大学のサークル
西宮学院はその名の通り西宮にあるのだけど、歴史のある名門校。港都大は国立だけど、西宮学院は私学の雄って感じで、同じく西宮にある関西学院と張り合ってるぐらいかな。広いキャンパスに歴史のある校舎って感じで、なかなかイイ感じ。
大学生はもちろん勉強も大事だけど、キャンパス・ライフも充実させたいじゃない。すぐに友だちも出来て、
「ミサト、おはよう」
「おはよう、ナオミ」
彼女の名前は島原尚美。他にもいるけど、ナオミが一番気が合うかな。このナオミがやりたいのが写真。高校の時もやりたかったみたいだけど、高校に写真部もなくて、
「見て、見て、やっと買ってもらったの」
カメラもなかったってこと。待望のデジイチを手に入れて熱中してる感じ。あれこれ撮ってはミサトに見せようとするのよね。
「やっと夢のボケ写真が撮れたのよ♪」
ボケ写真はまず誰でも撮りたがるけど、あれを撮ろうと思えばスマホじゃまず無理。撮れる条件は色々あるけど、単純にはイメージセンサーが大きくないと撮れないものね。ナオミは写真投稿サイトにもアップしてるんだけど、
「もっと上手な写真を早く撮りたいよ。ねえ、ミサトも写真やろうよ」
ミサトも写真を続けたい気もあったけど、大学では他の事もやりたい気持ちもあったから、高校では写真部だったのをナオミには伏せてるんだ。それでも大学の写真サークルはどんなところかぐらいは興味があったから、ナオミの見学に付きあうことにした。
大学には高校と同じように部活もあるけど、高校と違ってサークル活動も盛んなの。位置づけは。部活は大学が公式に認め補助も出るところで、サークルは学生が自主的に作った同好会みたいなものでイイかな。そこでだけど西宮学院には写真部はないのよね。ナオミは真剣に写真をやりたいから調べてたみたいで、
「写真学科が出来た時に廃部になったらしい」
写真学科も発展拡大されて、今では学芸学部メディア創造学科になってる。どうして写真部が廃部になったのかはさすがのナオミも知らなかったけど、たぶん本気で写真をやりたいなら、そっちに進学しろみたいな感じかな。
ひょっとしたら、写真学科より写真部の方が、レベルが上だったら都合が悪いみたいな理由かもしれない。そりゃ、専門学科が写真部に負けたら存在価値無くなっちゃうもの。
ただ正式の写真部が無い代わりに、公認写真サークルはあるのよね。これも説明がいると思うけど、西宮学院のサークルにも大学公認のものがあるのよね。公認されるには、会員数、活動実績、活動年数から、活動報告書や、顧問の先生の確保とかの条件がずらずら並んでる感じ。
それだけ手間かけても大学からの活動資金は出ないのだけど、公認を取得すると新入会員獲得の時に有利になるらしい。新入生にちゃんとしてるとか、信用できるのアピールをしやすいぐらいかな。
もっと価値あるものとして校内に正式の活動拠点が与えられるのも大きいみたい。いわゆる部室ってやつ。さらに学祭の時に出展スペースを与えられるのもメリットらしい。公認サークル以外は、残されたスペースの奪い合いになるらしい。
写真サークルにも公認があるけど、名称が笑ったけどモロで、
『公認写真サークル』
ただ公認写真サークルは他の公認サークルとは別格の扱いになってて、活動資金も正式の部活に匹敵するぐらい貰ってるらしくてナオミによると、
「廃部になった時の交換条件だって話で、準部活とか部活並って扱いになってるらしいよ」
そのせいかもしれないけど、公認写真サークルの連中は他の公認サークルを『平公認』と見下してるって話だった。ナオミと見学に行ったら、さすがは空前とも呼ばれる写真ブームのお蔭か、入会希望者がけっこう集まってた。
そこでサークルの活動内容を説明されたのだけど、ミサトは聞いてるだけでウンザリ気分。顧問は西川流の師範資格を持ってるそうだけど、活動の中心に級位取得があるみたい。武道系で段位取得を目指す感じかな。
『うちのサークルは実力主義になっています』
そう言えば聞こえはイイけど、実際のところは級位至上主義みたいで、サークル内では学年や年齢より級位が優先されて、ビッシリと序列関係を築いてるみたい。つまりナオミみたいな初心者が入ると、雑用係に回されて、そこから級位を取得して上がっていくまで続く感じ。
ミサトはミサトで展示されてる作品を見てたんだけど、どうにもイマイチ。新入会希望者に見せるぐらいだから、会員の中でも上手な作品と思うんだけど、パッとしない感じ。それなのに、
『ここで頑張ってもらえば、これぐらいのレベルになるのも夢ではありません』
口には出さなかったけど、頑張ってもこれぐらいじゃ夢が無さすぎるよ。もっとウンザリしたのが顧問の先生の作品。さすがに会員より上手だとは思うけど、言ったら悪いけど摩耶学園写真部の田淵部長先生の方がマシぐらい。
ミサトも通ったことがあるから知っているけど、公認写真サークルがやってることは、写真教室と同じ。ナオミぐらいがちょっと上手になるにはイイと思うけど、ミサトには向かないのよね。
ミサトは麻吹先生たちに西川流の長所も短所も教えてもらってるのよね。どちらかと言わなくても麻吹先生は西川流のやり方は好きじゃなく、
