第281話 怒れる黒瀬

 「てめぇ!調子に乗ってんじぇねぇぞ!てめぇみたいなクズはすぐに殺せるんだからよ!ちっと遊んでやっただけでもう限界じゃねぇか!」


 僕は、黒瀬から少し距離を置きながら観察する。

 確かに、黒瀬の力は・・・いや、は強力だ。


 それに、やはり改造されているようで、人の持つ身体能力を大きく上回っている。

 武の力も、かなり練度が高くなっている。

 努力したのだろう。


 だが、それだけだ。

 それは、今この時までに僕を倒しきれなかった事で証明されている。


 それに、一番の欠点は・・・


「そう?だって策が上手く嵌まれば嬉しいものでしょ?それに遊んだ?僕を圧倒してるわけでもないのに?それはちょっとどうなの?油断しすぎじゃない?なんにも変わってないね。あの時から。」

「てっ・・・てっ・・・てめぇ〜!!!!!」


 黒瀬が激昂して飛びかかってきた。

 これが一番の欠点。

 精神的に成長していないんだ。


 僕は封印を解く。

 今ある黒水晶は4個。

 おそらく、7割まで解いた所で問題は無いだろう。


 一気に力を噴出させる僕に気づかず飛びかかって来る黒瀬。

 ほらね。

 隙だらけ。

 頭に血が上り過ぎて、相手がきちんと見えていない。


 僕は黒瀬の正拳突きを、半身で躱しながら、崩拳を打つ。


「ぐほ!?」

 

 黒瀬はまさかの反撃に、驚愕の表情をしながらも、持ち前の頑強さで、すぐに横蹴りを放ってきた。

 僕は、鳩尾を狙ってきた横蹴りを、姿勢を伏せるようにして躱し、起き上がり様に、両手を黒瀬の身体に沿わせ、頸を流しながら振り払うように押し付ける。

 八極拳の双纒手だ。


「ぐはっ!?」


 黒瀬は衝撃で倒れ込んだ。

 僕がそのまま震脚を放とうと足をあげた所で、黒瀬が転がりながら離脱した。

 黒瀬は忌々しそうに表情を歪めながら、


「なんでてめぇがそんな力を持っていやがる!なんか汚ぇ真似してるんだろ!そうだろ!」


 そんな事を叫んできた。

 何言ってんの?

 

「汚いって・・・単純に力を開放しただけなんだけど。」

「ウソつけ!思えばてめぇはいつもいつも汚ぇ真似ばっかりしやがって!主人公は俺なんだ!てめえはモブなんだよ!モブはモブらしくしてやがれ!さっさと俺にやられろ!!」


 僕が呆れながらそう言うと、黒瀬はそんな事を言う。

 

 はぁ?

 主人公?

 モブ?

 こいつ現実が見えて無いのか?


 モブねぇ・・・たしかに僕は特に取り柄の無い只の高校生ではあるけれど・・・黒瀬が主人公って・・・散々、他人に酷い目をみさせておいて、それはどうなのさ。

 復讐は復讐でも、身勝手な物だし、とても正当性は皆無だ。


「う〜ん・・・そう言われても・・・黒瀬が主人公じゃなかったんじゃないの?」


 僕がそう言うと、黒瀬はワナワナと震えだした。


「お・・・お・・・お前・・・殺す!絶対殺す!グチャグチャに・・・」

「はいはい。それはもう聞き飽きたよ。」


 僕は箭疾歩で飛び込むけど、流石に黒瀬は躱して、そのまま躱し様に右足で回し蹴りを放つ。

 左腕を折り曲げ、硬気功で受けた後、そのまま腕を外向きに回しながら掲げると、黒瀬は足を持ち上げられ、バランスを崩す。

 そこに右手で猛虎硬爬山を放つ。


 黒瀬にクリーンヒットするけど、やはり頑丈だ。

 口から血を流しながらも立ち上がる。


 そこからは、無言で連撃を放ってくる黒瀬。

 僕は受けと捌きで対応する。

 

 7割だと・・・黒瀬の力は僕よりも上。

 速さも同じ。

 でも、技術や僕が上。

 そこが圧倒的にでかい。


 冷静に判断した僕は、隙きを見て沖捶を放つが、黒瀬は上から突きを押さえるように捌いた。

 そして、捌いた手の手首部分を折り曲げ、腕を振り上げながら僕の顎を打ってくる。

 鶴頭か!

 僕はそれを躱したが上体が少し仰け反る。

 黒瀬がニヤリとした。


「喰らえ!」


 動きは正拳突き。

 でも、これは・・・多分裏当てだ!


 僕は、黒瀬の腕が伸びきる前に、自ら身体をぶつけに行く。


「何!?」


 黒瀬は驚愕する。

 裏当ては、空手の奥義の一つとも言われている技法だ。

 衝撃を通す。

 その概念は、頸に近い・・・と僕は勝手に思っている。

 なら、それを防ぐ方法も同じ。


 完全に技が仕上がる前に潰す!

 自分から当たりに行った為、多少はダメージがあったが、それでもまともに食らうよりは良い。


 黒瀬は、裏当てが不発だった事に狼狽している。

 今だ!

 僕は渾身の力を振り絞り、黒瀬の懐に入り込み、両足で震脚を踏みながら、両手を広げるように伸ばし、右手で掌打を放った。


「がはっ!!」


 黒瀬は吐血して下がる。

 これは、八極拳の技の一つで、打開という。

 両足で飛ぶように震脚を踏むため、ダイナミックな技だ。


 黒瀬はヨロヨロと立ち上がるが、ダメージはかなり負っているようだ。

 そして、悔しげに表情を歪め、中空を見た。


「なんでだ!なんで勝てねぇ!クソが!!おい!ヴァリス!俺を助けろ!」


 劣勢の黒瀬が叫ぶ!

 すると、次の瞬間、黒瀬の頭上に、黒い人型が現れる。

 まさか・・・

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