第七話 最弱の数値
大勢の人々が
主に俺の声とか。
ギルド内に居る人々の視線は、場の空気を凍りつかせた原因である人物に向けられている。
主に俺の事とか。
( ……さっきの大男、死んでないよな? さすがに指名手配犯とかになるのは勘弁して欲しいんだが )
「み、身分証……ですか?」
俺からの質問に、ようやく我に返った受付の女性。こういうのは
「はい、それが済んだら帰るので」
正直、今すぐにでもこの場から逃げ出したいのだが……せめて身分証だけは手に入れておきたい。
「……わかりました。では、こちらの鑑定石に触れてください」
受付嬢が手で指したのは、カウンターの上に置かれてある水晶のようなものだった。さっき門の前で出会った兵士の男も鑑定石を持っていたが、それとは明らかに大きさが違う。占い師などが使用している水晶くらいはあるだろう。
「これに触ればいいんですね」
俺は鑑定石に触れようと手を伸ばし……即座に引っ込める。危うく俺は、また同じ過ちを繰り返すところだった。
恐らくこのまま触れてしまうと、また文字化けしたようなステータスが映し出されてしまう。そもそも兵士の男が持っていたものより大きいため、最悪俺のステータスが正確に反映されてしまうかもしれない。
俺は即座にウィンドウを開き、役立ちそうなものが無いか探った。幸いにも、俺が開いたウィンドウは他人から見えていないようで、受付嬢も首を傾げながら俺を見詰めていた。
「どうかされましたか……?」
「い、いえっ……なんでもないですよ」
なんとか誤魔化しながら探っていると、俺はとあるウィンドウを発見した。
それは、ステータスの非表示と書かれた項目だ。
現在はオフとなっているが、ひょっとしてこれをオンにすればステータスを隠すことが出来るんじゃないか? となれば即決、もうこれに
俺の手が触れた途端、鑑定石は薄く輝き出す。以前のようにウィンドウは表示されないが、内側で輝いていた光が外に集まり、1枚のカードへと変化した。
「……え? これは一体……」
出来上がったカード、もとい俺の身分証を見た受付嬢は、困惑した表情でそれを見つめている。
俺もその身分証を見やると、全てのステータス数値がゼロと表記されていた。非表示というか
以前、鑑定石に触れた際の内容と同じく、名前などは問題なく反映されているようだ。
「すみません、すぐに作り直しますので……」
「あっ……いえ! これで全然いいんで! ありがとうございました!」
半ば奪い取るようにして素早く身分証を手に取った俺は、出入口へと向かって走り出した。さっきのように俺を遮る者は誰一人として居ない。
( ……まぁ、誰も天井高く吹き飛ばされたいとは思わないだろうな。いや、もう絶対にしないけどね?)
「失礼しました~!」
ギルドから勢いよく飛び出した俺は、そのまま
途中、後方から追っ手らしき者が居ない事を確認すると、俺はようやく足を止めた。
「はぁ、災難な目にあった。……いや、一番災難な目にあったのはさっきの男の方か」
( 俺が言うのもなんだが、無事だといいな……。けど二度と会いたくはない )
そんな事を思いながら深くため息を零した。
「まぁ、これで身分証は手に入った事だし。少しは安心できそうだ」
手に持ったままの身分証をアイテムの中に収納する。今更だが、こうやって持ち物を収納出来るのは便利なものだ。わざわざ手に持つ必要も無いし、好きな時に取り出せる。それなら刀も収納しておけばいいと思うかもしれないが、……かっこいいから身に付けておきたいんだもん。
「……さて、これからどうするかな」
俺はマップを開きつつ、今後の方針について考える。
もうすぐ日が落ちる頃だし、何処か泊まれる場所に向かうべきか。こういう場所だと宿になるのかな。マップで探してみたところ、街の中から二件の宿を見つけた。しかし、そのうちの一件はわかりにくい場所にあるようだ。
「知る人ぞ知る隠れ宿ってやつか?」
こういう場所なら人も少ないだろう。大勢いる場所は慣れないし、何よりさっきのような騒動を起こしてしまうのも極力避けたい。一度ここに行ってみるか。
そうして目的地を決めたのち、マップを頼りにその宿へと向かって歩き出した。
───その時、後方からこちらに向かって走ってくる何者かの存在に気が付いた俺は、咄嗟に振り返った。
「はぁ……はぁ……あの、ちょっと待ってぇ……」
ずっと俺の後を追っていたのだろうか? さっき確認した時は誰も追ってきてなかったはずだが。やがて距離が近くなるにつれ、それが女性であることが分かった。俺はてっきり受付嬢が追ってきたのかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。
「ん……? 誰だ?」
見覚えのない女性が、俺を追ってきている。
逃げるべきかと迷ったが、息を切らしながら向かってくる様子を目にして、さすがに逃げ去る気にもなれず。
「や、やっと追いつきましたぁ……」
ようやく俺に追い付いた女性は、乱れた呼吸を整えながら呟いた。長く伸ばした金髪の髪。上半身が鎧なのに対し、下はミニスカートといった装着。一見すれば女騎士にも見えるが、何処と無く貴族っぽい雰囲気が感じられる。
「……あの、何か用ですか?」
その姿に見惚れつつも、俺は女性に尋ねる。
「はい。実は……少しお話を伺いたくて」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます