第17話「試験終演ーーそれぞれの結果」
「いや~、終わりましたねアリーシャ様!」
「師匠お疲れ様」
「終わったね~。もうヘトヘトだよ」
日も暮れた頃。受験を終えたアリーシャ、エミリー、ルークの三人は、ガーレスト学園の一角に位置するホテルへと腰を落ち着かせていた。
世界一の教育機関だけあり、お客も絶えないガーレスト学園は、高級ホテルも経営しているのだ。
ホテルは引退した名のある腕自慢達が輪番で見回りをしており、魔術などで仕掛けたセンサーなども完備。
セキュリティは完璧で各国の首脳も安心して腰を落ち着かせる事が出来る。昔あった城をリノベーションして使用しているため、客室も300部屋と充実していた。
「さてさて、皆結果は分かったのかな?」
「はい! 私は魔法適正皆無でしたが、ラブデインと新しく生み出したラブファイアーを披露したら、ヘソ出し淫乱ビッチに即合格を貰いました!」
「僕も合格しました。強い人が居なくてガッカリです。やはり、師匠は特別だと再認識出来た良い経験です。師匠はどうでしたか?」
「アリーシャ様、中々教えてくれないんですもん」
「うーん、私は……」
普通、受験したら後日の発表になるが、世界一の教育機関のガーレスト学園では即日合格発表がなされる。
各国の令嬢や令息が受験する事も考慮されているのかもしれない。王子や王女も受験しているため、待たせて不合格を伝えると、想像以上の圧力がかかる恐れもあるのだ。
そんな中、エミリーとルークはそれぞれ専門科での合格を果たしていた。後はアリーシャの結果だけ。
この時間まで勿体ぶっていたアリーシャだが、観念したように、これまでの経緯をエミリーとルークに話し始めた。
「なんですってっっ!? あの淫乱ビッチ! アリーシャ様とそんな羨ましい事をっ!! 何故私は魔法適正0なのだ! 私もアリーシャ様の魔力を吸って出して吸って出してしたいのにっ!!」
「僕をその場に呼ばなかった事を後悔しますよ? 僕だって師匠がその女性に魔力を吸って出してされて悦んでいた姿を見たかったのにっ!!」
「二人とも何に怒ってるの……それに、別に喜んでないからね! ただ、初めての体験で変な感じになっちゃっただけだから」
淫乱ビッチこと魔法講師のセクシー美女の件まで話が進んだ所で、突然早口で怒り始めたエミリーとルーク。何故怒っているのか全く不可思議だ。
「初・体・験! なんという事だ……アリーシャ様の初体験を奪われてしまった!! あの淫乱ビッチ! 絶対許さないっっ!!!!」
「見た・かっ・た! なんという事だ……師匠の初体験を見逃してしまった!! 僕のおかずを! 絶対許さないっっ!!!!」
リンクする二人。ここまで意気投合すれば従者同士の連携も一安心。本当の初体験はきっと守れる筈だ。
「それでね……」
手に負えないと算段したアリーシャは続きを語り始めた。これからの未来を担う者としては非常に賢明な判断だ。一々相手をしていては切りがない。
アリーシャは魔法講師との禁断測定を終えてヘトヘトになった後、休みなく実技試験を迎えていた。
順番に披露される魔法や魔術の数々。
アリーシャは魔法に触れる事がなかったせいで、凄さは今一ピンときていなかったが、特別試験を受ける者達の魔法技術は流石レベルが高かった。
簡単に説明すると、魔法は原理の源。
魔術はそれら源を転用する技術である。
魔法で水を生み出し、その水を丸くしたりジェット状に打ち出すのが魔術だ。凄い者は風を生み出し自らを浮かせ飛行してみせた。
だが、この試験においてそんな小手先の技術は要らない。アレキサンダー先生は、あくまでも"魔法"を見せろと言ったのだ。
「今魔術を見せた者は即刻会場を出ろっ!! 質問は無しだ。そもそも意味が分かっていない者など特別科には不要な人材だ」
厳しい一言で脱落宣言をするアレキサンダー先生。
いくら魔術が凄くても、今それは必要がない。
魔術など、世界一の教育機関であるガーレスト学園に入学すればいくらでも学べて習得出来るのだ。
今必要なものーーそれは源だ。
だからこそ、魔法適正と魔力量を測定した意味がある。
適正である魔法を、今出せる最大の魔力をもっていかに効率良く生み出す事が出来るかを試験していた。
それらを見て聞いて理解したアリーシャだったが、ここで懸念事項が生まれてしまった。
(私……魔法使った事ないんですけど!!)
