因縁の宗像

 ツバサ杯が学生のオープン・コンクールになって焦っているのはメディア創造学科みたい。学内程度なら無敵だったけど、外部からの参加もあれば、他の大学の写真部だけではなく、写真関係学科の学生だって挑んで来るかもしれないじゃない。


 さらにだよ、一般からの参加だって、写真学校のビシバシ連中だけでなく、西川流なら赤坂迎賓館スタジオの在籍者も参加して来る可能性だってあるのよね。赤坂迎賓館スタジオになると実質的なプロであるA級だよ。


 焦っているのはメディア創造学科だけじゃないみたいで、もっと焦っているのは公認写真サークルだって。ツバサ杯はグランプリと準グランプリの計三名がハワイへの副賞が付くけど、それ以下にも特選、入選、佳作があって、そこに公認写真サークルはなんとか食い込んでるみたいだけど、平田先輩は、


「ああそれか。結構問題になってるらしくて、公認サークルの地位問題になってるのはホンマや」


 西宮学院の公認写真サークルは成績がイマイチらしいのよね。あの写真ならそうなるのはわかるけど、特別待遇の準部活として認めて良いかにまで話がなってるそうなのよ。あの程度の成績なら同じ公認でも補助金なしの普通の公認サークルでイイんじゃないかって。


「そういう声は前からあったらしいけど、ツバサ杯の入賞実績でなんとか釈明してたらしいのよね・・・」


 オープン・コンクールになるとツバサ杯の入賞さえ危うくなるってことか。


「だから今年の新入部員の勧誘は必死やったらしい。なんとかツバサ杯に入賞できる選手を呼び込もうって」


 西宮学院には写真部出身者もいるのよね。もちろん写真教室で頑張っている人も。すんなり公認写真サークルに入った人もいるけど、そうじゃない人もいるし、写真以外のサークルに入った人もいたみたいだけど。


「入ってない奴はかなり強引に引っ張り込んだらしい。それだけやなくて、他のサークルに入っていた奴の引き抜きまでやったんや」


 かなり強引な手法で、それこそ十人ぐらいで取り囲んでウンと言うまで延々と続けたとか。横目で見てた事があるけど、なんか体育会系の勧誘みたいで怖かった。公認サークル代表会議でも問題になったらしいけど、聞く耳もたなかったって話らしい。


「それでも公認写真サークルの連中は満足してへんらしくて、トンデモない提案を出して来たんよ。ツバサ杯のための校内予備予選をやると言いだしたんや」


 そんなもの聞き流しといたら良さそうなものだけど、これは西宮学院のサークル事情にからむ話らしい。サークルには公認と未公認があるとしたけど、さらに非公認があるって言うのよね。加茂先輩は、


「それほど大層な差じゃないよ、未公認は大学に届出したもので、非公認はそれもしてないだけ」


 届出はサークル名と会員氏名、名前と活動内容を書いて提出すれば良いだけらしい。一応審査があるそうだけど、トンデモじゃなければだいたい通るらしい。ヒサヨ先輩が、


「その時にケイコに引っ張り込まれたの」


 これもまたたいした理由じゃなくて、会員数が最低三人必要だったからで良いみたい。届出が受理されると、後は年に一度、会員名簿を提出すればOKぐらい。それにどういう価値があるかだけどケイコ先輩は、


「公認サークルへのステップかな」


 未公認サークルを維持するだけなら会員名簿を提出するだけでOKだけど、公認サークルを目指すところは他に活動実績とかも提出するらしい。そうやって実績を積み上げて行って公認を目指して行くぐらいかな。


「校内の部室は欲しいところが多いのよ」


 あった方が活動しやすいものね。ただ未公認サークルになると正式の部活の支配下に入るんだって。ここは平田先輩が補足してくれて、


「要は大学を代表して出場する時に、複数の代表があったら良くないぐらいや」


 もっとも殆ど問題というか、意識もされてないもので良さそう。体育会系がわかりやすいけど、正式の部活でビシバシやってる連中にサークルが勝てるわけないものね。というか、代表を争うより、部活の方に入っちゃうもの。ケイコ先輩は、


「あれは支配権と言うより、正式の部活が大学代表であるのに異議を唱えませんぐらいの意味なんだけど」


 これを受けて加茂先輩が、


「そうなんだけど、そこを拡大解釈してきたのだよ」


 なにを狙っているのか意図がミサトにはつかみにくかったのだけど、公認写真サークルは部活並の扱いなのを正式部活動同然とまず主張したみたい。この辺ももめたそうだけど、規則に、


『なになにに準じる』


 これを強烈に押しまくられて、押し切られたぐらいかな。


「学生課にも問い合わせたけど、間違ってないで終りさ」


 部活やサークル活動を統括しているのが学生課。


「それでだよ、ツバサ杯がオープン化されて、学校対抗戦になったから、出場するのは学校代表で、それは公認写真サークルだって言いだしたんだ」

「そうなのよ。学校を代表するからには恥しくない作品が必要だってね。そこから上から目線で、まるでお情けを与えるように、これまでの経緯を考慮して、


『予備予選で出場に値する実力を示せば、公認写真サークルの認可の下に出場権を与える』


 ふんぞりかえって宣言したんだよ」


 そういうことか。公認写真サークルに入らなかったのにはもう一つ理由があって、あのインチキ野郎の宗像がいやがったんだ。級位至上主義の公認写真サークルだから、B2級の宗像は入部した時から別格扱いで良いみたい。そりゃ、顧問の先生だって師範資格は持ってるけどB2級だものね。


 宗像はミサトの実力を知ってるはず。もしミサトがツバサ杯に出場したら、グランプリはともかく入賞は確実と見たに違いない。その時にミサトが宗像の上であれば、


「そういう事か。未公認サークルに公認サークルが負けたら、降格問題の再燃必至だよ」


 宗像も変わらないね。本当に姑息なインチキ野郎だ。ミサトは宗像が野川部長に行った仕打ちを忘れるものか。あいつは写真の才能はあったとは思うけど、そっちを伸ばすより周囲を潰すことでラクするのを覚えちまいやがったんだよ。


 そんな手法がいつまでも通用すると思うなよな。そんなことをしたってプロなんかになれるはずないよ。本当のプロ世界のレベルがいかに高いか、その中で生き残る事がどれぐらいシビアなものか麻吹先生たちを通じてミサトも学んだもの。


 宗像がやりそうなことは、まず審査員の買収。絶対やってくるはず。加えて写真のすり替え、どこかのプロに頼んで撮らせてくるのは、摩耶学園時代もやったものね。どっちも掟破りだけど、これを覆すとなると案外難しい。


「宗像はそこまでやったのか」

「ええ、だから校内予選会の時は大変な騒ぎになりました」


 校内予選で宗像のインチキを覆せたのは麻吹先生と辰巳先生がタッグを組んでくれたから。でも今度の予備予選では期待するだけ無駄だろうし。それにしても、こんなミエミエの手を仕掛けてくるのに対応できないなんて悔しいじゃない。加茂先輩は、


「なるほど。予備予選を持ちだしたのは尾崎さん排除のためか」

「でも、前科があるのならやりそうよ。一番確実と言えば、確実な方法だもの」


 ミサトには奥の手はある。その気になれば新田先生だって、麻吹先生だって連絡は取れるし、最後の最後にはエレギオンの女神だっているもの。でも、こんな事で助けを呼びたくない。そうしたら、加茂先輩はあちこちに連絡を取り始めて、


「明日の夕方に居酒屋タイガー堂に未公認写真サークルの代表が集まる事になった。尾崎さんも出席してくれ」

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