『プロになるには弊害が多すぎるところがある。辰巳も頑張って改革したが、級位が上がるほど同じ写真になる傾向は残っている』
ミサトが持ってるのはB4級だけど、今さらB3級を目指す気はないもの。見学には行ったもののナオミは雑用係から始まる話にゲッソリし、ミサトはレベルの低さにウンザリして、
「考えさせて頂きます」
これで帰ろうとしたんだよ。その時に、
「もしかして、摩耶学園の尾崎さんじゃありませんか」
誰かと思ってよくよく見れば、写真甲子園の時に同宿だった陸奥高校の寺田隼人さん。懐かしかったからナオミと三人で大学正門前にある喫茶店北斗星に行ったんだよね。寺田さんは一年上だけど、浪人して合格したみたい。よくまあ、陸奥高校から西宮学院なんて入ったものと思ったけど、
「父の転勤の関係で」
もとは関西の出身だったんだけど、父親が小学校から仙台支店に勤務になり、中三になる時に父親は神戸本店に栄転になったそう。
「逆単身赴任みたいなもので」
子どもの進学の都合とかで父親が単身赴任になるのはよく聞く話だけど、寺田家の場合は母子が仙台に残り、父親が神戸に単身で赴任したらしい。陸奥高校を卒業した寺田君は、父がいる関西を目指したぐらいかな。ここでナオミにバレちゃった。
「ミサトは写真部だったの」
「いちおうだけど」
そこに寺田さんの追い討ちがキッチリと、
「そんなものじゃありません。写真甲子園の伝説の大会の優勝メンバーです」
たった二年前だけど、もう伝説化されてるみたい。それもわからなくもなくて、世界の写真界の大御所のミュラー先生とロイド先生が、自らの写真学校の精鋭部隊を率いてサプライズの招待参加。
それだけでも伝説になりそうだけど、摩耶学園の監督はあの麻吹先生。さらに表彰式の時には西川流の総帥の辰巳先生まで出て来られて、あれが高校生の大会かと思うほど豪華絢爛な大物の競演になってたものね。
「それだけじゃないですよ。摩耶学園が決勝で作り上げたシンフォニーは、写真甲子園の不滅の傑作とされています」
そうあのファイナル・ステージも伝説になりかけてるみたい。誰が思いついたか知らないけど、空前にしておそらく絶後になると言われてる八時間の超ロングラン撮影。だって夜明け前から昼までだよ。
撮影時間が長いと良い写真を撮れるチャンスも増えるけど、撮られる枚数も膨大なんだよね。それだけ撮影時間が伸びてもセレクト会議は二時間で変わらなかったから、どこも悲鳴があがってたもの。
あの時は必死だったから気にもしなかったけど、あれは厳しいどころか無謀な条件設定だったと思うもの。そんなムチャクチャな条件の中でエミ先輩はあのシンフォニーを紡ぎあげちゃったのよ。出来栄えは審査会で池本審査委員長が絶句してしまうほどのものだったものね。
「寺田さんはあのサークルに入られるのですか」
「迷ってます」
寺田さんも写真は続けたいみたいだけど、もうちょっと気楽にやりたいってさ。ナオミもそうみたいだった。そうなると未公認の写真サークルになるけど不意に、
「だったら、うちに入らない」
喫茶店のウエイトレスから突然声を掛けられたのよね。そうしたら、隣の席の学生さんも立ち上がって寄って来て、
「フォトサークル北斗星の代表の加茂繁です。摩耶学園の尾崎さんが入ってくれるなら大歓迎です」
なにがどうなっているのか面食らったけど、未公認サークルは学内に公式の活動拠点を与えられないので、この喫茶店を活動拠点にしてるんだって。だからサークルの名前も北斗星。ここを拠点に出来るのは、
「私は副代表の上林恵子。ケイコって呼んでね。この店の娘だよ」
そういう事らしい。もうちょっと聞くと、ケイコ先輩が入学した時に加茂先輩と二人で立ち上げたサークルらしくて。
「あは、出来てまだ三年目のヒヨッコ・サークルだよ」
会員だって加茂代表、ケイコ副代表と、
「三年の大石寿代です。ヒサヨって呼んでね」
「二年の三井智里です。チサトでイイですよ」
「同じく二年の平田雅樹です」
そうたったの五人。なんか摩耶学園の写真部を思い出しちゃった。あそこもミサトが入った時は、野川部長と藤堂副部長しかいなくて、ミサトとアキコが入ってようやく四人だったものね。
どうしようかと思ったらナオミが乗り気になってたし、寺田さんもそうみたいだったんだよ。そりゃ、あれだけ熱心に勧誘されたらね。
「ミサトも付きあってよ」
ここで入らないとナオミと別れ別れになっちゃうし、場のノリってものがあるじゃない。
「よろしくお願いします」
こんなので良いのかなぁと思う部分はあったけど、公認写真サークルに入るよりマシと思うことにした。気楽そうだし。そしたら先輩たちは小躍りしてた。
「甲子園メンバーが二人も入ってくれるとは」
「寺田君も嬉しいけど、摩耶学園の尾崎さんなんて夢みたい」
ナオミがむくれそうだったけど、
「島原さんも楽しんでね。わたしたちで出来る範囲ならいくらでも教えてあげるから」
「飲み会要員でも大歓迎だし」
まあ、そんな雰囲気。
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