経営学を学ぶ大学生、安芸島かおる
経営学を学ぶ大学生、安芸島かおる 1
「おい、
「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな……」
倒れて
「……ひぃッ!」
「ホラ、起きなさいよ。いつまでもイジイジしてんじゃないわよ~。これから帰るんだから」
富賀河はゆっくりと起き上がる。
「帰る……だと? 日本にか?」
「メ―ブルトンよ。メ―ブルトンに帰るの!」
「は?」
――メ―ブルトンに帰る? 何を言ってるんだ、コイツは。この家がある場所が確か、メ―ブルトンだっただろうが。
「カオル。多分、富賀河はよく判ってないな」
「あ、そうか」
安芸島は室内で歩を進めると、ドアの前に立った。トイレに続くドア。
だが、安芸島が開け放ったそのドアの先は、富賀河が当然あるものと思っていた光景とは全く異なっていた。
黒一色。同時に、室内に吹き込む冷たい風。
「……は?」
富賀河は、ふかふかの絨毯の上、ハイハイでドアの近くまで寄っていく。
「ど、ど、どうなってんだ、これは……」
ドアの先、うっすらと木立の影が広がっている。これは、外だ。富賀河の顔に当たる風が、彼の肌の乾燥を早める。
ドア枠から顔を出して、富賀河は下を
地面からドアまでは二メートル近くはあろうかというほどに離れている。そして、右手からは唸るような、エンジン音。
トイレの部屋など、どこにもない。
「ここはタラポーザの郊外。ジョージア州とアラバマ州ってところの州境近く。私たちはコンテナハウスの中、今はアラバマ州側にいるのよ」
「アラバマ州……だと?」
アメリカの州の位置関係など全く知らない富賀河は、
「この様子、やっぱり判ってないな」
「はぁ……いい? ジョージア州とアラバマ州は同じアメリカだけど、東部標準時と中部標準時で一時間ズレるの。これが何を意味するか、分かる?」
「……一時間、ズレる?」
富賀河は背後、室内の壁掛け時計を見上げた。
現在、零時五十九分。もうすぐ深夜一時、というところ。
「まだ、ここアラバマ州は、一月三十日。……ケータイの時間同期も終わってるね、ホラ」
【一月三十日 二十三時五十九分(CST)】
安芸島が富賀河に差し出したスマホ画面。日時表示は安芸島の言の通り、一月三十日を示している。
――待てよ。ということは……。
富賀河は胸の中のつかえがスルスルと口から出てくるような心持ちを感じた。
「まさか、あの『規制法延期』の仕掛けは……」
「そう。この一時間のズレと組み合わせてるのよ~」
「さすがカオルだよな~。こんなの俺には絶対ムリ」
「えへへ。もっと褒めて褒めて~」
富賀河はじゃれつく二人を
「勝負はもうついたんだ。どうやってもお前の大事な金は戻らない。おとなしくしてろよ」
全財産を失った敗北の衝撃と、予想外にドスの利いた安芸島の言葉にうちのめされたその後の富賀河は、メ―ブルトンを経由し、飛行機で日本に帰り着くまで一切口を利かないままだった。
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