第29話 動き出す政府の影

 成華町の町を走る集団がいた。 黒い服に、ニット帽。 慌てている様に何処かへ向かっている。

3人は二手に分かれた。 2人で走っていた男のうち一人が、前の男に話しかけた。


「もうだめだ。 追いつかれる。 お前だは先に行け

 絶対送り届けてくれ」



「馬鹿やろうダメだ。 あいつは絶対に殺す。 俺らの事なんざ何とも思ってないんだよ。

 止まったらだめだ、誰にも知られないまま葬られるんだぞ」


「だからだ、 だから必ずお前がそいつを届けろ 約束だ。 頼んだぞ」



「馬鹿、」


 1人の男は失速して足を止めた。 追いかけてくる者を止める為だ。

もう一人はさっきよりも速度を上げて走った。 逃げ切る為に。

 これだけは絶対に届けなくてはならない。 これを得る為にどれだけの仲間が死んだか。たかだか一枚のディスク。だけど何としても持ち帰らなければならない。 もしこれを今放り出して逃げても、彼らが助かる事は無い。すぐに殺されてしまう。 だから彼らは必死に目的を成し遂げようとしていた。 これであいつらの不正事もすべてさらけだせる。



 

 合流地点までもう少し。 途中乗るはずだった車が潰されていた事には驚かされたが、目的地にまでついてしまえば問題ない。 仲間が沢山待っていてくれている。 後はポケットに持っているモノを渡すだけだった。 これなら逃げ切れる。 男は確信した。 ついた先は待ち合わせの倉庫港。  夜だけあって誰もいなかった。


 辺りは嘘のように物静かで、鳥の声すら聞こえない。 


「もう到着の時間なのにどうした? 遅れているのか? 早くしてくれ。アイツが来ちまったらみんなの思いが」


 男はデータの入ったディスクを握りしめて待った。時計を見ればもう10分を過ぎそうになっていた。 


「おい、嘘だろう。 まさか裏切ったんじゃないだろうな」


 男は心配になって辺りを探しまわった。 だけど、誰一人来る気配も無く、逃げるはずの船だけが浮かんでいた。


 船? 何故船がここにある? って事は来てるって事じゃねぇか? なぜ姿を現さない。


「おい、何ふざけてるんだ。 早く出てきてくれ。 何してんだよおい」


 ふざけてる場合じゃない。 撒いた二人が捕まっていつこっちに向かって来てるのかもわからないのに。


「おい、何してるんだ。 どこにいる、早くこれを」


 どれだけ大声を出そうと誰も出てくる気配がない。 だれも居ない? だけど、確かにあの船は逃げるはずの船だった。 だが、車だって一台も止まっていない。 誰も来た気配がないのなら、あの船は俺の勘違いだったのだろうか? 業者か誰かが、止めたままほったらかしていただけかもしれない。 時が経つに連れそう思うようになってきた。


「お前で最後だ」


――女の声――


 男は確かにそう聞いた。 男の口元に布のようなものを当てられて、彼は永遠の眠りについた。

今日葬られた数は13名そして、彼を足して14人。 


 彼女は耳元を抑えた。

「物資の回収は完了」


「お手柄ですね。 お疲れ様です。 じゃあこれでミッションは終了です

それをもって早く戻ってきて下さい」


「了解」



「お手柄ですねれい

帰ってきて早々ですが、また一件。 これは調査ですが、港区のとある公園へ向かってください

見ないものが出たとか」


 霊は再び刀を背負って外へと飛び出していった。




 公園では一人の女性が襲われていた。


「や、止めてください。 私を殺してどうするの」


 女性はやっとこさ逃げ切ったのだろう。 地面には切られて伸びた血が線を引いていた。

 彼女は隙をみて何とか逃げ切ろうと動いたが、相手に隙など無かった。 彼女の腕が飛ぶのと同時に甲高い悲鳴が上がる。


 刀を持った仮面は、女性に刀を向けて近寄ってくる。 彼女はただ嫌と言いながら後退りする事しかできなかった。 そして彼女の心臓を一刺し。 彼女は吹く風と共に消えていくのだった。


