待望の話し相手


 選抜した配下に新たな命令を下した俺は、次なる作業――BPの割り振りを始めることにした。


 現在の俺のステータスは――、


名前:シオン

 適正:カオス

 種族:魔王

 LV:2

 CP:200

 肉体:E

 魔力:E

 知識:E

 創造:D

 錬成:B

 BP:6

 特殊能力:魔王

      支配領域創造

      配下創造

      アイテム錬成

      闇の帳


 E→Dに成長させる為に必要なBPは2。D→Cに成長させる為に必要なBPは5。C→Bに成長させる為に必要なBPは10だ。


 昔の――人間であった頃の俺であれば、性格上BPは使わずに貯めていた。


 振り直しが出来ないのであれば、ある程度の情報を得てからBPを振り、理想のビルドを形成する――これが、理想だ。


 しかし、今は自身の生死が賭かっている。


 強化の出し惜しみは出来ない。


 人類は支配領域の情報を纏めたまとめサイトや、新たな世界のルールをまとめたサイトを幾つも作り、情報収集に励んでいた。


 魔王にも、そのようなサイトは無いのだろうか……。


 『魔王育成まとめサイト』……作るか?


 誰が書き込む? 魔王? 相手が魔王であることの確証は得られない。挙げ句にネットに晒せば、こちら側の情報が人類に曝け出されてしまう。


 魔王限定で、パスワード制にすれば……? どうやって、他の魔王にパスワードを伝えるんだ?


 無い物ねだりをしていても、仕方が無い。結局は自分で検証するしかないのだ。


 俺は改めてステータスが表示されたスマートフォンの画面を確認する。


 保有しているBPは6。BPを温存しないとなると、振り方は2種類に絞られた。


 ケース1――肉体、魔力、知識にBPを2振って、それらをE→Dに成長させる。


 ケース2――創造にBPを5振って、D→Cに成長させる。


 ケース1は自己強化へと繋がり、ケース2は戦力強化へと繋がる。


 悩んだ結果、俺は後者――ケース2を選択した。


 人類が俺まで辿り着かなければいいんだろ? と言うのが、選択理由であった。


 俺はスマートフォンを操作して、創造のタブを5回連続でタップ。創造は予想通りD→Cへと成長した。


 続けて、新たに創造可能となった配下を確認する。


 オーク――ランクD。半豚半人の魔物。簡単な道具を扱うことが出来る。知識は低いが、力に長けている。同族の仲間と連携を取ることは出来る。創造CP:20。


 ダークエルフ――ランクC。エルフと魔物との間に生まれたエルフの混血種。手先が器用で魔法を扱うことも出来る。エルフからは忌み嫌われる存在。創造CP50。


 新たに増えたのは2種族だった。


 今、俺の顔を見たら、相当ニヤけているだろう。


 なぜならば! 待望の配下! ダークエルフ=話し相手が創造可能になったからだ!


 グッバイ。俺の孤独の日々……。


 ネット上で会話チャットはしていたが、やはり直接話せる相手は必要だ。


 これで、対話不能だったゴブリンに話しかけ『ギィギィ!』と返された意味不明な返事に、笑顔で頷くこともなく、同様にコボルトに話しかけ『バウッ!』と吠えられる、悲しい日々とオサラバ出来るのだ。


 俺は、期待に胸を膨らませ、ダークエルフを創造する。


 目の前の地面に六芒星の輝きが現れ、地面から生えてくるように人影が姿を現した。


 現れた人影は、浅黒い肌の短く揃えた白髪の女性だった。女性は、エルフの名が示すとおり、耳の先端が尖っていた。


「は、初めまして……魔王のシオンでふ」


 ……噛んだ。俺は久しぶりの会話に緊張し、噛んでしまった。


「※※※※※」


「へっ?」


 俺はダークエルフの発した言葉が上手く聞き取れず、間の抜けた返事をする。


「※※※※※」


 ダークエルフは日本語とも英語とも違う、聞いたことのない言葉を再び発する。


「まさかのエルフ語? 翻訳機能とか無いの……?」


「※※※※」


 悲しい事実に驚愕し、首を傾げる俺を見て、ダークエルフも悲しげな視線を俺へと向ける。


「ダークエルフは人語を話せるのじゃないのかよ!」


 匿名掲示板のガセ情報に踊らされた俺は、やり場の怒りを言葉に代えて叫ぶのであった。



  ◆



 待望の話し相手は――出来なかった。


 いつまでも落ち込んでもいられない。俺は気を取り直して、オークを創造。


 オークには鉄の槍と鉄の防具一式を、ダークエルフには黒鉄の弓と黒鉄の防具一式を装備させた。


 その後、恒例となった戦力を確認するための模擬戦闘を実施。


 同じDランクであっても、コボルトよりもオークの方が強いことが分かり、ランクCのダークエルフは、コボルト3匹と戦い勝利を収めるほどに強いということが分かった。


 新たな配下を確認した俺は次なる作業――支配領域創造へと移るのであった。

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