依頼主、三ツ路桜音
依頼主、三ツ路桜音 1
「って、聞いてます? 二人とも」
「はい、ダーリン! 今度はダーリンの嫌いなトマトだよ」
「えぇ~……。食べらんねーよ」
「食べなきゃ大きくなれないよ。はい、あーん……」
「あぁん……ん。不思議だな。カオルに食べさせてもらうと、この赤い悪魔も美味くはないけど不味くもない」
「やったぁ」
「きっと、カオルの想いが詰まってこんな赤くなっちまったんだな」
「やーん……ダーリン、詩人。……ベストオブ詩人」
「はぁ~……」
二人のイチャつきに三ツ路は深いため息を
「ふふ。ダーリンのモグモグ顔、可愛いよね~」
「私、こんな光景を見せられるために来たんじゃないですけど……」
「……んぐ、ちゃんと聞いてるよ。三ツ路さん……だっけ」
過剰にイチャつく、目に毒なバカップル。その片割れの整った顔立ちを直接向けられ、彼女は少しドキリ、とした。
「男に振られた、って話だよね?」
「……違いますよ」
「ダーリン、ちゃんと聞いてないとダメだよ? 桜音ちゃんはカオルの大事なお友達なんだから」
「って言ってもなあ……」
剣ヶ峰はソファの背にもたれかかると、ひとつ伸びをした。その動きに伴って、剣ヶ峰が着ている作業ツナギの柔軟剤の香りだろうか、三ツ路の鼻先をミントの匂いが
「ウチは見た通り、『なんでも屋』だけどさぁ。小難しいことは、まあ専門外なんだよね」
「主なお仕事はおじいちゃんに頼まれて買い出ししたり、おばあちゃんに頼まれて水道の詰まり直したり、だものね。せっせと働くダーリンは輝きが三倍増しだよ」
「まあ、カオルありきだよな。この道楽仕事も」
三ツ路には使い
三ツ路の見識ではこの事務所が、「見た通り」の「なんでも屋」には見えない。町の工務店なのではなかろうか。
「……『なんでも屋』の『なんでも』は何でもやるよ、じゃないんですね」
「何でもやるよ?」
剣ヶ峰はムッとした表情で、そのハスキーボイスをこもらせる。
「なんでも」はやらない――とは先ほどの剣ヶ峰自身の言葉である。にもかかわらず、三ツ路の言葉がどこか気に障ったようだった。
「じゃあ……考えてみてくれますか?」
「でもなあ……ギャンブルの後始末ってのはなあ……」
「なんだぁ、ダーリン……ちゃんと聞いてたんじゃん」
「だから、聞いてるって言っただろ。要は、ちょっとカッコのいい男の口車に乗せられて、そいつ相手にゲームでホイホイと金を使っていたら、いつの間にか三十万も消えていた、ってことだろう? 自業自得じゃないか」
「自業自得……かもしれないですけど……」
「……けど?」
三ツ路は口に運んでいたコーヒーカップを置くと、ソファーの上で
「その男……
「……おかしい?」
三ツ路が
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