帽を目深に被って。


 すると案の定、ヤツがやって来た。


「王室より遣わされた、『ハイランダー運送』の者である!」


 ヤツは偉そうにいいながら、バスケットを俺に差し出す。


「乳母のナニーナ様から、フロイラン様に料理の差し入れである!」


 そう言ってさっさとパーティ会場の中に入ろうとするヤツの肩を、俺は掴んだ。


「貴様、なにをするかっ!? 私は王室配達員であるぞ!? 貴様のような警備員が聞きやすく触って……!

 うぎゃっ!? あっ、あああっ!? な、なんだ!? なにが起こったんだ!? 埋まってる!? 埋まってるぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーっ!?!?」


 俺は『ヘッドジャンプ』でヤツを庭の地面に埋没させると、ヤツの目の前にしゃがみこんで帽子を取った。


「よう、いけすか野郎」


「ああっ!? 貴様はスカイ!? なぜここに!? 届け物を終えて帰ったのではなかったのか!?」


「後からお前が来るかもしれない思って、帰ったフリをして待ち伏せてたんだよ。

 さぁて、荷物を改めさせてもらうぞ」


 バスケットの中を見てみると、パイ皿があった。

 中を開けてみると、ナニーナが作ったものとは比べものにならない、ひどい見た目のニシンのパイが。


「お前たちはナニーナから受け取ったパイに細工をして、激マズにしてフロイラインに届けてたんだな?

 そうやって王室の中どうしで仲違いをするように仕向けてたのか。

 他の王位継承者と国王が仲違いするようなことがあれば、国政も不安定になって、ハイランダー一族の付け入るスキができるからな」


「げ、激マズだと!? そんなのは知らん!」


「そうかい、じゃあお前が持ってきたヤツを食ってみろよ。憎しみを覚えるような味らしいぞ」


 俺はヘドロのようなパイをすくい、いけすか野郎の口元に持ってくる。


「ぎゃああああああーーーーーっ!? やめろ、やめろーーーーーーっ!!」


 それが尋常じゃない嫌がり方だったのが、なんだか引っかかった。


「もしかして、今年は激マズじゃないのか?」


「い、いや! 今年も激マズだ! 俺が毎年、料理に激マズの薬をまぜて届けてたんだ!」


 あっさり白状したのがますます怪しい。


「激マズなら食っても大丈夫だよな? じゃあ食ってみろよ」


「ひぎゃぁぁぁぁぁーーーーっ!? それだけはやめてっ! やめてぇぇぇぇぇぇーーーーっ!!」


 パイを無理やり口に押し込もうとしたら、ヤツはとうとう白状した。


「そ、それは毒薬なんだ! 食べたら死ぬ! 死んじゃぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーっ!!」


 さらに吐かせてみると、『ハイランダー運送』の上役から、今年の料理には毒を混ぜるように指示されたらしい。

 しかし俺が料理を運んでしまったので、それもできなくなった。


 『ハイランダー運送』ではどんな理由であれ、与えられた任務を失敗すると二度と出世できなくなるので、いけすか野郎は焦る。

 そこで、自分でニシンのパイを作り、毒薬を混ぜることを思いついた。


 先に激マズ薬なしのパイが届いているなら、そのパイはおいしいはず。

 きっと、みんな喜んで食べているに違いない。


 そこに、『ナニーナ様から頼まれて、追加の差し入れをお持ちしました』などと言って毒入りパイを持ち込めば、無事任務完了……!


 もはや毒による暗殺というより、完全なるテロリズム。

 俺は怒りに震えていた。


「お前……! 下手したら大勢死んでたかもしれないんだぞ!?」


 ヤツはヘラヘラと笑っていた。


「それがなにか? 俺の目的は毒を食わせてやることだから、誰でもよかったんだよ!

 参加者のひとりでもパイを食べて死ぬことがあれば、ナニーナに毒殺の罪を着せることができるからな!

 そうなりゃ、いくら王位継承者順が2位のヤツらでも黙ってねぇだろうなぁ!

 ナニーナからラブラインに疑いがかかり、王室はメチャクチャに……!

 そして俺は大出世で、ついに爵位を……はぶううっ!?」


 渾身のパンチを顔面に叩き込んでやると、いけすか野郎はかくんと首を折って動かなくなった。

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