歓喜の刻
リナがレベル50に到達してから10日後。
北へと拡大し続けた俺の支配領域は羽咋市――ドワーフ種の魔王が支配する支配領域と隣接にするに至った。
ネットとカエデによる諜報の結果によれば、ターゲットのステータスは錬成B 創造B。支配する支配領域の数は13。人類の定めたハザードランクはA。魔王の目撃情報はゼロであり、支配領域の階層――魔王のレベルも不明であった。
「魔王の目撃情報がないのにハザードランクがAって……守護する魔物が強いのか?」
「えっとですねぇ……出現する魔物がとにかく頑丈で、解放するのが困難なことからハザードランクがAらしいですぅ。但し……」
「但し?」
もったいぶるカノンに先の話を急かす。
「出現する魔物が装備しているアイテムの質が軒並み高いので、仮に強奪出来たら一攫千金に繋がるので、人類からは人気のある狩り場スポットらしいですよぉ」
「はた迷惑な魔王だな……」
「それをシオンさんが言いますかぁ……」
ため息を吐く俺に、カノンがジト目を向ける。
「出現する魔物はドワーフとゴーレムだったか?」
「はい。正確にはドワーフとハイドワーフ。ロックゴーレムとアイアンゴーレムですねぇ。ドワーフは様々な種族に進化出来るので、ドワーフファイター、ドワーフアーチャー、ドワーフナイトなどもいますよぉ」
「要は、ドワーフとゴーレムだろ? 後は、種族を問わないダークエルフとかコボルトか?」
「『ラプラス』によるとドワーフ種の魔王はダークエルフを創造するのにあり得ないCPを消費するらしいので、ダークエルフはほとんどいないかもですぅ」
「ってことは、敵は肉弾戦オンリーの構成か」
「弓は扱えるので、距離はカバーしていますぅ」
俺は、カノンと会話をしながら敵についての基本的な情報を頭へと詰め込んだ。
――ヤタロウ、俺の部屋へ来ることは可能か?
ヤタロウに念話で用事を投げかけると、『今から向かう』と簡潔なメールが俺のスマートフォンに届く。
「待たせたかのぉ?」
10分ほど待つと、ヤタロウが俺の部屋へと姿を現わす。
「サラ、カイン、タカハル……後はイザヨイかサブロウを借りてもいいか?」
俺は現在の防衛の要となる眷属の名前を挙げる。今回は短期決戦を仕掛けたい。リナとクロエの部隊の他に、俺自身が部隊を率いて侵略するつもりだった。
「サラ孃、カイン、タカハルは元より借り受けた戦力。問題ないですじゃ。イザヨイかサブロウとなると……有事になれば呼び戻す可能性もあるがいいかのぉ?」
「構わない。ついでに、補充として――」
「《乱数創造》か!?」
俺の言葉を最後まで聞かず、ヤタロウの目は少年のように輝く。
「……そうだな」
俺は苦笑を浮かべながら頷く。これから俺も侵略に出向く予定だ。侵略中はCPも使えないので、《乱数創造》で一度0にするのもありだろう。
「んじゃ、押すぞ?」
俺はスマートフォンを操作して、《乱数創造》実行の準備をする。後は、《乱数創造》を書かれたタブをクリックすれば完了だ。
「待て! 待つのじゃ!? まだ……魂の準備が!」
俺の言葉にヤタロウは慌てて呼吸を整え、目を瞑る。魂の準備って何だよ……使用されるのは俺のCPでヤタロウには一切影響がない。
「ふぅ……。よかろう。シオンよ……己が指に全魂を込めるのじゃ! 儂も全ての想いをシオンの指先に込めようぞ」
「はいはい」
ヤタロウには約束した月に1回の《乱数創造》以外にもCPが余ったときは褒美として2回の《乱数創造》に立ち会わせている。このやりとりは4回目だ。俺はヤタロウの言葉を軽く聞き流す。
「シオン!」
「……了解」
ヤタロウの言葉を軽く流すが、鬼気迫るヤタロウの言葉に俺はため息を吐きながら、指先に全神経を集中させる。
「いくぞ?」
「……うむ」
静まり返った空気の中、俺はスマートフォンの画面に人差し指を押し込む。
地面に光り輝く五芒星が出現――光の中から小柄な人影が姿を現わした。
「キミがボクの主かな? よろしくね」
創造された新たな配下――身長160cmほどの大人しそうな色白の中学生くらいに見える少年は流暢な日本語で俺へと挨拶をする。
「ん? 俺の言葉がわかるのか?」
「うん。わかるよ」
日本語を理解出来ると言うことは……ダンピールと同じくBランクの配下か?
