毟り取る男、富賀河透流 11
『ダウト、レディ!』
賭け額五千万の「ダウト」ゲーム、開始。
ポーン
ハイトーンの少女の声の後、すぐに入室音が響いた。
例のごとく、「観戦者」として安芸島が入室したのだろう。
富賀河は自分の手元に目を落とす。
スマートフォンの画面では、「マイライ」の入力エリアのカーソルがチカチカと
――ここで、ヤツの「ウソ」が「ウソ」であることを確定させる。そうすれば、
富賀河は「アプリ規制法の施行は延期されていない」と入力した。だが、「マイライ」確定の「OK」ボタンをタップしようとした富賀河の手が止まる。
――これはマズい。
ヤツの「ウソ」……「規制法延期」が確かに「ウソ」だった場合、俺が入力したコレは「真実」ということになる。それがマズい。
「ダウト」の「マイライ」で本当のことを入力すると、システムボイスが注意してくるからだ! 「ダウト」アプリはミュートにできないから、このままこれを判定にかけたらシステムボイスをヤツに聞かれる。
その声はヤツを不審がらせてしまうんじゃないか? 俺が何かしてるんじゃないかと、変に
――仕方ない。
富賀河は「クリア」ボタンで入力した内容を消すと、「アプリ規制法の施行は延期」と入力し直し、「OK」ボタンを押した。
画面が切り替わり、「準備中」の黒文字と、画面隅の「リタイア」ボタンが白一色の背景に乗って写しだされた。富賀河が入力した「マイライ」は「ウソ」としてAI判定を通過したのだ。
――やっぱり「ウソ」だったか。そして……俺の勝利は確定した!
富賀河は笑いがこみ上げてくるのを
――直前にあんな印象付けをするくらいだ。ヤツはゲーム開始後すぐにこの「マイライ」を言ってくるだろう……。話題としても出しやすい! そこを突く! 勝負はすぐ終わる! 俺が勝つ! 五千万は俺のモンだ!
堪えよう、堪えようとするも、富賀河の肩が小刻みに震える。
――ヤバい、ヤバい。我慢しろ。我慢しろ……。ゲームが始まって、ヤツが「マイライ」を喋るまで、我慢しろ……。
『ダウト・スタート!』
必死に筋肉を硬直させ、身体の震えを抑える富賀河。その愉悦の震えに拍車をかけるように、ゲームの開始を告げるシステムボイスが三つのスマホから発せられた。と同時に、富賀河は身体に微妙な揺れを感じた。
ドンッ
不意に叩きつけるような音がしたので、テーブルの向こう、剣ヶ峰の方を富賀河が
そこには、不可解な光景が広がっていた。
剣ヶ峰が椅子に背中をもたれかかせ、テーブルに両足を乗せている。先ほどの音と振動は剣ヶ峰がテーブルに足を上げた瞬間のものだ、と富賀河には判ったが、その態度には理解が追いつかない。
「剣ヶ峰サン……アンタ?」
剣ヶ峰は大きなため息をつきながら、苦しかったと言いたげに第一ボタンを外す。これまではお坊ちゃんらしく、なんならズボンにスソを綺麗に収めていたシャツも着崩し始めた。
「あ~……や~っと、メンドくさい演技もしなくてよくなったぜ。肩も
言いながら、いかにも気だるげに頭をグルグルと回す剣ヶ峰。
「や~ん! 揉んであげるよ~、ダーリン!」
「サンキュ! カオル」
安芸島が剣ヶ峰の肩に両手を置いて揉みしだき始めた。
「……は?」
「どうした、富賀河。ハトが豆鉄砲喰らったみたいな顔して」
「剣ヶ峰……お前……」
「そう、剣ヶ峰。俺が剣ヶ峰だ。トイレで顔を突き合わせた仲だろ? 男同士、腹割って、ゆっくり話そうぜ」
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