同盟へ向けて①


「……同盟だな」


 俺はいくつかある選択肢の中の一つを呟いた。


「え?」

「同盟だ」


 俺の呟きに隣にいたカノンが反応する。


「同盟ですかぁ? あれ? そんな特殊能力ありましたぁ?」


 《配下創造》も《支配領域創造》も《分割》も《統治》も魔王独自の特殊能力だった。


 故にカノンは『特殊能力』と勘違いしたのだろう。


「いや、特殊能力ではない。俗に言う『同盟』だ」

「同盟って……あの、互いに不可侵条約を結んだり、協力して共通の敵と戦う、あの同盟ですかぁ?」

「その同盟だな」


 古来より戦時中、国は諸外国との解決策の一つとして同盟を用いてきた。


 戦国時代では、織田と徳川の清洲同盟が有名だろうか。他にも薩長同盟……果ては日独伊三国同盟など、日本のみならず世界の歴史を紐解けば様々な同盟が存在していた。


「で、でも……同盟で特殊能力――云わば世界から認められたシステムじゃないんですよねぇ?」

「そうだな」

「信用出来るのですかぁ?」

「んー……どうだろうな? 互いにメリットがあれば……そのメリットが消えない限りは信用出来るだろう」

「互いのメリットですかぁ……それで、同盟を結ぶ相手は?」


 カノンは納得しない様子を見せながらも、同盟を結ぶ相手を尋ねてくる。


「あ、『どこだと思う?』とか言うのは無しですよぉ!」


 カノンはまるで俺の言葉の先手を打つかのように、早口で告げる。


 カノンは、言葉遊びの楽しみ方を忘れたのか……。


「誰がそんなこと言うか! 同盟を結ぶ相手は――魔王カオルだ」


 俺はカノンの言葉に内心イラッとしながらも、答えを告げた。


「え? 魔王カオルですかぁ? 絶賛戦争中ですよぉ? 相手はめっっっちゃシオンさんのこと嫌いですよぉ! 受けてくれますかねぇ?」


 カノンはめっっっちゃと言う余計な言葉を強調する。


「どうだろうな? 俺の予想では半々だ」

「シオンさんって普段は引くほど慎重派なのに、時々無駄にポジティブですよねぇ」


 何だろう? カノンは俺に喧嘩を売っているのだろうか?


「なら、逆に聞くが……今の状況を打破する術はあるのか?」

「えーっと……とりあえず、北陸三県ではシオンさん以上の勢力はいません。だからぁ……今まで通りに力に物を言わせて侵略を進め、更なる戦力の拡大を目指せばいいんじゃないですかぁ?」

「ハァ……それが仮にも軍師を志す者の意見か?」


 俺は目の前の愚者カノンへと深い溜め息を吐く。


「はい! 私はアスター皇国の軍師ですよぉ!」


 カノンは無駄にポジティブな面を発揮する。


「軍師カノン、周辺の状況を報告せよ」

「え? え、えっとぉ……県南――小松市と加賀市は魔王カオルが支配していますぅ! 隣県富山県は9割が人類に解放され、残された黒部市の魔王が必死の抵抗をみせていますぅ!」


 カノンは必死に答える。


「福井県の状況は?」 

「福井県は未だに群雄割拠! 県南は魔王の勢力が強く、県央は人類が統治! 県北はやや人類が有利な状況でしょうかぁ!」

「岐阜県の状況は?」

「え、えっとぉ……岐阜県は、『十三凶星』――魔王ハヤテの影響により逃げ延びた愛知県の人類が多数流入していますぅ。その影響もあり、ほぼ人類が統治をしていますぅ」

「新潟県の状況は?」

「え? に、新潟県の情報はまだ……あぅぅ……今から調べますぅ……」

「いや、調べなくてもいい。新潟県の情報が必要となるのは、まだ先だからな」

「えー……なら、何で聞いたのですかぁ!」


 カノンはふくれっ面を浮かべて抗議する。


「俺が言いたいのは……先を読んでいるか? と、言うことだ」

「うぅ……読んでますよぉ。だから近隣の状況も調べていたじゃないですかぁ」


 カノンはバタバタと手足を動かして抗議する。


「ほぉ……ならば、質問だ。今まで戦った中で一番強かった勢力は?」

「え? 苦戦したとかなら……魔王アリサ……? んー……でも、苦戦しているのは……現在交戦中の魔王カオルなのかなぁ?」

「正解。レベル上げの為に放置していたのもあるが、落とすとなると……かなり苦労するだろう。その観点から、次に苦戦した勢力は?」

「落とすのに苦労したと言うのなら……『金沢解放軍』ですかぁ?」

「正解。その二つから導き出される答えは?」

「え? え? 魔王カオルは魔王だし……『金沢解放軍』は人類だからぁ……戦略も戦い方も全然違うからぁ……何だろぉ……えっとぉ……か、数? 戦力? が大きいとかですかぁ?」


 カノンは探るように上目遣いで俺に尋ねてくる。


「戦力が大きいか……ある意味正解だな。二つの勢力とアスター皇国との関係で共通点は、直近で争った勢力と言うことだな」

「はぁ……?」

「つまり、時間が経てば経つほど……相対する勢力は強大となる」

「でも、私たちも強くなりますよぉ」

「そうだな。ある意味、成長力が大きい方が勝利を収める。そこで問題となるのは、成長力にそこまで差が生じるのか、と言うことだ」

「そ、それは……」

「生き残っている勢力は魔王であれ人類であれ……今後も生き残る為に必死だ。そして、この変わり果てたコワレタ世界に順応している。つまり、今後も簡単に勝てる戦いは無いと言うことだ」

「うぅ……え、えっと……だから同盟を結ぶのですかぁ?」


 意気消沈したカノンは、本題へと話を戻そうとする。


「俺たちがここまで生き残れた要因――アスター皇国がここまで発展出来た要因は何だと思う?」

「え? シオンさんの千里眼とも言うべき戦略ですかぁ?」

「本当に千里眼があるなら……もっと上手いことやってる。要因はいくつもある。運の要素もあれば、戦略が上手くハマった要素もある。しかし、一番の要因は――」


 俺は考え抜いたアスター皇国発展の分析をカノンへと告げるのであった。

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