俺はスマートフォンを操作して、創造されたばかりの目の前の配下の情報を確認する。
『名前 :
種族 :セタンタ
ランク :C
肉体 :C
魔力 :D
特殊能力:槍技(C)
風魔法(初級)
紫電一閃突き 』
セタンタ……? 聞いたことのない種族だ。
「SSRじゃ……。間違いなくSSRじゃ……」
ヤタロウは全身を震わせて、恍惚とした表情を浮かべている。
「カノン?」
「は、はい……」
カノンもセタンタの存在に驚いているのか、呆然としている。
「セタンタって種族は知っているか?」
「セタンタ……ですかぁ? 残念ながら知りません……」
カノンは創造Bで創造出来る全ての配下の情報を網羅している。そのカノンが知らない種族と言うことは……
「ユニーク配下か」
俺が《乱数創造》を習得したのはいつ頃だったか? CPが余っている時に《乱数創造》は何回か実行していたので、30回以上は実行していただろう。
スライムが創造された時は発狂した。コボルトが創造された時も発狂した。そして、何よりオーガは3回も創造された。これまではすでに配下にしたことがある魔物ばかりが創造されていたので、今回も期待しないで《乱数創造》を行った。
これが物欲センサーか……。
俺は感慨深い気持ちになって、目の前のセタンタを凝視した。
「ヤタロウ」
「……」
「ヤタロウ!」
「――!? ハッ……な、何じゃ!?」
二度目の呼びかけでヤタロウは我に返る。
「こいつはセタンタ。ヤタロウの言うところのSSRだ。大切に育てろよ? 実力次第で、侵略組に編成する」
「りょ、了解じゃ」
こうして、出発前に思わぬ副産物を引き当てたのであった。
「ヤタロウ? 本題に戻るが、イザヨイとサブロウ……どっちを借りてもいいんだ?」
「そうじゃな。このSSR様の攻撃スタイルはどんな感じじゃ?」
「ステータスを見た感じ、槍が得意のようだ。後、風の魔法も使える」
「ふむ……。ならば、サブロウを連れていけ」
「了解。ちなみに、理由は?」
「お預かりしたSSR様は大切に育てる義務が儂にはある。ならば、同じ槍の遣い手であるイザヨイが指南するのが一番じゃろ」
「理に叶った答えだな」
俺はヤタロウの返答に満足するのであった。
◆
ヤタロウがセタンタと共に俺の部屋を後にすると、入れ替わるようにサラ、カイン、タカハル、サブロウ、そしてカエデが俺の部屋に姿を現わした。
「よく来てくれた」
俺は集まった配下に声を掛ける。
「それで用件は?」
タカハルが集まった配下を代表して俺に尋ねる。
「今からここにいるメンバーは、俺と共に18体の配下を引き連れて支配領域の侵略を行う」
「ほぉ……。退屈な防衛から解放されるのか」
「えっ? この変態も? イザヨイっちとの交換を希望したいんですけど」
「ついに我が輩の力が世界に放たれるのですな」
「シオン様のご命令とあれば」
「ん。わかった」
俺の告げた言葉を受けて、タカハルは獰猛な笑みを浮かべ、サラはサブロウへと嫌悪の視線を投げかけ、サブロウは鼻を膨らませ、カインとカエデは素直に従う。
返事の言葉はバラバラだが、誰一人として不安は抱いていない。ここに集った配下たちは自分の力に自信を持っていた。
問題児と呼ぶに相応しいメンバーも数人いるが……ここに集まっている配下の実力は折り紙付だ。
俺は3人の元魔王と2人の特別な眷属。そして、18体の配下を引き連れてドワーフ種の魔王が支配する支配領域へと侵略を開始するのであった。
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