第283話 起死回生

「みんな!教会から出ろ!」

「何言っているの!?手伝うわよ!!」

「駄目だ!」


 コイツと戦えるのはおそらく僕だけだ。

 絶対に戦わせられない。

 危険すぎる。


「でも、あんたもそんなにボロボロじゃないの!黒瀬そんなに強かったの!?」

「違う!黒瀬が・・・」


 そんな事を言っている間に、僕が開けた穴から魔獣が出てくる。


「何・・・あれ・・・あんた黒瀬と戦ってたんじゃ・・・」

「なんだあれ・・・すげぇ力を感じる・・・やべぇな。」

「リョウマさん。あれはいったい・・・」


 桜花とアイシャ、リディアが呟く。

 他のみんなも震えを押さえるのに必死だ。


「あれは、僕に負けそうになった黒瀬が、ヴァリスに願い強化された姿だよ。おそらく自我はもうない。でも・・・なんだろう・・・さっきよりも弱くなっている気もするけど・・・」

「あれで!?どれだけ強かったのよ・・・」


 桜花が驚愕しているけど、それどころじゃない。


「何かわからないけど、とにかく逃げて!僕がなんとかする!」

「けど・・・」

「いいから!頼むよ!多分みんなを守る余裕はないんだ!」


 僕がそう言うと、みんなは悔しそうにしていた。

 ごめん・・・


「・・・わかったわ。とりあえず教会の外には出る。そして、みんなで結界を張ればいいわね?絶対無事に帰って来なさいよ?」

「ありがとう。分かった。約束だ。」


 魔獣は襲ってくるかと思っていたけど、そうしなかった。

 というより・・・少し縮んでる・・・

 

「オマエノ・・・」


 ん!?


「オマエノセイデコンナカラダニ!」


 自我が戻ってる!?

 なんで!?


「モウイイ。スベテブッコワレロ!」


 魔獣・・・黒瀬が飛びかかってきた。

 速いけど・・・さっきまでのような速さではないな。

 でも、今度はあの巨体で空手の技を使ってくる。


 別の意味で手強い!

 技自体は鋭くは無くても、パワーとスピード、頑強さがとんでもない。


 何度か攻撃を掻い潜って、突きや蹴りを当てるけれど、大きなダメージは与えられない。

 黒瀬が本能のまま暴れていた、さっきまでは大技も使えたけれど、自我を取り戻した今は、ちょっと難しい。

 このままじゃジリ貧だ・・・


 僕は距離を取ろうと、バックステップしたけど、黒瀬はその瞬間また魔力撃を放ってきた。

 空歩で横にスライドして避けると、その方向に猛烈に突っ込んできた。

 

「くっ!」


 僕は空歩で更に上に逃げる。

 しかし、それが黒瀬の狙いだったのか、その場で両足を地面にめり込ませ急停止し、飛び上がり追いすがってきた。


 まずい!

 僕もさっきのダメージが抜けきってない。

 躱せない!


「シネェェェェェェ!!」

「っぁ・・・」

 

 黒瀬の打つアッパーが腹に直撃した。

 声も出せないほどの衝撃。

 黒瀬は、そのまま天井を何度もぶち破りながら上昇していく。


 そして最後の天井を越え、外まで上昇した。


「なんだあれは!?」

「ひぃ!!化け物だ!!」

「ああ・・・神よ・・・」


 人々の叫び声が聞こえる。

 まずい・・・このままだと・・・外の人たちも・・・


 身体を動かそうとしても、ダメージが深すぎて動けない。


「リョウマさん!?」

「リョウマ!逃げろ!!」

「リョウマ様!今助けに!!」

「リョウマくん!!」

「リョウマお兄ちゃんが・・・死んじゃう・・・」

「みなさん!助けに行きましょう!!」

「そうだ!助けに行くぜ!あたしの夫をよ!!」


 みんなの声も聞こえる。

 駄目だ・・・助けにきちゃ・・・殺されちゃう・・・


「待ちなさい!」

 

 その時、朦朧とする意識の中に、桜花の声が聞こえた。

 

「なんでだ!リョウマが殺されてもい良いっつーのかよ!」

「そうよオウカ!私もリョウマ様を助けたい!何で止めるの!?」

「聞いて!アイシャもレーナも!みんなも!!今私達が助けに行っても瞬殺されるだけ!そんなの龍馬は望んでない!私達に出来るのは、黒瀬が他の人を殺さないよう、この場の結界を強めることよ!」

「ですけど!このままではリョウマ様が!」

「そうです!リョウマお兄ちゃんが死んじゃうです!!」

「エスメラルダ、メイちゃん、お願い・・・言うことを聞いて?あなた達が死んだら龍馬は立ち直れない!!」

 

 そう・・・そうだ・・・

 僕が死んだらみんなを守れない。

 みんなが死ぬのに僕は耐えられない。

 

「みなさん。オウカの言うとおりです。」

「リディアちゃん・・・」

「悔しいですが、私達に出来るのは、リョウマさんを信じることだけ。それに・・・」

「リディアの言いたいことわかるわ。リョウマさんは負けない、でしょう?」

「ええ、そうですシエイラ。私達のリョウマさんは負けません!そして、もし負けて亡くなってしまったら、その時は・・・」

「みんなで弔い合戦ね。死んでも一矢報いてやるわ。」

「ふふふ。そうですオウカ。」


 そう言って笑い合うみんな。 

 何故この距離でみんなの声が聞こえたのか・・・情景が浮かんだのかはわからない。

 でも、みんなの信頼に答えたい!


『そうです。諦めてはいけません。まだ、勝機はあります。』


 この声・・・だれ?

 綺麗な女性の声だけど・・・なんか落ち着くなぁ・・・


『ありがとうございます。ですが時間がありません。私も既に限界です。あの魔獣を斬りつけた部屋に戻りなさい。そこに勝機があります。』


 なんだろう?

 そこに行けばわかるの?


『はい。力が残り少ないので、微々たるものですが、加護を与えます。その加護で、身体は少し回復すると思います。それにしても桜花さんに聞いていた通りですね。あなたの魂はとても綺麗です。いずれお話出来ると良いですね。頑張って下さい。どうか・・・この世界を・・・』


 女性の声がそこで途切れた。

 周りを見ると全ての動きが止まっていた。

 色を失っている・・・時間が止まっている?

 これは・・・いや、今のはもしかして・・・


 次の瞬間、世界に色が戻る。


「マダ、イキガアルノカ。イイカゲンシネヨ。」


 黒瀬が僕を教会に向かって叩きつけた。

 僕は身体強化全開で、防ぐ腕に硬気功も使用し耐える。


 僕の身体は今度はどんどん床を突き破り、一階まで到達した。


「ぐっ・・・は・・・な・・・なんとか・・・耐えられたか・・・」


 ヨロヨロと立ち上がり、足を引きずって、黒瀬を斬りつけた部屋に戻る。

 もう、大聖堂はボロボロで、いつ崩れてもおかしくない。

 足を引きずってたどり着くと、ボロボロの部屋の床に、黒い塊が落ちている。

 黒い塊には、瘴気がまとわりついていた。


 これか?

 とりあえず、浄化するか。


『ピュアリフィケーション』


 光魔法の浄化で瘴気を取り除くと、そこには・・・

 黒水晶が2つ落ちていた。

 これが、黒瀬の力が落ちた正体か・・・これがあれば・・・


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