親に捨てられ知らない土地で一人暮らしするはずだったんだけど、どういうわけかギャルな美少女が転がり込んできたので二人暮らしになりました。

403μぐらむ

断つ者、越える者

第1話

新作です。よろしくお願いいたします。本日公開二話中の一話目です。

二話目は二三時頃の予定となります。が、二四時過ぎても許してね。


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「お願いがあるの。君方きみがたくん、わたしをここに住まわせてください。なんでもするから……君方くんはわたしのことを好きに扱っていいから、ここにわたしをおいて……お願い」


 今日初めて会った同級生の女の子から泣きながら土下座されてお願いされるようなことを俺は何かしたのかな?

 俺は昨日ここに引っ越してきたばかりだけどこっちの方ってこういうのが普通なのかな?

 絶対に違うよね?




 ★+。。。+★+。。。+★+。。。+★+。。。+★



 今日から俺は一人で暮らし始める。


 俺は郊外に向かう電車に揺られ、独り車窓を見るでもなく眺めている。窓の向こうのマンション群は都心のそれと違い、中層マンションぐらいのものが多い様に見えた。

 鉄橋の架けられた狭い川の土手は菜の花が咲き乱れ黄色い絨毯のようだ。

 夕日を背にして畑を耕す耕運機の姿もあれば、線路脇に雑木林だってある。


 千葉に住んでいた頃はこれに似たような風景が日常だったけれど、中学三年生に上がるときに都心の学校に転校したため最近ではむき出しの土なんて殆ど見なくなっていた。


 両親は顔を合わせれば勉強をしろ、いい学校に進学しろ、遊ぶな、なまけるなと俺に言うようになりすっかり人が変わったようになってしまった。いやアレが本性なのだろう。

 俺を社会的なステータスを現す道具のようにしか思っていないような態度しか取らなくなったが、次第にそういった顔さえも見せなくなった。


 何時の頃からか両親二人ともにごく偶にしか自宅マンションに帰ってくることが無くなっていた。なんとなく二人が別々に何をしているぐらいは気づいていたけれど、俺にはどうすることも出来なかった。


 二人の顔をほぼ見なくなり、親から月初めに俺の口座に生活費が振り込まれるのが当たり前になってきた頃、気がついたら俺は高校生になっていた。

 両親の望んだ通り都内有数の進学校に入学することは出来たのだが、俺は全く嬉しくなかったし、両親もそのときには既に俺に関心が無くなったようで特に何も言ってこなかった。


 その年の暮れが近くなって母が妊娠した。その腹の子の父は俺の父ではない。

 相次ぐように父のパートナーの妊娠も発覚した。もちろん俺の母のことではない。


 それは両親双方とも不貞ふていをはたらいたうえ、今までの家庭を捨てる気が満々の行動としか言いようがなかった。そして正にそれを望んだかのような双方の妊娠発覚に俺一人だけが唖然とする。