 丁度霊が到着したのは女性が消え去った後だった。 


「お前、何者だ? 」


 仮面は霊の方を見た。 霊が現場に来て、今できる情報で分析をする。


「お前か? この辺で噂になっていると言う殺人鬼というのは? なぜ狩り人まがいの事をする? 」


 相手は刀を持っている。 霊とて抜かなくてはなら無い時の抜く準備はできていた。


「話す気はないか。 引く気もない、お前が切っていたのは何だ? 」


 仮面は霊に切りかかってきた。 刀はとても手入れが行届いている。綺麗でそして、とてもいい鉄が使われている。  霊もまた顔面に不思議な措置をつけている。 機械で出来たそれは暗視スコープなのかと思わせ、薄く青に光っていた。


 霊は自身の刀を抜刀した。

 霊の剣獅子灘刀ししだんとうもまたその鋭さを仮面に見せつけた。 今の受けを見て、仮面も目の前の奴が相当の手練れである事を悟る。 


「相当、刀を大切にしているようだな、 刃こぼれ一つ無いと見たが、相当の手練れか」


 霊は尚も問い掛けを続けた。霊が持つ刀と仮面の持つ刀は形の形状が似ていた。その刀に霊が反応する。


「それとも、その強固に鍛えらえた刀のおかげが? その刀どこで手に入れた。 なぜお前がそれを持っている? どこの機関の所属だ? 」


 回答はない。  


「そうか、なら力ずくでも話してもらう。 お前がなぜ狩り人をしているのかもな」


「霊? 何してるの? 我々の任務はあくまで偵察だよ? 」


 彼らには絶対の自信があった。 基本正体を見られるのはご法度だ。 指令と違う行動する。それは今後に支障をきたす、彼らにとって少しのミスは死に繋がるから。 だけど彼らは、そうであっても自由なのだ。なぜなら、見られたとて葬ってしまうのはいともたやすい事だから。


「まぁ、いいいけどね、 失敗だけはしないでよね。 霊」



 2人の剣が交差する、押しているのは仮面だった。 


「勿体ないね、 そんな太刀筋じゃ剣が折れる。 やはり私達とは違うか」


 仮面は蹴りを入れるが霊はしっかりとガードした。


くう、こいつ倒してしまってもいい? 」


「いいんじゃない、邪魔なら。 すぐに隠蔽しちゃえるでしょ。 どっちだっていいよ、現にそいつ殺したって問題ないやつでしょ?」



 何かがフル回転したのが分かった。 それと同時に、仮面が一方的に攻防する。さっきまで押していた仮面が嘘のように後ろに後退していく。 隙を見て足を蹴った霊は見事に仮面を転ばせた。

 仮面の剣を払いのけると仮面に刀が突き刺さる。 と思ったのだが、刺さっていない。

 霊はそのまま高圧の電気を流されて動きを止めた。


「ぐあっぁぁぁぁ゛あっぁぁ」


「霊、大丈夫? 」

 

 すでに仮面の姿はもうない


「ちょっとまずった」


「もしかして逃がしちゃったの? 霊にしたら珍しいね

まさか、霊が逃がしちゃうなんて」



「アイツ、私達の武器を持っていた。 なぜ?」


「それはおかしいね、 うちらの武器が出回るはずなんて絶対ないんだから

とりあえずいったん帰ってきなよ、話はゆっくり聞くよ」


「いや、アイツを追う。 このまま放っては置けない」


「無理だよ、止めときな。 さっきの奴、尋常じゃない速さで動いて行ったよ。

 そのバイザーでもとらえきれない速さでね。あれは人間じゃないかも」


「空の力なら追える」


「そうだね、僕の力を使えばやつの住所のも現在の居場所も簡単につかんで見せる。

だけとそれは今回の指令にない。 それにあれは対象外だ。 そんなことに、この設備を使ってしまえが僕は上から殺されてしまうよ。 今回はそう言う指令で来たわけじゃないでしょ」