まさか魔法に関わる試験があるなど、想定もしていなかった。こんな事なら、ルークと戦った時にいた魔法魔術のスペシャリストのお爺さんに教わっておけばと、後悔するアリーシャだった。
「次は185番! 前に出て魔法を見せろ」
「は、はいっっ!」
(わ、私の番だ! ど、どうしよう……)
自分の番号を呼ばれどぎまぎするが、もう後に退くことは出来ない。諦めて醜態をさらすしかないのだ。
「どうした? 早く見せろ! 無理ならさっさと会場を出ろ!」
アリーシャは、そう言って急かすアレキサンダー先生に、
(だから魔法なんて使った事ないの! どうしたもこうしたもないわよ!)
ぶつけようもない怒りを覚えるしかなかった。
最早諦めの境地に立たされたアリーシャ。アレキサンダー先生の顔を眺める事しか出来る事はない。
(先生、良く見ると結構イケメン? あ、ほりが深いイケメンのアイドルに似てるな~。片目どうしたんだろう? 事故かな? それとも戦闘で? 見えないと不便だろうな~。魔法とかあるなら、治療魔法とかもあるのかな? こうやって……"ヒーリング"! 先生の目を治せ! なんちゃって♪)
思考放棄に走り無駄な事を考えながら漫画で見た治療魔法の真似をするアリーシャ。完全に怒られる未来が想像出来そうだが、事態は思わぬ展開を見せる。
「お前……まさか」
アレキサンダー先生は受験生に見えないよう後ろを振り返り何かを確認していた。
その後、数秒経って振り返った時には、アリーシャを見下げいつもの迫力のある声で宣言する。
「合格っっ!! 次の会場へ向かえ!!」
(ええーっ!? なんで!? 私なにもしてなくなくない? 誰か教えてー!)
「嘘だろ……? あいつ何もしてないじゃないか!」
「そうだ! こんなの茶番だ!」
予想外の合格宣言に疑問いっぱいのアリーシャ。
周囲も納得いかない不満の声が上がっていた。
「はいっっ!! 今喋った奴等全員脱落!! 不満があるなら入学してから言うんだな。その実力もない奴等の話など、聞く価値もないわ!!」
「「……」」
それらを一喝して黙らせるあたり、アレキサンダー先生の覇気は凄まじいものがあったーー
意味も分からない内に次の試験に突入してしまったアリーシャ。次はいよいよ最後の試験である実戦形式の武術試験だ。
「さて、これが最後の試験だ。ここまで残った者に余計な説明は不要だろう。力の限りぶつかってこいっっ!!!!」
武術試験は外の特設会場にて行われていた。
石板のタイルが敷き詰められた50m×50mの正方形の会場には、滲んで取れなくなった血の跡がついている事からも、古くから使われていると分かる。
次々と得意の得物を持ってアレキサンダー先生に向かっていく受験生達。俺様王子ことバロンや、ピンク髪のツインテール令嬢は、他の受験生に先駆けて見事合格を果たしていた。
試験前に得意な武器を選ぶ事が出来るのだが、そこにアリーシャが使えるようなものはなかった。
出来れば木刀のようなものがあれば良かったが、この世界に刀はまだ浸透していないため、似たような武器も見つける事が出来ない。
そこで唯一使えそうなものと言えば、
(これしかなかった……)
「お前、本当にそれで良いのか? これが最後の試験だぞ……」
「だ、大丈夫です! これでお願いします!」
「まあ、お前が良いなら良いが……」
さすがのアレキサンダー先生も、背丈の半分ほどの箒を握るアリーシャに困惑気味のようだ。
だが、力のないアリーシャにとって、選ぶ事が出来た武器はこれしかなかった。
「では来いっっ!!」
「いえ、先生が来て下さい!」
「うむ……え?」
「ん?」
アリーシャを不思議そうに見つめるアレキサンダー先生。すっとぼけるアリーシャ。
「来いとはどういう事だ?」
アレキサンダー先生も思わずそう聞いてしまっていた。
「私、攻撃しないので! 先生が攻撃して下さい!」
ちょっと偉そうなアリーシャだが、本人にそんなつもりはない。アリーシャが使う剣術は相手の力を利用する究極の護身剣術。
