箸を生ける
アイスティー・ポン太
無気力な男子高校生
今年で高校二年生になる足立君は、いつも周りから「やる気ないよね」「全然元気ないじゃん」「疲れてる?」と言われるほど無気力人間です。実際のところ本人も無気力人間を自覚してます。
足立君は「僕が無気力で何が悪いんだ?別に犯罪をしてるわけじゃあるまいし」という腹立たしい気持ちがある反面、「でも、やる気ある人の足を引っ張っちゃったりしてるから、周りから怒られても仕方ないか」という申し訳ない気持ちも持っています。
確かに足立君はかなりの無気力人間です。
仮病で学校を休むのは当然として、登校したとしても如何に早退できるか、どうやったら保健室で長い時間休めるかばかり考えてます。体調が悪かったり持病があるわけではなく、ただただ何もしたくないのです。
始業式や文化祭、体育祭や卒業式といった学校行事も彼にとっては心底どうでもよいものなので何かにつけて欠席します。
小学校までは、そういった学校行事へ親に無理やり出席させられた足立君ですが、中学からは学校行事に欠席しても親は何も言わなくなりました。足立君の無気力は筋金入りです。
足立君は友達がいないわけではありません。ただ自分からは友達に話かけたりしないし、自分から友達を作ろうともしません。なんなら数少ない友達でさえも多少ウザったく感じるほどです。
そんな足立君ですが高校に入ってからは少し自分の将来について考えるようになります。
「流石にこんなに無気力じゃ社会でやっていけないんじゃないか?」
「このまま何にも夢中になれるものもなく死んでいくのかなぁ」
といった不安が足立君につきまといます。かといってどうすることもできず、どう不安を解消すればいいかもわからず、彼はいつも通りの日々を過ごすのでした。
高校2年の6月、彼にある出来事が訪れます。
それはある夕食後のことでした。
家族で食事を食べ終わった後、足立君が食器類をシンクに片づけたときの事です。
なんの変哲もない白い無地のマグカップに、これまたなんの変哲もない普通の茶色の箸が入っているのが足立君の目に止まりました。
普段通りであればそのまま洗って片づけるのですが、この時は、この時だけは、なぜか足立君の心に衝撃が走ったのです。
「なんて美しいマグカップと箸なんだ!!!!!」
足立君は美術に興味も関心もない高校生です。実際、足立君は美術の先生や評論家などに対して「だからどうしたんだよ」「なにが美しいとか、醜いとか、本当にどうでもいい」といった、ある種の軽蔑を抱くほどです。
そんな彼が、なぜかこの瞬間だけは、マグカップと箸に「美」を見出してしまったのです。
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