 さて、そうなるとどちらから見ても邪魔になるのが俺という存在。


 父も母も自らの親権の放棄を希望し、俺の押し付け合いを始めた。

 そう、俺は実の両親に不必要な子供と認定された。簡単に言うと捨てられたのだ。俺の居場所はもうどこにもなかった。


 ああ、どちらも俺のことを相手に押しつける気だったとはね。クソ。


 両親のそれぞれがそれぞれを相手取った離婚訴訟合戦は喧嘩両成敗でえ無くドローとなった。

 そして第二ラウンドでくだらない俺の押し付けあい訴訟合戦がまた始まりそうだったので、俺も弁護士を雇って参戦した。




 結果。俺圧勝。




 当たり前。子供の人権云々にうるさい弁護士を見つけたからね。あいつマジうるさい。まあ、今回は味方サイドだから心強かったけれど。


 そのとき俺は実両親を見限り、小さい頃からよく遊んでもらっていたし中二の途中までは格闘技も教わっていた父方の君方誠治きみがたせいじ叔父さんの養子になった。

 ただし、それは書類上だけ。誠治叔父さんには迷惑をかけたくないので法律上の後見人としてだけお願いしてくことにした。

 俺が成人して自由に何でもできるようになったら関係を解消して俺は一人になるつもり。


 一応実両親からは生活費諸々含めて成人するまでの俺へのとして各人一千五百万円ずつ支払って貰った。現金一括で。


 実両親は共に金持ちなので一千五百万円なんてはした金にしか思っていないらしい。一千五百万円で俺との縁が切れるなら安いものみたいな感じ。

 実親の乗っているスリーポインテッドスターなやつのSクラスの方がお値段お高めかもしれない。


 俺も金のことでゴタゴタしたくなかったし、誠治叔父さんにも迷惑をかけたくなかったので早々に結審することを望んでいた。

 三千万円あれば、医科系の大学にでも行かない限り、生きていくには充分過ぎるだろう。





 訴訟のゴタゴタが全て終わった今、俺がいるのは横浜の外れの方にある君方ジムというところ。

 格闘家だった叔父さんがジム経営者の佳子よしこさんのところに婿入りして新しく開いた格闘系のスポーツジムだ。


「お二人にはご迷惑おかけします。今後、保護者欄に名前を書いていただくことが多々あると思いますがよろしくおねがいします」


「ああ、れん。こちらこそ私の実兄が君に非常識過ぎる迷惑をかけたのだ、謝るのは寧ろ私の方だよ」


「いえいえ、あれは俺の父と母ですから迷惑おかけするのは俺です。叔母さんもごめんなさい」


「ん、いいって。気にしないでよ。私達に子供ができなかったら漣くんが本当の子供になってくれてもいいんだよ?」


 そう言ってくれたのは君方佳子叔母さん。誠治叔父さんを婿に迎えたけど未だ跡取りが出来ないと言っていたのを聞いたことがあった。だけど佳子叔母さんはあの俺の実母より若いのだからなんとかなるんじゃないかとも思うよ。


 二人共鍛えまくっているからあっちもすごそうだし……いえ何でも有りません。佳子叔母さんにギロリと睨まれちゃったよ。


「そんなに迷惑かけられないです。でもありがとうございます。もしそんな時が来たらそのときはよろしくおねがいします」


「うん、よろしく。ところで漣……」

 じっと二人に見つめられる。


「な、何でしょう?」

「一応さ、漣。私とこいつはお前の父と母になったんだからさ――書類上とは言ってもね。できれば叔父さん叔母さんではなくて、父さん母さんと言ってくれると嬉しいかな?」


「そうだよ、漣くん。丁寧なのはいいけど、親子の会話に敬語っていうのもちょ~っとおかしいんじゃないかな?」


「…………うぐ……うぐ……」

 声が出なくなる。


「ああああ、ごめん。なんで? 漣くん! なんで泣いているの??」

「うぐ…うぐっ、うれじいんでず……こんなにぼぐのごと……ヒック、お、おふたりが。やさし……く迎えてくれるとは……おもっでながったからぁぁ~」


「ああ、漣。安心していいぞ。私も佳子も漣のことは実の息子だと思っているから、どんどん甘えてこいよ」


「そうだよ、漣くん。こっちおいで」


 二人は俺を強く抱きしめてくれた。本当の両親に抱きしめられた記憶だって無いくらいなのでもしかしたら親にちゃんと抱きしめられたのってこれが初めてかもしれない。


 ジムの奥にある応接室だったからジムの従業員も誰も近くにいなくってよかった。

 ここまで号泣するとは自分でも驚いた。だいぶストレスが溜まっていたのだと思う。実の両親に捨てられてストレスフリーってありえないだろうけどね。




 温かいオシボリと冷たいオシボリを交互に当てて目の腫れを引かせる。


「お父さん、お母さんありがとう。だいぶ楽になったよ」

「そりゃ、良かった。じゃあ、ごめんな。私は予約のお客さんが来る時間だから一足先にさよならだ。向こう行っても無理はしないでいいからな」


「うん。ヤバそうだったら、直ぐに帰ってくるよ」

 別れの挨拶のあと、誠治父さんはジムの方に行ってしまった。


「二時間位で着くんでしょ? 通いは無理でも月一くらいは帰ってきなさいよ」 

「はーい。じゃあ、お母さん。駅まで送っていってくれる?」

「りょーかい」



 横浜駅まで出れば東横線で乗換なしで、今度住む賃貸マンションの最寄り駅に着く。養父母の家に住むっていうのも当然提案されたけど、迷惑かけるし、色々考えることもあって今は無理かな?


 もう少し落ち着かないと自分自身どこに向かっていけるかわからないというのも本音だ。


 今は自宅に向かっているのだけど。


「え? お母さん。近くの駅でいいよ?」

「明日からまた離れ離れになるんだから少しくらいは長く一緒にいたっていいでしょう? 我が息子よ」


「……お母さん。やめて、また泣いちゃうよ」

「あはは。漣くんは泣き虫だな! そこがまたかわいい」


「もう……」

 チョイチョイ揶揄われながらも横浜駅に到着してしまった。


「じゃ、行ってきます」

「がんばって行ってらっしゃい。何かあったら我慢しないで何でも言ってくるんだよ」


「はーい。じゃ」

 佳子母さんは俺の姿が見えなくなるまで手を振り続けてくれた。


 俺はもう藤宮漣ふじみやれんではない。君方漣きみがたれんだ、間違いない。


 いつでも戻っておいでと言ってくれる養父母の言葉はとても心強いが、これに甘えていては俺の中にあるを乗り越えることは出来ないと思う。

 強引で無鉄砲な方法かもしれないけど俺は胸を張ってこれからの生活を送っていこう。






「ところで、東横線の乗り場ってどこにあるのかね?」

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