建国準備①
侵略に関する行動方針は定まった。次はいよいよ内政だ。
国か……。大雑把な脳内イメージは完成している。しかし、そのイメージを実現するためには、やるべきことは山ほどあった。
配下や領民に対して絶対的な命令権をもつ立場にあるとは言え――一人では無理だ。手助けがいる。いつもなら、話し相手兼検索ツールのカノンに頼むことが多いのだが……カノンの最優先課題は知識をAに成長させることだ。次に頼りにするのはヤタロウだが……現在、敵に侵略される可能性がある支配領域の数は34。その全ての管理を一任しているので、これ以上負担は増やせない。
となると……新たな人材を発掘するか。
とは言え、俺は配下の戦闘シーンはよく見ているが、それ以外の配下や領民の様子などほとんど知らない。つまり、どれだけ悩んでも問題は解決しない。なぜならば、解決に導く答えが俺の引き出しにないのだから。
時は金なり。悩んでいる間にもCPは回復し続け、生死を争う敵たちは成長し続ける。
解決方法は簡単だ。自分が答えを知らないのなら、誰かに聞けばいい。
俺はスマートフォンを操作して、カノンやヤタロウを始めとする眷属たちからヒアリングを始めたのであった。
ヒアリングを実施した結果――候補は二人に絞られた。
絞られた? 誰が一人と決めた? 二人ともに手伝わせればいいのでは?
と言う訳で、俺は二人の人類を俺の部屋へと呼び寄せた。
「し、失礼します……」
「
部屋に現れたのは、挙動不審でオドオドとした態度の三十代の男性と、上品な雰囲気を醸し出す60代の女性だ。
オドオドとした態度の三十代の男性の名はソウスケ。リナの次に俺の眷属となり、今では土いじりの日々に明け暮れる人類だ。ソウスケを推薦したのはカノン。理由は、魔物と人類の橋渡し役になり得ると言われたからだ。
田村昌子は能登奥を《統治》した時に領民になった人類だ。推薦したのはコテツ。田村女史は元々小学校の校長先生で、周囲の人類からの信望が厚く、領民である前は穏健派で知られた人物であった。
俺は二人に用意した椅子に座るように勧め、本題を切り出す。
「二人を呼んだのは他でもない。これから行う内政――支配領域の改革に力を貸してくれ」
「あ、あっしがですか!?」
「あら? こんなお婆ちゃんが魔王様のお役に立てるのかしら?」
俺の言葉にソウスケは動揺し、田村女史は柔和な笑みを浮かべる。
「まずは俺の考えを二人に伝える。俺の配下となった人類――領民には働いてもらう。具体的には、農業、工業、建設、そして戦闘だ」
「働かざる者食うべからずと言う訳ですね」
「あ、あっしは農業を希望します!」
俺の言葉に田村女史は淀みなく答え、ソウスケは慌てて自分の希望を告げる。
「農業、工業、建設はどちらかと言えば、俺の為ではなく、自分たちの為だ。最終的に。支配領域を防衛する者、そして侵略する者をバックアップ出来る体制にするのが目標だ」
俺の言葉に二人は無言で耳を傾ける。
「これを成し得る為には、領民を適材適所に配置する必要性が生じる。そこで二人には全ての領民から希望する作業の聞き込みをお願いしたい」
「強引に命令するのではなく、本人の希望を聞き入れる……確かにヤタロウ様の言うとおり、シオン様は配慮の出来る魔王様のようですね」
「領民には自分の食い扶持、住居、快適な生活を確保する為の作業でもあると説明してくれ」
「わかりました」
「了解っす」
俺の言葉に二人は素直に肯定の返事をする。
「人員が足りないようであれば……配下――魔物を派遣する。細かい作業ならゴブリン、力仕事ならオークやオーガを派遣する。ソウスケには人類と魔物の橋渡し役を期待している」
「えっ? そ、そうなんすか!?」
「無理なのか……? 魔物たちには俺から害を及ぼさないように命令はするぞ?」
「い、いえ……ゴブリンたちは慣れたら気の良い連中っす。問題は……」
ソウスケは気まずそうに田村女史へと視線を送る。
「確かに、少し抵抗はありますが……」
「そこは慣れろ……としか言えないな。そして、ソウスケは全力でフォローしろ」
「わかりました……」
「りょ、了解っす」
田村女史とソウスケは不安げ面持ちながらも肯定の返事をした。
「ここまでで何か意見はあるか?」
「シオン様。差し出がましいようですが……2点ほどよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
田村女史は申し訳なさそうに……但しハッキリとした口調で俺の目を見る。
「1つ目ですが、作業にあたるのは、シオン様の支配下にある全ての領民でしょうか?」
「そうなるな。働きもしない者を養う余裕もなければ、義務もない」
「それは……子供も含まれるのでしょうか?」
「子供とは具体的には?」
俺が魔王になったのは18歳のときだ。人間だった頃の認識に照らし合わせるなら……未成年。つまり、子供だ。
「15歳以下の子供です」
「15歳と言うと、中学生か?」
「はい」
「中学生なら作業を手伝うことは出来るだろう」
「出来ますが……子供です!」
俺の言葉に田村女史は強い口調で言い返してくる。
そういえば、田村女史は元小学校の校長先生だったか?
「ならば、俺に何を求める? 学校でも作れと言うのか?」
「はい! 幸い、領民になった者の中には元教師の者も数名います」
「仮にその意見を受け入れたとして――俺のメリットは?」
「教育を受けた子供は将来シオン様の役に立ちます! そして、子は宝です。子供を大切に扱えば、子の親はシオン様に忠誠を誓うでしょう」
「その言い方だと、今は俺に忠誠を誓っていないと……聞こえるが?」
俺は田村女史に対して意地の悪い笑みを浮かべる。
「――!? そ、そういう訳ではありません! シオン様の庇護下に入った領民は、今の暮らしに感謝しております! しかし、支配者であるシオン様が子供も大切にする魔王様であると知れば……領民は更なる忠誠心を誓います! この支配領域が本当の意味で我々の故郷となります! 防衛意識は高まり、環境を良くしようと人々は自発的に――」
「もういい。わかった。田村女史の意見――受け入れよう。但し、授業の内容は一部変更してもらう。農業、工業、建設についての教育、そして戦闘訓練も取り入れろ。それが条件だ」
俺は国を興すと決めた。領民――人材はいずれ人財となり、国を強固にする。子の親の忠誠心が上がるという点も気に入った。
子供の生産性などたかが知れている。故に、俺は田村女史の意見を取り入れ、教育機関を立ち上げることを認めたのであった。
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