閑話 龍馬の苦難

 僕が起きてから、少したったある日。

 

 僕の身体は少しづつ治っていっている。

 今は、僕が万が一誰かが傷ついた時の為にと思って作った、車椅子での生活をしている。

 ・・・まさか自分で使う羽目になるとは思わなかったなぁ・・・


 みんなも、修練に勤しんでいる。

 特に、桜花とレーナ、エスメラルダの向上は目覚ましい。


 僕がジードに教わった技術を、惜しみなく注いだ結果、一足飛びでレベルアップしているんだ。

 そうそう、レーナやアナも、少しずつ打ち解けてきた。

 

 本人達の希望で、呼び捨てで呼ぶようになったんだ。

 二人共、ここでの生活を気に入ったようで、みんなとも打ち解けていた。

 

 順風満帆!

 と、言いたいところなんだけど・・・


 最近、僕には悩みがある。

 それは・・・目の前の惨状を見て貰えば分かって貰えると思う。


「だから、龍馬の世話は私がする!これは決定事項よ!!」

「待って下さい!オウカ!それはズルいです!独占禁止です!!」

「そうだぜ!リディアの言うとおりだ!オウカだけするいじゃねーか!あたし達にもさせろよな!!」

「そうです!メイもリョウマお兄ちゃんのお世話がしたいです!!」

「ふむ。ここは間を取って、騎士たる私が世話をしようではないか。」

「グレイス!それはズルいです!というかあなたはもう騎士では無く、冒険者ですよね?それなら、伯爵令嬢たる私が・・・」

「シエイラ、ここは年長者である、私がリョウマくんのお世話をするわよ?」

「お待ちになって!わたくしもリョウマさまのお世話がしたいですわ!!」

 

 みんなが、僕の世話をしようと争う事だ。

 僕としては、ある程度自分の事は自分でして、少しでも早く自分で動けるようになりたいんだけど・・・口を挟むと、めっちゃ怒るんだよね・・・

 僕の事なんだけどなぁ・・・

 

 時折、「龍馬は誰を選ぶの!勿論、私よね!?」


 と、話を振られる度に、苦笑いで誤魔化す。

 ・・・選べないよ。

 だって、自分でやりたいんだもん。

 でも、そう言うと、また怒られる。

 どうしたらいいのさ・・・


 僕が、みんなの言い争いをぼへ〜っと見ていると、僕を助ける為に、ルーさんがし〜っと人差し指を立てて口元に当てながら、車椅子をコソコソと押してくれる。

 うう・・・僕の味方はルーさんだけ・・・


「さあ、ご主人様。私と行きましょう。今から、お風呂にまいりましょうね。ああ、そうそう、ご主人様が、私の服が濡れるのではと心配なされないように、私はちゃあんと服を脱いで入りますからね!キレイキレイしてあげます。お風呂でスッキリしましょうね♡」

「「「「「「「「はっ!?」」」」」」」


 ・・・味方じゃ無かった・・・

 その瞬間、一斉に僕の方にキッ!としたみんなの目が向く。

 その目にビクッ!とした僕を尻目に、みんなは更に騒ぎ始めた。


「ちょっとルーさん!何しようとしてるの!!」

「そうです!ルー!!お風呂は私がリョウマさんと入ります!スッキリさせるのも私です!!」

「シエイラ!?ズルい!私も入ります!」

「まぁ、待つんだリディアちゃん。ここは私が先陣を切ろう。」

「おい!グレイス!何言ってやがる!ここはあたしだ!」

「違います!メイです!」

「皆様はしたないですわよ。ここは種族の違うわたくしが、リョウマ様を洗ってさしあげますわ!」

「エスメラルダ。種族が違うのはエルフ族の私も同じでしょう?リョウマくんもエルフ族、好きよね?でも、最初はお風呂じゃなくてベッドが良いわね。」

「エルマ!嫌らしいことは禁止よ!!龍馬!あんたもよ!!」


 ・・・収拾がつかない。

 同情したような目で、レーナとアナが僕を見る。


 ・・・同情した目だよね?

 なんか指を咥えて物欲しそうにも見えるけど・・・


 ちなみに、僕がレーナやアナと仲良くなった最大の理由。

 それは、この状況をレーナとアナに相談していたからだ。


 二人共、最初は僕の気が多いのが原因だと冷たかったけれど、最近では、同情的に見てくれるようになって、慰めてくれる事も多い。

 二人は、「リョウマ様は悪く無いですよ」と言ってくれるのだ。


 仲良くなった後に、最初そっけなかった訳を聞くと、桜花がいるにもかかわらず、僕が女の子に囲まれて、爛れた生活を送っていると思っていたらしい。

 でも、実際には、僕は手を出しておらず、逆にみんなが僕を、獲物を狙う目で見ていて、行動に移そうとしている事に気づき、疑いが晴れたらしい。


 この件について、相談できる所のない僕にとっても、二人の存在は助かっている。


 随分仲良くなれたみたいで、この間も、レーナの修練中に、助言をして上手く行くと、僕の両手を掴んで、胸の前に手を持っていきながらお礼を言ってくれたし、アナも、新しい料理のレシピや、調味料の使い方を教えると、抱きついて喜んでくれたんだ。

 ちょっと表現が過剰な気もするけれど、これは帝国式の表現らしい。

 それを指摘した僕に、二人がそう言っていたから間違いない。


 針のむしろの上にいる今の僕には、二人は癒やしになっている。

 どうか、このまま僕の癒やしになって欲しい。


 この間、そうお願いしたら、二人共顔を真っ赤にして、「・・・はい!」って言ってくれたんだ。

 ありがたや、ありがたや。


 現実逃避をやめ、みんなの方を見る。


「龍馬とは私が一緒にお風呂に入るのー!!」


 顔を真っ赤にした桜花の叫び声が聞こえる。

 僕に安息の日は、いつ来るのだろうか・・・

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