外伝 兄弟の絆
金沢解放軍を殲滅してから数日後――
「シオン、大変じゃ!」
自室で寛いでいるとヤタロウが血相を変えて飛び込んで来た。
「どうした?」
「勇者じゃ……岐阜の勇者が侵略して来たのじゃ!」
「岐阜の勇者……? 岐阜の連中は名古屋の十三凶星の相手で手一杯じゃなかったのか?」
「そのはずなのじゃが……」
俺はスマートフォンを操作して岐阜の勇者が侵略して来た支配領域の様子を確認した。
侵略者の数はセオリー通りの12人。装備品は一部がBランクのユニークアイテムを所持。現在コスパ最強のグールの群れと戦闘中だが……
「なるほど……。強いな」
連携、個の強さ共に今までの侵略者とはレベルが違った。
「どうする? ある程度の犠牲を出してもいいのであれば追い返すことは可能じゃが……」
ヤタロウは俺へと指示を仰ぐ。
ヤタロウの言うある程度の犠牲とは量産可能な配下とアイテムを指している。幹部の命を危うくするレベルならば、違う進言をするはずだ。
問題は……“追い返す"ことは可能と言うことだろう。“迎撃が可能”なら何も問題はない。しかし、追い返すと言うことは、侵略者に手土産――経験値とアイテムを渡すと言うことだ。
侵略者に美味しい思いをさせてしまうと、俺の支配領域は舐められてしまい――更なる侵略者の呼び水となってしまう。
しかも、その相手が岐阜の人類と言うのもたちが悪い。
故に、ヤタロウは俺へと指示を仰いだのだろう。
「迎撃メンバーはこちらで用意する」
「うむ。任せたぞ」
岐阜の人類と事を構えるのは時期尚早だ。ここは、恐怖を刻み込むのがベストだろう。
俺はスマートフォンを操作して幹部連中の現在の動向を確認する。
リナ、タカハル、サラ、ヒビキ、クロエ、レイラ、フローラ……幹部連中は軒並み魔王カオルの支配領域へと経験値稼ぎに出かけていた。
待機しているのはコテツとアイアン、後はサブロウの部隊だけか……。
幹部たちを呼び寄せるべきか?
俺はスマートフォンに映る侵略者の姿が確認しながら、思考する。
コテツとサブロウの部隊……後はイザヨイと俺がいれば十分だな。
俺は迎撃メンバーを念話にて呼び寄せるのであった。
◆
「――と言う訳で、今から岐阜の人類を迎撃する」
「ほぉ……儂の部隊だけでなく、イザヨイ殿とサブロウの部隊も借りだすとは……中々の手練のようですな」
「一陣の槍となりて、全ての敵を殲滅します!」
「シオン様、チームJ! 準備は万全ですぞ!」
「シオン様、本来であれば防衛は私の責務。このような事態になり申し訳ございません」
防衛に初めて借り出されたコテツは好々爺の笑みを浮かべ、その隣ではクーフーリンが前のめりに気合が入っている。サブロウはチームJの配下と共に意味不明なポーズをとっており、イザヨイは申し訳なさそうに頭を下げていた。
「今回の目的は――圧勝だ」
「「「ハッ!」」」
「岐阜の人類にアスター皇国の強さを知らしめるぞ!」
「うむ!」
「承知!」
「チームJの闇の深淵――知らしめますぞ!」
「畏まりました。全ては主――シオン様のために」
――《転移B》!
俺は士気が最高潮の配下とともに岐阜県の人類を迎撃すべく、転移した。
◆
転移した先で待つこと10分。
侵略者たちの足音と共に話し声が聞こえてきた。
「ハヤテと同じ十三凶星と言うから、警戒していたが、大したことない」
「普通の支配領域と比べると雑魚は強いが、倒せないレベルじゃないな」
「流石はリーダー! 敢えて、北陸のシオンを狙うって戦略は大当たりだぜっ!」
「浮かれるな。俺たちは、眷属もまだ倒していない」
「ハッ! 眷属が出てきても俺がパパっと倒してやるよ!」
「だから、お前は浮かれるなと――」
――《ダークランス》!
