毟り取る男、富賀河透流 2

――おいおい……。本当にアホかよ。


 富賀河ふかが剣ヶ峰つるぎがみねからのメッセージを受け取ると、すぐさまインターネット・バンクの口座を確認した。メッセージの内容通り、富賀河の口座に五十万もの金が振り込まれている。


『……「パーティー」ですが、一月二十九日に十七時三十分成田発のガンマ航空、アトランタ直行便にお乗りください。到着空港では当方で用意したタクシーをつけておきますので、ホテルまで直行できます。現地時間、三十日の午後三時にホテルにお迎えにあがりますので、それまでは観光などご自由にお過ごしください。到着後すぐにお迎えできなくて申し訳ありません。費用足りないようでしたらまたご連絡ください』


――たった一回会っただけの人間にこうも簡単に五十万ものカネを……。お坊ちゃんはいいねぇ……。


 先週にも、富賀河が「パスポート発行に金がかかる」と短いメッセージを送っただけで、翌日には口座に金を振り込んできた剣ヶ峰なのである。


――なんてゆるい財布のひもだ。その中身、ゴッソリ頂くか。


 富賀河は、垂れ流しにしていたテレビ画面に目を移す。画面上、夕方のニュースを放映していた。


『……来週、二月一日より施行が開始される「電子ソフトの個人間取引に関する規制法」ですが、これを機にゲームの利用をやめる、というユーザーがあふれています。町の声を聴いてみましょう……』


 画面では、眼鏡めがねを掛けた若いサラリーマンが、「気軽に楽しんでたんですけどね。しょうがないです」などと笑いながらインタビューに答えている。


――これが最後だ。……最後の祭りにしてやる。


*****


【一月二十九日 十六時十二分(EST)】


――二十九日の夕方五時に日本を出たはずなのに今は二十九日の夕方四時か。時差ってのは訳がわかんねえな……。


 富賀河はスマホで時刻を確認すると、辺りを見回した。

 彼は現在、スーツケースをかたわらに置きながら、ハーツフィールド・ジャクソン・アトランタ国際空港のノース・ターミナルに立っている。

 周囲は行き交う人々が多く、それも外国人ばかりなので、人見知りのしない富賀河でも少し腰が引けてしまっている。


――黒塗りの車、そのそばで俺の名前を掲げている男……か。


 剣ヶ峰から事前に教えられていた迎えの車の情報を頼りに、ターミナルの車寄せのそばを歩いていく。

 しばらくして、富賀河はそれらしい車を見つけた。「富賀河様」と明朝体が印字されたプレートを掲げる、これもまた外国人。


――自分の名前をあんな風にさらされんのは、イヤなもんだな。


「あーと……ヘイ。アイム、富賀河」

「あ、日本語で大丈夫ですよ。お待たせしておりました」


 外国人ながらに流暢りゅうちょうな日本語ではあるが、「お待たせしておりました」はちょっと違うな、と思いながら富賀河は車に乗る。

 緩やかに揺られる乗り心地と、押し黙って無駄話のない運転手。富賀河は、異国の地に来たという不安がいくらか和らぐのを感じながら、アトランタ市内のホテルまで送られた。

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