石川同盟


 ――バルバトスだな。


 俺は悩むに悩んだ結果、バルバトスを選択した。


 ベリアルは召喚特化。ならば、召喚と言う能力を得るために何かを犠牲にしているだろう。


 デーモンを繁殖出来るメリットは大きいが、デーモンを配下にする手段は他にもある。


 奇しくも魔王カオルの『汎用品と唯一品……その価値には埋められない差がある』と言う言葉が、決断の決め手となった。


 俺は魔王カオルにメールを送った。


 結果的に、交換内容は――


 シオン側 オリハルコン装備 180個

      グローラージソード

テュルソス


 カオル側 デーモンキング  20体

      デーモンロード  20体

      デーモンバトラー 20体

      バルバトス


 となった。


 交換レートが一対一じゃないのにも理由がある。


 100体の配下を引き受けるには、100回の《契約コントラクト》――眷属化が必要となる。


 とてもじゃないが、そこまでCPは消費出来ない。と悩んでいると、カノンから……


「眷属を配下にしたら、その眷属に属している配下も一緒に配下になりますよぉ」


 と言う、助言を受け……この事を魔王カオルに相談した結果……『眷属にしてから渡すなら、もう少しレートを変えてよ!』と言う要望を受け、話し合いの結果、魔物1体につき、アイテム3つのレートとなった。 


 デーモンキングはLPが高く、最大で5体を配下にすることが可能だった。これで《契約》の回数は12回と大幅に減少された。


 そして、交渉が全て終わったその日――俺の支配領域内にて、第一回目となる交換の儀が執り行われることとなった。



  ◆



 交換の儀が執り行われる場所はアスター皇国の居住区画一望出来る、一際大きな建物の最上階にある執務室。普段は田村女史が常駐している部屋だ。


 今日だけは特別に支配領域の入口の側に設置した【転移装置】へと繋げてある。


 体裁は整えた。後は魔王カオルを待つだけとなった。


 約束の時間から10分程前。侵略――魔王カオルの来訪を告げるアラートがスマートフォンから鳴り響いた。


 スマートフォンを確認すると、支配領域の入口には三角帽子を被った細みの男性。そして、10体のアークデーモンを引き連れた魔王カオルの姿が映し出される。


 俺は【転移装置】を使って魔王カオルの元へと移動した。


「ようこそ、魔王カオル」

「お招き頂き、ありがとう」


 仰々しく頭を下げる俺に、魔王カオルは子供っぽい笑みを浮かべ答える。


「一応、交換の儀を執り行う正式な場所も用意したが、どうする?」


 俺は前回魔王カオルの申し出を断り、支配領域の入口で交渉をした。魔王カオルもそう願うのであれば聞かざる得ないだろう。


「うーん……それじゃ、お邪魔しようかな」


 ――!?


 あっさりと言う魔王カオルに俺は驚愕する。


「いいのか?」

「ん? だまし討ちとかしないよね?」

「当然しないが……」

「なら、いいよ。シオンが言っていただろ? 信頼は徐々に築きあげるって。これは、その一歩かな」

「俺もカオルの信頼には信頼で応えよう」

「ちなみに、武器とかは預けた方がいいかな?」

「いや、そのままでいい。それでは、案内する」


 俺は魔王カオルとその供を引き連れて【転移装置】で転移した。


「え? わっ……す、すごっ……」


 転移した先――執務室の窓から一望出来る居住区を見て、魔王カオルが絶句する。


「ん? カオルの支配領域には民がいないのか?」

「いや、民はいるけど……ここまで規模は大きくないよ……。ほら、民を屈服させるのって面倒な癖して旨味は少ないから」


 腹黒い印象の魔王カオルであるが、今は珍しく素になっているようだ。


「一応、"国"を名乗っているからな」

「なるほどね。これは、確かに国だよ」

「規模的にはまだまだ町レベルだけどな」

「ボクも戻ったら町を作ってみようかなぁ……。ちなみにメリットはあるの?」

「メリットか……。民が幸せに暮らしていることが広く知れ渡れば今後の統治が楽になるだろう。後、食事の質が上がった」

「え? シオンってご飯食べるの?」

「余裕がある時は食うな。まぁ、食事の質が上がって喜んでいるのは、主に配下連中だな」

「シオンって冷酷なイメージがあったけど、意外に配下思い?」

「どうだろうな」


 一般的な魔王よりは配下や民の待遇は良くしていると自負しているが、配下思い……聞かれると、下心もあるので答えづらかった。


「ところで、その取り巻きは?」


 俺は魔王カオルが連れてきた一人の男性と、10体のアークデーモンに視線を移し尋ねる。


 男性は恐らくバルバトスだろう。しかし、アークデーモンを連れてきた意味が分からない。護衛と言うには心許ない存在だ。


「紹介するよ。彼が――バルバトス。今回シオンに譲渡する自慢の配下だよ」

「シオン様、初めまして。バルバトスと申します」


 魔王カオルに紹介された三角帽子を被った細みの男――バルバトスが恭しく頭を垂れる。


「シオンだ。宜しく頼む。それで残りのレッサーデーモンは護衛か?」

「ううん。彼らはボクからの贈り物だよ。親愛の証みたいな?」

「なるほど。配慮感謝する」


 レッサーデーモン10体か……。俺は在庫を確認し、一着の服――魔晶の衣を取り出し、魔王カオルへと差し出した。


「俺からの親愛の証だ」

「ありがと! これは親愛の証かな? それともボクに借りを作りたくないからなのかな?」

「好きに受け取ればいいさ」


 魔晶の衣は錬成がAランクに成長した時に作成出来るようになった衣だ。性能としてはBランクで作成出来るユニークアイテムと大差はなかった。


「そうだ! ボクもシオンの真似っ子になるけど、国の名前を付けたよ!」

「ほぉ……」

「せっかく同盟を結ぶなら国の名前はあった方がいいでしょ?」

「それで国名は?」

加賀国かがこく

「地名をそのまま付けたのか」

「小松にしようか悩んだけど、加賀の方がカッコいいでしょ?」


 魔王カオルは嬉しそうに話す。


「それじゃ、同盟を結ぶか。同盟を結ぶ様子は全世界へライブ配信する」

「イイねー。ボクも一躍有名人になっちゃうのかな?」

「どうだろうな」


 俺と魔王カオルは互いに笑みを浮かべた。


「シオン様、魔王カオル様、準備いいっすか?」


 ライブ配信を任せたタスクが声を掛けてくる。俺と魔王カオルは互いに目を合わせ頷く。


「それじゃいくっすよ! 3.2.1……キュー!」


 タスクが手にしたビデオカメラに赤いランプが点灯した。


「初めまして。全世界の人類並びに魔王諸君。俺の名は魔王シオン。日本の石川県の一部を支配している魔王だ」

「初めまして。うわっ……緊張するね。ボクの名前はカオル。日本の石川県の一部を支配している魔王だよ」

「今日は皆に報告したいことがある。本日我が支配領域――アスター皇国と――」

「ボクの支配領域――加賀国は同盟を結びます」

「同盟の名は――『石川同盟』! この同盟が上手くいくのか……」

「はたまた失敗するのか……」

「石川同盟の行く末を皆に判断して欲しいと思い、今回の配信に至った」

「どうなるのかワクワクだね!」

「それでは、この辺で失礼させていただく」


 俺が手を下ろすと、録画を示していた赤いランプは消灯。


 こうして、恐らく世界初となる魔王同士による同盟――『石川同盟』が成立したのであった。 

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