第2話 高校2年生最後の日(2)

 カラオケ店で受付を済ませ、席に着く。

 当然の様に僕の隣に陣取った葛城さん。

 飲み物を注文して、みんな歌い始める。


 みんな上手いなぁ・・・やっぱり、カラオケとか行きまくってるからなんだろうね。

 僕は、友達とカラオケ行ったこと無いから、歌うのはちょっと恥ずかしいなぁ・・・

 順番回って来ないように、小さくなってようっと。

 

「〜〜〜♬」


 葛城さんもやっぱり上手い。

 ラブソングを多く歌ってるけど、凄く上手だ。

 葛城さん、僕の方をずっと見て歌ってる気がする・・・なんかさっきから目が合ってばっかりなんだよね。

 歌ってるときも、気にかけてくれてるって事かな?


「はぁ〜!どうだった私の歌!下手じゃ無かった?」

「とても上手かったよ。凄いね葛城さん。」

「えへへ〜!そう?ありがと!嬉しいな!」


 ・・・なんか更に距離を縮められた気がするんだけど・・・物理的に。

 僕と反対側の人と葛城さんの距離は、拳2個分位空いているのに、僕とは思いっきり身体が当たってる・・・


「あの・・・葛城さん、もう少し向こうに行けない?ちょっと狭くて・・・」

「あ!ごめんね!気づかなかった!もうちょっとこっちに寄っても良いよ?」

「いや・・・あの・・・もうぶつかってるし・・・」

「大丈夫!私は気にしないから!さぁ!」

「あ、大丈夫!やっぱりそんなに窮屈じゃなかったよ!ははは・・・」

「え〜?遠慮しなくていいのに・・・」

「ははは・・・は」

「ボソッ(もう!こんな事、三上君にしかしないのに!!ホントは私だって、すっごく恥ずかしいのに!!)」

「えっ?何か言った?」

「ん〜ん何にも!さ、早く!」


 カラオケ店って狭いから、人数多いと、こんなに密着しちゃうのか・・・桜花もこんな感じなのかなぁ・・・あ、ちょっと胸がズキってした。

 これくらいで嫉妬したら駄目だよね。

 普通らしいし。


「三上君!私は傷つきました!だから私の為に何か歌ってよ!」

「いっ!?僕が!?」

「そうよ。ちゃんと私を見て歌ってね!」

「僕、そんなに歌知らないから・・・その・・・ね?」

「あ〜あ〜!聞こえませーん!三上君、私に近寄りたくないって言うし、傷ついちゃったな〜。」

「うっ・・・わかったよ。」


 はぁ〜・・・仕方がないか。

 何かあったかな・・・あ!そうだ!あれにしよう!

 僕は古い有名な歌手の、「◯h my little girl」という曲を選曲した。


「〜〜〜」


 この人の曲は、高音の歌声と歌詞が魅力だ。

 僕は、結構音域が広いので、ちゃんと歌える。

 葛城さんを傷つけた(?)罪滅ぼしという事だったので、ちゃんと葛城さんを見て歌う。


 葛城さんは、何かに思いを馳せているんだろうか?

 ポ〜ッっとこっちを見ている。

 でも、上手く歌えているのか、みんなからのヤジは無いし、このまま歌おう。


 歌を終えると、みんなが拍手してくれた。

 

「三上!お前歌上手いな!」

「ホントだよ!よく高音出るなぁ!」

「・・・やばっ。ちょっとキュンと来ちゃった。」

「ブツブツ・・・駄目よ。駄目!三上君は絶対好きになっちゃダメ!辛くなるだけだから・・・強敵しかいないから・・・ブツブツ。」


 褒められた。

 嬉しいもんだなぁ・・・思い返せば、歌で褒められるのも初めてな気がする。

 ・・・でも、女子から「やばっ」とか「駄目!」とか少し聞こえた。

 ・・・やっぱり、男子の褒めてくれたのもお世辞だったのだろうか・・・辛い。


 前で歌ってたので、席に戻る。

 葛城さんはこれで許してくれるだろうか・・・


「あの・・・頑張って歌ったんだけど、これで許してくれる?」


 僕は葛城さんに話しかけた。

 しかし、反応がない。

 あれっ?どうしたんだろう?


「葛城さん?大丈夫?」


 僕は、葛城さんの目の前で、手をひらひら振ってみる。

 やっぱり反応が無い。

 ・・・気絶!?

 そんなに聞くに耐えなかったの!?


「・・・あれはやばいわね。瞳ちゃん、意識飛んでるんじゃないの?」

「そりゃそうよ。じっと見つめられながら、『愛してる』って言われてるんだもん。好きな人にそんな風に歌われたら、こうなっちゃうのもわかるわ。しかも凄く上手かったし。」


 女子がボソボソなんか言ってるけど、それどころじゃない!

 心配になった僕は、葛城さんの両肩に手をかけ、軽く揺さぶる。


「葛城さん!大丈夫!?葛城さん!」

「・・・はっ!?私・・・三上君に愛してるって言われて・・・そしてこの状況・・・そう、そうなのね。わかったわ!んっ」


 葛城さんが目を閉じ、顔を上に傾ける。

 えっ!?

 今、意識戻ったよね!?

 何この状況!?


 僕が狼狽してると、葛城さんがボソッと「・・・早く・・・」と言った。

 なんの事!?


 みんなは騒然としている。

 

「おいおいおいおい!!」

「三上!お前!」

「するな!するなよ!フリじゃないぞ!」

「ぎゃぁ〜!俺の心のアイドルが〜!!」

「キャアッ!瞳ちゃん大胆!!」

「いや、あれ絶対正気じゃ無いでしょ!」


 え!?

 何!?

 どうなってるの!?


「まだなの・・・?もう・・・だったら・・・」


 はぁっ!?

 段々と、葛城さんの顔が近づいて来る!?

 このままじゃ唇が当たっちゃうんだけど!?


 僕が脳の処理能力を越え、固まっていると、気づけばあと数センチというところまで、唇が近づいて来ていた。

 てゆーかやばっ・・・


「そこまでよ!この泥棒猫!!」


 バタンッとドアが開き、颯爽と桜花がその場に現れた!!

 何このイケメンな彼女は!?

 とか言ってる場合じゃない。

 

 ・・・これやばくない?

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