 

「分かった。 帰還する」



スプイードドック隠れ家


「アイツはいったい何なんだ」


「おかえり、この街も色々大変だよね、なんか色んなことが起こってる感じ

 病原体に、異形種の盗伐に暴れ回る馬鹿成敗、で我らが武器を片手に徘徊する殺人鬼ね

そりゃ政府もうちらみたいなもんつくるわ」


「うちの武器が盗まれている? もしくは裏切り者でもいるのか?」


「それは絶対ないよ。 もしそうなら、そいつは今頃この世にはいない。

それに、うちらにもすぐ情報と、もしかしたら依頼が来るはずだよ。 まぁ、本当はこうやってうちらが合うこと自体がタブーのタブー何だけどね。ゆるくなったよね。

まぁ、それだけ何かあったらうちらを簡単に殺せるようになったって事だろうけどね」


「じゃあどうして、こっちの武器を」


「んーそれは分からないけど、もしかしたら模倣品かうちらの誰かが単独でやっているとか? 」


「それは無い。 あいつの太刀筋、私達のモノではない。 あれは素人だ。 いや、どこかの流派は混ざっていたかもしれないが」



「まぁ、その件はこっそり独自で調べてみるよ。 もうそのことは忘れな。

 今のうちらの敵は暴れくるってる馬鹿共バイパーたちでしょ」


「あぁ」


 政府直属の特殊隠密進行部隊。 彼らは政府からの指令の元行動する。政府の忠実なる番犬、そして必ず成し遂げる、政府に認められた隠密部隊である。

認められているという事は何をやっても、通ってしまう。しかし、少しでもミスをすれば一瞬で政府に消される。彼らの事を知る者等いないからだ。

だから、彼らは政府の者であって政府の者ではない部隊とも言える。 通常であれば、警察や軍隊、特殊部隊と言ったものを動かし鎮圧するのが普通だ。 災害や救出活動なら軍隊や消防隊と言った部隊が動く。 だが今回はそれを超えた、いや、全てのモノから認知されていない政府のほんの一握りの上層しか知らない部隊を動かしたのにはそれだけ面倒な事という事でもある。

 表だっては軍隊や特殊部隊という警官隊が町を監視、警備していたが、彼らにはさほど期待をしてはいない。 それは形だけの意味しかない。






政府支部 六道拠点


「支部長、 皇様より封が」


「そうか、来たか」









 政府は暴れ回るバイパーに対し、直接に警告の文を送りつけていた。


 

「総長!」


「なんだ?」


「政府からの警告文が来ています」


「警告文? は?!俺らが何したってんだ? ちょっとみせろ」


 バイパー総長はその文に目を通した。


「どうしますか総長? いくら好き勝手やってても、さすがに、政府でこられりゃ力の差があり過ぎる」


「は? お前何ビビってんだ。 俺たちは令嬢にも手を出してねぇ。 なぁお前らもそうだろ?

誰か令嬢に、政府に喧嘩を売ったやつがいるかよ?」


 バカでかい声で、仲間に問い掛けたが、返答するものは誰一人いない。


「ほら、見てみろ。 俺らは何ら攻撃なんかしてねぇ、俺らはただ1人の男を探してるだけだろうが。 なのになんだこの文は。 まるで俺らがすべて悪いような書き方をしてやがる。 先にやられた被害者はこっちだ。 かまわねぇ続けろ」


「だけど総長」


「はぁん? 政府が出てくるってんなら、そいつも潰せ。 結局力で示さなきゃ何も変わらねぇんだよ、この世界はよ。 じゃなきゃ弱者は黙って指くわえてろってか。

てめぇはそれが良いのか!」



「そ、そんなことは」



「向こうが出て来るってんなら、出てきた奴は潰しゃいいんだよ、どんなことしてもな」


 大量の歓声が上がる。 周りにいるバイパー、ここに集まる仲間はみな同じ想いなのだ。 鼓舞された彼らの熱気は凄まじい物だった。


「勘違いすんなよ! どれだけ腹が立ってもこっちからは手を出すな! 何があってもだ。 向こうから上げてくるってんなら話は別だがな」



 


