ときかま☆
アスター皇国を建国した翌日。
時刻は19:00。俺は建国宣言を行うために、配下を伴って支配領域の外へと出向いた。
――周囲を警戒せよ!
俺は少しでも遠くに声を届かせるために、慎重に支配領域から南へと足を進める。
「お館様、周囲1km以内に敵対勢力はいない」
偵察から戻ったカエデが音もなく俺の側に近付き、報告する。
「2km先は?」
「人里がある」
【拡声器】の有効範囲は俺を中心に3km。今日は人類と争う訳にはいかない。
ここが頃合いか?
「あー……あー……金沢市の人類に告ぐ。初めまして、でいいのかな? 県北の支配領域を支配する魔王シオンだ。今日は小松市の魔王カオルとは違い――宣戦布告をしに来た訳ではないので、ご安心願いたい。今日は金沢市の人類に報告があり、こうして声を掛けた次第だ」
しかし、反応もなく一人で話すのは、いつまで経っても慣れないな。
「それでは、本題を告げる。県北を統一した我が支配領域は――『アスター皇国』として建国することをここに宣言する。我々『アスター皇国』は投降する人類には広く門戸を開いている。事実! 珠洲市を始めとする多くの県北で生活していた貴方方の同胞である人類は俺の支配領域で健全なる生活を送っている。安寧なる未来を願う人類は、非武装で俺の支配領域を訪れよ! さすれば、我が『アスター皇国』は安住の地を与えることを約束しよう!」
俺は建国宣言と同時に勧告も告げた。勧告はついでだ。あわよくば、一人でも多くの領民を獲得出来れば……と、淡い期待しか抱いてはいない。
伝えるべきことを果たした俺は支配領域へと帰還するのであった。
◆
「反応はどうだ?」
支配領域に戻った俺は情報統括部――タスクの住処へと足を運んだ。
「厳しいっすね」
「厳しいとは?」
「一瞬っすけど、SNSに『アスター皇国』の名前は出たっす。でも、速攻で削除されたっす」
「テレビや動画配信サイトは?」
「地元ローカルも含めて……露出は0っすね」
俺の問い掛けにタスクは肩を竦めながら答えた。
「宣戦布告と捉えられた……とか誤認情報もなしか?」
「ないっす。今回のシオンさんの行動そのものが存在しない形っすね」
「まぁ、いい。SNSに一瞬でもあがったのであれば……俺の宣言は届いていたという証明にもなる。地道に続けるしかないな」
「何かあったら連絡するっす」
俺はタスクの住処を後にするのであった。
自室へと戻った俺は『ラプラス』起動専用端末となったスマートフォンを取り出した。
何か有益な情報は落ちていないかな。
ラプラスにログインした俺は『上級魔王の集うスレ』を覗き込む。
313 名無しの上級魔王 ID:0027
この中にときかま☆っているのか?www
314 名無しの上級魔王 ID:0115
ときかま☆ってなんだ?
315 名無しの上級魔王 ID:0027
は?w ときかま☆知らないとか、イイコは本当に上級魔王かよ?www
316 名無しの上級魔王 ID:0115
相変わらずムカつく野郎だな
317 名無しの上級魔王 ID:0027
は?w 野郎とかwww 俺様が幼女の可能性を捨てるなwww
318 名無しの上級魔王 ID:0031
このやり取りは何回目ですか……。
それで、ニーナさん『ときかま☆』って何ですか?
319 名無しの上級魔王 ID:0027
は?w マジでわかんねーの?www
320 名無しの上級魔王 ID:0007
ニーナいい加減にしなさい
321 名無しの上級魔王 ID:0027
教えてやるかwww
『ときめき☆かおす☆まおう』。略して『ときかま☆』だろjk
322 名無しの上級魔王 ID:0115
何だ? そのキラキラした痛いネームは
323 名無しの上級魔王 ID:0159
『ときめき☆かおす☆まおう』は『十三凶星』のことですよ
324 名無しの上級魔王 ID:0027
イッコク、ネタばらしがはえーよwww
325 名無しの上級魔王 ID:0007
このスレッドに参加出来る資格のある魔王であれば『十三凶星』の可能性は高いですね
326 名無しの上級魔王 ID:0159
現在参加者は9人。全員が『十三凶星』でも不思議ではありませんね
327 名無しの上級魔王 ID:0027
本当にここにいる全員がルールを守っているならなwww
328 名無しの上級魔王 ID:0007
ニーナ、その話題は禁止だと決めたはずですよ?
329 名無しの上級魔王 ID:0027
はいはいwww で、この中に『十三凶星』様はいるのか?
330 名無しの上級魔王 ID:0115
バカか。例えそうだとしても、言えるわけねーだろ!
331 名無しの上級魔王 ID:0031
下手に身元を喋ったらアカウントが凍結されますからね
332 名無しの上級魔王 ID:0027
つまんねーなwww
一人だけ……『十三凶星』だと確定している奴がいるけどなwww
333 名無しの上級魔王 ID:0013
あのタイミングで統治を仕掛けたら、バレるわな
334 名無しの上級魔王 ID:0007
その件については、私でも擁護は無理ですね
スレッドを流し見していた俺の顔に冷や汗が垂れる。この様子だと、ID0536の正体が俺であることはバレているな。
335 名無しの上級魔王 ID:0536
それで、俺以外(・・・)に『十三凶星』はいるのかな?
336 名無しの上級魔王 ID:0027
お?w 噂をすればサブローちゃんじゃねーかwww
337 名無しの上級魔王 ID:0007
仮に私が『十三凶星』だと申告したら、サブローは信じますか?
338 名無しの上級魔王 ID:0536
どうだろうな
339 名無しの上級魔王 ID:0007
それが答えです。証拠を示さないと信じない。しかし、証拠は示せない。
340 名無しの上級魔王 ID:0027
証拠を示す気もねーけどなwww
ニーナの煽り文句に苛つきながらも新たな書き込みを読み込もうとすると――
『Error。お探しのスレッドは存在しません』
――?
その後、ラプラス内の掲示板を検索するが……上級魔王スレが全て削除されている。
俺の発言が規約違反に触れたのか?
何やかんやで、あのスレッドを眺めるのは好きだったのにな……。アカウントが凍結されなかっただけでもラッキーなのか?
妙な喪失感に囚われていると、手にしていたスマートフォンからメールの受信を知らせる通知が表示されたのであった。
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