第273話 シギャク 対 桜花 side桜花

「ペインから聞いているぞ。帝国の勇者は大した事なかったとな。」


 シギャクが表情を歪ませて話す。


「いくら勇者と言えども、には及ばぬという事だ。その身を持って教えてやろう。」


 シギャクは舌なめずりをしながらシミターを構えた。


「それが素なのね。やっぱり教会の幹部にはろくな奴はいないわね。ああ、そっか。何せ信じる神様がろくでもないものね。」

「・・・やはり、何か知っているようだな。何を知った?」


 訝しげに聞き返すシギャク。

 

「馬鹿ね。言うわけないじゃないの。」

「・・・まぁいい。すぐに自分から言いたくなるだろうよ。」


 シギャクは魔力を高めた。

 ・・・流石というべきか。

 その圧力はペインにも匹敵する。

 様子見をしていたら一瞬で負ける。


 最初から本気で行くわよ。

 いいわね雪!


『はい。桜花様。』


 私は身体強化を全力にし、シギャクの懐に飛び込んでいく。

 私の袈裟斬りをなんなく受け止めるシギャク。

 押される!

 力はシギャクが上か!

 

 すぐに距離を取って、魔力を刀に乗せながら横薙ぎに振るう。

 シギャクに向かって風の刃が迫る。


 『風刃』 


 これは、龍馬に鍛えてもらった成果の一つ。

 私は勇者として潤沢な魔力を持っている。

 でも、根っこはやはり剣士だ。

 

 だから、魔法を放つより、刃に魔力を乗せて斬りつけたり、飛ばしたりするほうが性にあっている。


 シギャクは躱した。

 逃さない!


「はあああぁぁぁぁぁぁ!」


 私は、風刃を連続斬りに乗せて放つ。

 最初うまく躱していたシギャクだったが、躱しきれなくなり、シミターに魔力をこめ、弾くようになった。


 ここまででわかったこと。

 それは、ペインの様に、結界で防ぐことはできないのではないかということ。


 今の攻撃、ペインであれば、おそらく躱さず、結界で防いでいただろう。

 油断は出来ないけど、後は実際に刃を届かせて検証するのみ。


 シギャクをその場に釘付けにしたまま、風刃を放ちながら距離を詰める。

 シギャクとの距離が刀の間合いに入った!


「廻里流剣術 双蛇!」


 私は高速の横薙ぎ二連撃を放つ。

 シギャクは一撃目は受けたが、ほんの少し体勢を崩し、二撃目を受け損ない、胸に若干の傷を負う。


 これで確定ね。

 こいつは結界を張れない。

 それに剣の腕も達人レベルではないわね。

 ・・・となると、こいつを大司教まで引き上げた何か他の能力があるかもしれない。

 油断だけはしないようにしなきゃ。


「おかしい。ペインから聞いていたよりも遥かに強い。貴様、何をした?薬を使っているようにも見えないが・・・」


 シギャクが忌々しそうにそう呟く。


「お生憎様。あいつにボロボロにされてから鍛え直したのよ。」

「それでも、二ヶ月も経過していない筈だ。やはり貴様の背後には何かいるな?ペインを殺したというヤツか?」

「さてね。知りたかったら勉強するのね。」


 私は、シギャクに再度距離を詰めようと飛び込んだ。

 その瞬間、ぞあっと背筋が凍る。

 急遽横っ飛びに切り替えると、シギャクの口からキラキラとした何かが、さっきまで私の顔があったところを飛んでいくのが見えた。


 ・・・針かしら?

 

「よく躱したな。」

「・・・あなたもしかして暗器使い?」


 そう問うと、ニヤリと笑った。

 そして今度は右手でシミターを振り下ろしてくる。

 雑ね。

 私は刀で払い、すぐに逆袈裟斬りをしようとしたところ、シギャクが前蹴りを放つのが見える。


 よく見ると、靴の戦端に刃物が見えた。

 私は斬りつけをとめ、蹴りを躱す。

 しかし、シギャクはそのまま前に踏み込み、左手で突きを打つ。

 躱せる!

 私は顔を傾け、突きを避けながらカウンター気味に腕を切ろうとしたけど、突きを放つ手にナイフを持っているのに気づいた。


「くっ!?」 


 少し体勢を崩したが、そのまま後方に飛び、なんとか避けられ・・・てなかったか。

 頬を流れる血に気づいた。


「暗器使いとは戦った事はないようだな。ギリギリで躱すとは愚の骨頂だ。」


 油断したつもりはない。

 でも、やっぱり強いわね。


 私は、正眼に構え心を落ち着かせる。

 しかし、その瞬間くらりと来た。

 何?


「それには毒が塗ってある。本来ならすぐに倒れるであろう強力なものではあるが・・・流石は勇者というところか。耐性があるようだな。」


 毒・・・

 そこまで、苦しくないけど、集中出来ていない気がする。

 厄介だわ・・・

 うん?いい考えが浮かんだわ。

 上手く行けば・・・


「毒・・・ね。どこまで・・・汚いのか・・・しら。」

「くくく・・・我慢できているだけでフラフラか。ならば、そのまま痛い目に遭ってもらおうか。」


 シギャクが私を殴りつけた。

 私は倒れ込む。


「さて、少し楽しませて・・・」

「待て。シギャクそこまでしていいとは言っていない。」


 シギャクが振り向く。

 すると、そこには男が居た。

 何こいつ・・・見たことがある気が・・・


「教皇様!!」


 全ての人間が動きを止めて男を見る。

 こいつが教皇か・・・

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