自ら攻撃する技もない事はないが、本領を発揮するのは相手が攻撃してきた時なのだ。
「ほう……腕に自信があるようだな。良いだろう! お望み通り攻撃してやろうではないかっっ!!!!」
「いざ、尋常にっ!!」
巨体とは思えぬ神速で、コンマ数秒も経たない内にアリーシャへ仕掛けるアレキサンダー先生。
常人なら反応すら出来ず終了していた所だが、箒と言えど得物を握り覚醒したアリーシャには、なんの事もない。
「俺の攻撃を往なすとは、中々やるな! だが、これはどうだ!!」
まるで蛇のようにうねりくねり、軌道を変えながら襲いかかる変幻自在の剣筋。その一筋一筋が致命傷になるほどに鋭利だった。
それでも、
「これを全て往なして流すとは……」
剣術なら剣聖にも匹敵するアリーシャに、往なせないものはない。
「だが、なぜ攻撃しない? いくらでもチャンスはあっただろう?」
怒涛の連撃を全て往なしたアリーシャに、強者として素直な疑問をぶつけるアレキサンダー先生。
「私の剣は誰かを傷つけるためじゃありません。大切な人を、そして自分を守るための剣です」
「ふっ、そうか……そう言えば、俺の師匠もまったく同じ事を言っていたな」
凛々しい顔つきでそう答えるアリーシャに、アレキサンダー先生は懐かしい感情を覚えていた。
「最後の質問だ」
「なんでしょうか?」
「お前はこの学園で何を学び何をなしたい」
「そうですね……普通の女の子として、普通の学園ライフを送りたいです♪」
「普通か……ハッハッハッハッ! そうか普通か! まあ、それは叶わんだろうな!」
「な、なぜですか!?」
「いずれ分かる!! 185番、アリーシャ=ベルゼウス! 合格!! ガーレスト学園の入学を認める!!」
「あ、はい……ん? 合格っっ!!??」
こうして、アリーシャの長い試験は終わった。
「という訳……」
「なるほど! さすがアリーシャ様です! 私は合格すると分かっていましたがね!」
「おめでとうございます師匠。因みに、この雑魚は自分が合格なのにアリーシャ様が落ちていたらなんて顔で謝れば良いか分からないとほざいていましたよ」
「余計な事を言うなルーク!! 今のは嘘ですからね!」
「ふふっ、はいはい♪」
長く予想外な事ばかりで心底疲れたアリーシャだったが、三人無事に合格を果たした事で、終わり良ければ全て良しだと前向きな気持ちになっていた。
「これで三人仲良く学園ライフを送れるね♪ 科は違うかもしれないけど、二人はずっと、私の親友だよ!」
「アリーシャ様……私は幸せ者ですぅぅっっ! こんな可愛くて素敵な人の傍に居られるなんてぇーっ!」
「胸に埋めないでぇっっ! もう、なんでそんなに大きいのよ!」
「師匠……僕も幸せです。こんな素敵な光景を間近で見られるなんて。一緒傍に居させて下さい」
「二人とも……ありがとね。楽しみだな♪ 学園ライフ!」
これからの学園ライフに夢見る少女。
しかし、そう簡単にはいかないかもしれない……。
「お疲れ様、アレキサンダー先生」
「ああ、そっちもな」
試験を終え、とある一室で労い合う教師二人。
一人は特別科一年担任のアレキサンダー。もう一人は、魔法科一年担任の"ヴェレット=エボンヌ"。例の淫乱ビッチセクシー美女だ。
「ところで……今年は凄いのが入ったな」
「ええ、それも二人」
「よく監視せんと危険な奴等だ」
「そうね……あんなの、利用されたら世界がどうなる事やら」
「ああ、違いねえ」
何やら不穏な話をする二人。話題の中心は、今年入学する一年生の中にいるようだった。
「怪物が生まれるか」
「それか英雄か」
「今年は荒れるわね……」
「その荒波に、飲まれねえと良いがな……」
どうやら、アリーシャの夢描く学園ライフは、一波乱も二波乱も待ち受けていそうだ……。
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