俺の放った狙い澄ました闇の槍が、調子に乗っていた侵略者の胴を貫く。
「ヤマダァァア! 大丈夫か!!」
「クソッ! 不意討ちとは卑怯なっ!」
「だ、大丈夫です! まだ助かります! ――《ヒール》!」
侵略者たちは武器を構えて周囲を警戒する。
「お、まだ生きてるか。イザヨイ、奴はお前をパパっと倒すらしいぞ? どうする?」
「畏れながら、私が奴を葬り去りましょう」
「パパっと倒せよ? パパっと」
「畏まりました」
イザヨイに先程舐めた口をきいた侵略者を倒すように命じた。
「サブロウ、お前の部隊は何人倒せる?」
「ご命令頂ければ、全て滅ぼしますぞ」
「それだと、俺とコテツが暇になるだろ? 後衛を中心に9人倒せ」
「承知しましたぞ!」
俺はサブロウ率いるチームJに命令を下す。
「コテツ、残りを相手に出来る?」
「そうですな……余裕かと。クーいけるか?」
「師父のご命令とあらば!」
コテツはクーフーリンと視線を合わせ、獰猛な笑みを浮かべる。
今回の迎撃メンバーは、俺、イザヨイ、コテツ、クーフーリン、サブロウ、チームJの精鋭8人の合計13人。
一人一殺すれば、俺が余る計算となる。
俺はグローガンを取り出し、グローガンを育てながら高みの見物と洒落込むことにした。
「――殲滅せよ!」
俺の掛け声に合わせて配下たちが侵略者へと襲いかかる。
「クソッ! お前たち構えろ! 俺たちの手で十三凶星の一角――魔王シオンを討つ! ――《タウ」
させねーよ!
俺は盾を打ち鳴らし、ヘイトコントロールを試みたリーダーと思われる人類の眉間へとグローガンを放つ。威力は低いが、《タウント》の阻止には成功。
「焦るな小僧! 儂が相手じゃ! ――《空刃》!」
コテツの放った真空の刃がリーダーの盾を弾く。
「シオン様の御命により、パパっと倒させて頂きます!」
イザヨイが律儀にも俺の命令を口に出し、指定された人類へと槍を振るう。
「闇に堕ちた勇者――第零災厄(ディザスターゼロ)よ! 貴方の強さをシオン様に示すのですぞ!」
「うおぉぉぉおお! この剣は皆の笑顔を護る力! 領民の……仲間の生活を護る為――第零災厄、いざ参る!」
ほぉ……。あれはサブロウが熱望した元勇者か。お手並み拝見といくか。
サブロウは配下と連携を取りながら、厄介な後衛を一人づつ、着実に始末する。
戦闘開始から10分。
侵略者の数は残り6人。
向こうのリーダーがコテツ相手に未だ生存しているなど、驚きの粘り強さを見せてはいるが勝敗は明らかであった。
さてと、誰を残そうかな。
全滅させるのは簡単だが、一人は支配領域の喧伝の為にも帰す必要がある。
インフルエンサーになりそうな、口が軽そうで、プライドが高そうな奴はどいつだ?
パパっと君はインフルエンサーになりそうな逸材であったが、すでにイザヨイの槍により物言わぬ亡骸へと変わり果てている。
あのリーダーは復讐! とか言いながらまた侵略して来そうなタイプだからなぁ……。
と、悩んでいたその時――
周囲を見ないで突出したクーフーリンの背後から侵略者が斧を振り上げながら迫ってきた。
クソッ!
俺は慌ててグローガンを構えるが、射線上にクーフーリンが重なって撃てない。
クソッ……見た目は大人になっても突っ込むところとかは
「――《ファストスラスト》!」
消滅はしないだろうが……と、祈るような気持ちでクーフーリンを見ていると、サブロウが一陣の風となって斧を振り上げた侵略者を刺突した。
「セタ……クーフーリンよ! 敵は一人ではない! 周囲の警戒を怠るな!」
颯爽とセタンタの窮地を救助したサブロウが、クーフーリンへと叱咤を飛ばす。
「お、お兄ちゃ……あ、兄上……!」
「何度も言わせるな! 戦いの道理も知らぬ子供なら、戦場に立つでない! ――《サウザンドスラスト》!」
サブロウが神速の刺突で侵略者を滅多刺しにする。
「わかったか!」
「も、申し訳ございません……」
サブロウの気迫に押されたクーフーリンが目に見えて落ち込む。
その後、萎らしくなったクーフーリンとサブロウの獅子奮迅の活躍もあり11人の侵略者を掃討。生き残った一人の侵略者はたっぷりと脅してから帰還させた。
「先程は……申し訳ございませんでした……」
クーフーリンが気落ちした様子でサブロウへと謝罪する。
「フッ。お前はもう……我輩の弟ではない」
「あ、兄上……」
「お前は今コテツ殿の配下、違うか?」
「その通りです……」
サブロウに突き放されたクーフーリンが目に見えて落ち込む。
「クーフーリンよ。お前はもう我輩を卒業したのだ……。そう! 我輩の元から羽ばたいたのだ!」
「あ、兄上……」
「我輩の元からセタと言う可愛い弟は巣立ち、新たにリリエルちゃんと言う妹が出来たのだ……!!」
「あ、兄上……?」
「セタ、いや……クーフーリンよ。お前は良き弟であった。我輩の新たな扉を解放したかも知れない逸材であった。しかし! 我輩は原点に帰る! グッバイ弟よ! そして、こんにちは! 妹よ! と、言う訳でシオン様、リリエルちゃんが我輩の部隊に配属するのはいつ頃に――」
――《ファイアーランス》!
俺は戯言をほざくサブロウに炎の槍を放ち、その場を後にしたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます