第15話

 着替えについては、パンツだけはなんとか頼み込んで自分で着替えた。

 それと、着替えを終えたあとアパートにある共同便所に入ろうとしたのだが、当たり前のようにナニーナとラブラインがついてきた。


 国王というのはトイレも自分ではやらないらしいのだが、それだけは勘弁してくれと懇願して、なんとか許してもらう。


 何てことのない毎朝の儀式をするだけなのに、俺はどっと疲れてしまった。

 朝食はボロアパートに新たに作られた食堂でみんなで食べたのだが、これがめちゃくちゃ旨かった。


 焼きたてのパン、ベーコンと目玉焼き、サラダにフルーツと、しっかりした朝食。

 どうやら、ナニーナの手作りらしい。


「こ、このサラダのドレッシングはわたくしが掛けさせていただきました!

 お、お味はいかがでしょうか!?」


 ラブラインはドレッシングを掛けただけのようだが、初めてのお手伝いをした子供のようにドキドキしている。

 「ああ、うまいよ」と言ってやると、ラブラインは天にも昇らんばかりに喜んでいた。


 それから出勤。

 ラブラインとナニーナとレディバグはてっきり留守番するのかと思ったが、ついてくるという。


 アイリスひとりなら、抱っこして『ジャンプ』すれば仕事場までひとっ飛びなのだが……。

 さすがに4人を抱えてジャンプは無理だということで、ナニーナが手配してくれた馬車に乗ってみんなで出勤した。


 お姫様がいると街はパニックになるかと思ったのだが、そうはならなかった。

 ラブラインはいつもの姫巫女のローブではなく、お忍び用の聖女のローブを身に着けていたから。


 それなら騒ぎになることもないな、と思ったが、俺は気付かなかった。

 物陰ひっそりと俺たちの様子を伺う、何者かの姿に。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



「ううむ、まさか我らがスカイの居所を突き止めるよりも早く、王室のヤツらに見つけられてしまうとは……!

 しかも『おためし婚』まで始めてしまうとは、王室のヤツらめ、なんといまいましい!」


「ヒラクル様は、スカイを一族に呼び戻すおつもりではなかったのですか?

 ならば、スカイとラブライン様の結婚が早くなるのは喜ばしいことでは……?」


「それは『表の作戦』だ!

 よいか、物事を進めるにあたっては、必ずふたつの作戦を用意するのがワシのやり方なのだ!

 そして『表の作戦』なら簡単だ!

 このワシがスカイの前に出て行って、やさしい言葉のひとつも掛けてやれば、ヤツは犬のように尻尾を振って戻ってくるに違いないからな!」


「では、なぜそうなさらないのですか?」


「せっかく追放した無能を、再び呼び戻せというのか!? しかも、このワシ自ら!

 国王の手前、スカイには再び爵位を与えたが……。

 いちばんなのはスカイとラブラインが結婚するのではなく、ワシが目を掛けている者とラブラインを結婚させることなのだ!

 そうなればこの国は、ハイランダー一族の思いのままになるのだからな!」


「なるほど、ということは『裏の作戦』は、スカイを亡きものにするという作戦ですね」


「ああ、そのつもりであった! しかし今はそれもできん!

 姫や乳母まで一緒となると、スカイの暗殺は難しいであろうな!」


「と、なると……」


「そうだ。スカイのヤツを失墜させるのだ!

 大衆の前でスカイの無様な姿を見せてやれば、おのずとヤツの化けの皮は剥がれるであろう!」


「やはり、ヒラクル様もスカイのスキルをお疑いのようですね」


「当然であろう! 『ハザマノカミ』を一撃で倒すスキルなどこの世には存在せん!

 きっと『ハザマノカミ』は落石かなにかで死亡して、その上に偶然、スカイが乗ったのであろう!

 スカイは信じられんくらい高く飛べるらしいが、それも見た者たちが大袈裟に言っているにすぎん!

 せいぜい5メートルかそこらであろう! 我ら一族の最高記録である10メートルには遠く及ばん!

 それもそのはず、空を制する我ら『神狩り』よりも、高く飛べる者などいるはずもないのだからな!」


「なるほどぉ……。そういうことでしたら、この『神使い』のタランテラにお任せを。

 必ずや多くの者たちの前でスカイに大恥をかかせてごらんにいれましょう。

 ウッフッフッフッフ……!」


-------------------爵位一覧


大公

 ヒラクル


侯爵


伯爵


子爵

 NEW:タランテラ


男爵

 スカイ


廃爵


追放

 フロッグ

 ブルース


-------------------

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