金沢市侵攻⑦
ふぅ。危なかった。
創造された配下じゃあるまいし……名乗ろうとするなよ。
リナが名乗るのは時期尚早。リナの名乗り――生存、そして現状を知らしめるのは、金沢解放軍にとって最大の攻撃になり得る可能性を秘めている。
《統治》完了まで残り2時間45分。
侵攻中の配下たちが金沢解放軍の人類と衝突した。
範囲内にいる人類の数は約30,000人。
2時間45分以内に30,000人もの人類を掃討するのは不可能だ。
しかし――心を折るのであれば? ――《統治》の成功条件は掃討に非ず。
俺の予想通りに展開すれば《統治》は成功するはず……!
《統治》を成功させる鍵は――リナたち幹部の圧倒的強さ。
俺は配下たちの力を信じて、スマートフォンに映る戦況を眺める。
「オラッ! どうした、どうした!」
「アハハッ! 楽しいねっ!」
最前線で心底楽しそうに暴れ回るのは戦闘狂(バトルジャンキー)のタカハルとセタンタ。縦横無尽に暴れ回る二人に気を取られ正門前の人類の隊列が乱れる。
「タカハル! セタ! 突出するなっ!」
「アハハ……あのバカ二人に無理言うなし」
「困ったものじゃな」
突出する二人をフォローするように切り込むリナ。サラは巧みに二人をフォローする形で魔法を放ち、コテツは困った孫娘を見て笑いながらも眼前の敵を斬り伏せる。
「フォー! 私を捕まえることが出来るぴょん?」
「クソッ! 何故だ……何故俺はあの変態から目を離せないんだ!?」
「まずはあの変態を血祭りにあげろ!」
ヒビキはポージングを決めながら順調に人類の
「おい……俺を無視するなよ? 悲しいじゃねーか!」
ヒビキへと迫る人類へとタカハルが背後から回し蹴りを見舞う。
「クソッ! あんだよこの鎧!」
「フフッ……総員攻撃よ~」
「放てぇぇぇ! 我らの力を見せつけるのだ!」
リビングメイルに阻まれている人類を嘲笑しながら、フローラとレイラがリリムやダンピールと共に一斉に魔法攻撃を仕掛ける。
「負傷した者は後退――」
「あはは! 逃げちゃダメだよ?」
負傷者が正門の奥へと撤退しようとするも、セタンタの槍に阻まれ地に倒れる。
スマートフォンに映る戦況は圧勝であった。
やはり、主力部隊は全員白山市に移動したか。
俺は、多大な犠牲を払った陽動の成果が実ったことを確信。
――強引に大学内に侵入する必要はない。今はその場で敵を蹂躙せよ!
俺は配下に命令を下し、獅子奮迅の働きを見せる配下の様子を確認し続けるのであった。
◆
《統治》完了まで残り2時間。
戦況は圧倒的に優位に進めていたが、所詮は500対30,000。
倒した人類の数はおよそ3,000人。倒した敵の数は1割程度だが――
俺はスマートフォンに映る4色のドットを見てほくそ笑む。
圧倒的な配下たちの強さに心が折れた者――黄色のドットに変わった者の数は5,000人を超えていた。
「敵は少数だ! 耐えろ! 耐え抜くのだ!」
「リーダーたちが来るまで耐えるのだ!!」
人類は《統治》の仕様を知っている。魔王カオルが《統治》を終えるまで残り40分。《統治》が成功しようが、失敗しようが……白山市に移動した人類の主力部隊は戻ってくる。
倒された人類の数は1時間で1割。ならば、白山市の主力部隊が戻ってくるまでの間は耐えきれる――それこそが人類に残された希望。
「うわぁぁぁああ!?」
「て、敵襲……!?」
そんな人類の希望を嘲笑うかのように――クロエ率いる9,000体の配下が戦場に登場した。
――本隊が到着したと騒ぎ立てろ!
俺は正門前で戦闘を繰り広げているリナたちに命令を下す。
「本隊だ! 本隊が到着したぞ!」
「ホンタイダ……ホンタイが到着したぞーっと」
「本隊キタコレ!」
「増援じゃ! 皆の者、増援が来たぞ!」
「私の勇姿を見届ける本隊が到着しましたか……!」
「わー! 本隊が到着したよーっ!」
リナの掛け声を皮切りにあからさまに棒読みのタカハル、楽しそうに騒ぐサラ、俺の意図を理解したコテツ、何も理解していないヒビキ、同調して楽しそうに騒ぐセタンタ。
程度は違えど、人類は騒ぎ立てる配下たちの掛け声を聞いて恐慌状態に陥った。
「ほ、本隊って何だよ……!?」
「数……数は!」
「多数じゃわかんねーよ! 敵の本隊の数は!」
――武器を打ち鳴らし! 地を蹴り! 雄叫びをあげろ!
次いで、クロエたち増援部隊に存在感を高めるように命令を下す。
「「「ウォォォオオオオ!」」」
武器を打ち鳴らし、地を蹴って、雄叫びを上げる10,000体の配下たち。スマートフォン越しでも伝わるその迫力に人類の恐慌状態は加速する。
「うわぁぁあああ!?」
「終わりだ……」
「何だよ!? 何なんだよ!」
――今が好機! 手を緩めるな!
リナたちに対し、恐慌状態に陥っている人類達への追撃を命じ、
――全軍前進!
クロエたち10,000体の配下たちに前進を命じた。
獅子奮迅の働きを見せるリナたちと、雄叫びを上げながら進軍するクロエたちを確認した俺はスマートフォンを操作して、《統治》の範囲内の状況を確認。
ふむ。もう一押しだな。
画面に映る赤色(敵対)のドットの多くが黄色(服従)へと変化していた。
――全軍、攻撃を中断せよ!
俺の命令に従い、正門前で猛威を振るっていた配下たちが動きを止める。
「――?」
『金沢市の人類に最後の勧告を告げる』
俺は【拡声器】を取り出して、金沢市の人類へと言葉を投げかける。
『降伏する者には慈悲を、抵抗する者には死を与える。降伏の意志ある者は、抵抗する意志と共に武器を捨て、地に座するのだ。我がアスター皇国は無抵抗の者には手を出さぬ。猶予は1分。1分後に我々は再び攻撃を始める。これは最後の勧告となる。諸君には賢明なる判断を期待する』
最後通告を終えた俺は正門前の人類の様子を確認。人類は、一人、また一人と武器を捨て、その場に座り込む。
『反抗する意志は捨てよ! 武器を捨て、地に座しても、反抗する意志がある者には等しく死を与える!』
俺はスマートフォンを操作してドットの色――人類の状態を確認した後、警告を与える。
『個人のつまらぬ意志が同胞を死に追いやると知れ! 降伏する者は武器を捨て、地に座し――反抗する意志を捨てるのだ! 言っても分からぬのか?』
――セタンタ、目の前の人類を殺せ!
「はーい! シオン様の言うこと聞かないとダメだよ?」
セタンタは無慈悲に地に座っていた人類の首を槍で貫く。
『反抗の意志のある者には等しく死を与える! 生き延びたければ……反抗する意志は捨てよ!』
スマートフォンに映る赤色のドットは急速に黄色へと変化していくのであった。
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