ラプラス④


 《擬似的平和》残り8時間。


 支配領域の微調整をヤタロウに任せ、ヤタロウは配下の性能確認をしている。リナたち侵略部隊には慰労の意味も込めて、豪華な食事と休息を与えた。


 俺が成すべき事は、今後の戦略立案。


 とは言え、今後の行動方針に大まかな戦略に変更はなく、県北――能登半島完全支配が当面の行動方針となるので、特に時間を費やして悩む必要は無い。


 強いて知りたい情報があるとすれば……、


「カノン!」

「はぁい」


 俺はカノンを呼び寄せると、カノンは当たり前のように俺の肩へと座る。


「近隣でドワーフ種の魔王……しかも錬成特化の魔王がいないか調べてくれ」

「さっきのヤタロウさんの話ですねぇ?」

「そうなるな」


 ヤタロウ曰くドワーフはアイテムを錬成、強化出来るらしい。ならば、ドワーフ種の魔王ならば、配下にしても錬成が出来る可能性は高い。俺が錬成するよりも質が高く、CPの節約にも繋がるのであれば、是非とも配下に迎え入れたい。


「シオンさん?」

「何だ?」

「情報収集に眷属にした人類も使っていいですかぁ?」

「土いじりをしているあの連中か?」

「はい。ゴブリンさんとかは機械を使うのが苦手なので……」

「別に構わないが……奴らがスマホを触る前に、俺に連絡しろ」

「はぁい」


 眷属にして配下にした人類や、カノンやヤタロウの様に《降伏》によって配下にした元魔王は、俺の命令には逆らえず、生殺与奪権も俺の手中にあるが……自由意志がある。外部との連絡が出来るツール――スマートフォンを渡すのはリスクが生じる。人類への密告や本人には悪気の無いSNSへの暴露などを事前に防ぐ必要があった。


 カノンから連絡を受けた俺は、人類へと命令を下した。


 ――カノンから指示された用途以外でのスマートフォンの操作を一切禁じる!


 これで、奴らは検索以外の操作は一切出来なくなる。


 本当に人類を配下にすると苦労しか生じない……。眷属にするための苦労に対して、割が合わないと感じるのであった。


 カノンに指示を出した俺は、余った時間を『ラプラス』に費やすことにした。


 スマートフォンを操作して、『ラプラス』にログインをする。


 『シルバー』会員になり開示された情報は、『ブロンズ』会員の時と比べて倍以上に増えていた。


 例えば……種族別の創造出来る配下の一覧が開示されていた。試しに『吸血種』の項目を選択すると、Bランクで創造出来るようになった『ダンピール』も記載されている。『龍種』と『堕天種』は、『情報をお待ちしております』と記載されており、相変わらず謎めいていた。他にも、錬成Bまでで、錬成出来るアイテム各種が種別で開示されていたり、ステータスのランクが上がるのに必要なBPなども開示されていた。


 カノン――知識特化の存在意義は……?


 俺がカノンだったら、泣いていた。『ラプラス』を作成した管理人を憎悪しただろう。


 ――?


 何気なく、目にとまったステータスをBからAにランクアップさせるのに必要なBPを、二度見する。


『ランクアップに必要なBP。


 E→D 2

 D→C 5

 C→B 10

 B→A 30      』



 B→Aにランクアップする為に必要なBPは、カノン曰く50だよな?


 俺はカノンのスマートフォンに電話を掛ける。


『はぁい。何でしょうかぁ?』

「ステータスのランクで、BからAにランクアップさせるのに必要なBPは?」

『50ですよぉ』

「間違いないか?」

『はい。知識をBに成長させた時に得た知識ですよぉ』


 俺はカノンとの通話を終了させる。


 『ラプラス』に記載されている情報と、カノンから得た情報に差異が生じた。どちらが正しいのだろうか? ……カノンだよな。


 カノンの生殺与奪権は俺が握っており、俺のミスはカノンの生命の危機に直結する。


 『ラプラス』には虚偽の情報も記載されている……? 『ラプラス』の信頼性が一気に傾いた。


 俺は『ラプラス』に記載された情報を事細かく確認する。


『当サイトの情報は会員様より寄せられた情報となります。真偽に付いては一切の責任を負いません。虚偽の報告を発見された会員様は、虚偽の情報が記載されたページの下部にあるコメント欄にご記入願います。管理人が確認後修正致します』


 他には……


『故意に虚偽の報告をされた会員様、もしくは他者を貶めようとした情報を発信した会員様はアカウントを凍結させて頂きます。上記は、他の会員様の通報によって精査させて頂きます。上記の件がございましたら、管理人までメッセージをお願いします。尚、虚偽の通報も同様にアカウントを凍結致します』


 ここの管理人、性格悪いな……。


 ステータスのランクをB→Aに成長させるBPが誤っていると気付いた会員は、全員が閲覧出来るコメント欄にその旨を書き込む必要がある。もしくは、管理人に通報する必要がある。


 俺は、B→Aに成長させるBPの情報が虚偽であると知っている。しかし、それを全員が閲覧出来るコメント欄に書き込むか? と言われれば、答えは否(ノー)だ。わざわざ敵に、正しい情報を教える必要はない。同様に通報をする気もない。


 仮にBP30まで振ってAにならない魔王がいたらどうなる?


 怒り狂うだろう。但し、この情報は虚偽だ! と申告するだろうか? 俺なら、同じ過ちする魔王が現れることを期待する。自分一人が騙されるというのは癪だからな。


 何より『ラプラス』のたちが悪いのは、真実95に対して虚偽が5ほどしか混ざっていない。虚偽は判別しづらく、真実も多いので知識B未満の魔王から見たら有用なサイトなのだ。


 後でカノンに『ラプラス』に記載された情報の精査をさせる必要があるな。


 俺は虚偽が混ざっていると言う時点で、情報の閲覧をやめた。そして、『ラプラス』に参加した本命――掲示板を覗くのであった。



 ◆



 スレッドの数多いな……。ヤタロウから100以上と聞いていたが、過去スレッドを合わせれば、100は優に超えていた。


 書き込み数が一番多いスレッドは――『魔王総合スレpart276』。他にも、種族別のスレッド『魔王(吸血種)総合part13』。支配領域の数によって棲み分けられた『上流魔王の集うスレpart1』、『中流魔王の集うスレpart3』、『【俺たちの戦いは】底辺魔王が集うスレpart67【これからだ】』。ヤタロウお勧めの『【排出率】乱数創造part42【表示しろ】』や、『妖精種を愛でるスレ』、『配下と結婚してもいいよな?』などの変わり種のスレッドなど、様々なスレッドが乱立していた。


 注意事項を見ると、掲示板への書き込みは自由。但し、相手及び自身の特定を匂わせる書き込みは禁止されていた。


 特定を匂わせる書き込みは禁止……? 魔王同士が結託するのを防止しているのか?


 全部のスレッドに目を通す時間はない。


 俺は、参加者の多そうなスレッドを選び閲覧を始めるのであった。


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