「おい、ユウカ! ユウカ!」



 エリィーが必死にユウカを呼んでいた。


「あ、あれ? 俺何で」


「学校とやらにはいかなくていいのか?」


「え?今何時だ? 」


「もう7時だぞ」


「何だって?! ありがとうエリィー」


「うむ」


 ユウカは慌てて身支度を済ます。いつの間に寝ていたのだろう。 また昨夜の記憶がなかった。


「昼飯は昨日の残りが入ってるから悪いけどそれを食べておいてくれ」


「わかったぁ」


 ユウカは足早に家を出て行った。



 行く道を掛けていると、見た姿があった。 黒い筒に学生服、そしてスマホを触ってる。間違いなくあの後ろ姿は舞だ。



「よぉ、舞、はぁ、はぁ、」


「何? なんであんた走ってんの? 朝から馬鹿なの? 」


「ちょっと遅れるかと思ったんだけど、お前の姿が見えたからもう大丈夫かと思って」


「は? 何それ」


「それより、お前あの後大丈夫だったのか、あいつら車で動いてたから捕まってないかと心配して」


「何でアンタに心配されないといけないのよ」


「何でって、あんな怖そうな連中に狙われてたら心配するだろ普通。

 お前何やったんだ?」


「別になんもしてないわよ」


 舞をよく見るといつも持っている黒い筒も、スクールバックもすべて右肩にかけていた。


「あれ? お前なんで両方右にかけてるんだ?」 


「別に、筋トレだから」


 ユウカには何か隠してるようでならなかった。 もしかしたら、あの後あいつらに捕まって何かされたんじゃないのか。 もしくは暴行されてるかもしれない。 そう考えると心配でならなかった。


「お前もしかして怪我してるんじゃ?」


「はぁ? 何でそうなるの? 」


「何か隠してるだろう。 ちょっと見せてみろ」


「はぁ? 何でアンタに見せないといけない訳? ちょっとやめてよね」


 ユウカは心配すると、どうしてもほっておけない。 あまりにもしつこく心配してくるので舞も必死に逃げた。 その結果、前を歩く学生に思いっきりぶつかった。後ろを振り返りながら足早に走ってた舞はそのまま倒れた。


「痛っ!」


「いってぇ」


 舞はすごく痛そうな顔をしていた。


「ご、ごめん」


「気をつけろよな。バカップルが」


 前を歩いていた男子学生は不機嫌に歩き直した。


ユウカは照れていたが、あまりに舞が立ち上がらない為舞を見下ろした。



「おい、大丈夫か? 」


 差し伸べる手を舞は取らなかった。


「お前、…それ、 血が……」


 制服の中から血がにじみ出していた。


「やっぱりアイツらにあの後何かされたのか」



「うっさいわね。 ほっといて」


 舞はすたすたと言ってしまった。 ユウカは何もしてあげられない事に不甲斐なさを感じていた。学校が終わった後、ユウカは舞の家を覗いてみた。


 今の所あいつらは来ていないようだが、もしかしたらまた来るかもしれない。だけどユウカは思った。 あいつらが来たら自分は何をしてあげられると言うのか。 考えても仕方がない。何もできることは無い。 とにかく自分のできる事をしようと。 それがユウカだった。



 暫く待ったがあいつらも、舞も家に帰ってくることは無かった。 最初はもうとっくに帰ってると思ったが、家の灯りが付かないという事は帰っていないという事だ。 流石に帰りが遅くなったらエリィーが心配する。 今日は帰るしかない。 だけど舞はどうしているのだろか。そしてフランもきっと一緒なのだろう。 心配するユウカだった。 


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