第20話 学校参観 前半


  昔昔の事である、貧しい家があった。

 その家には兄弟がいた。


 長男に立つ男の子と、その後ろを歩く小さな妹がいた。


 彼らはとても仲が良く、いつも一緒に居て、兄が妹をいつも守っていた。

 妹の性格はとても明るくそして、優しかった。 それは周囲をも一変させるほどの優しさだった。

 兄もまた優しい少年であった。 困った人が入れば決して放っては置けない。 状況判断をしっかりとする為、冷静さが目立つ存在だった。


 妹の行動は、それとはまた違った。

 彼女にはまだ、善悪の判断がつかなかった。

 それはそういう環境で育ってしまったせいもあるのだろう。 


 その優しさは、時に自分を危険に追い込む優しさだった。

 だが、それが事件にならなかったのは兄や、周りの優しさが守っていたから。

 ゆえに、彼女はそのことに気づくことがなかった。


 ある時の事である。

 家柄で、もめごとがあった。 ある少年の非道な行動によって、妹が騙されているのを知った兄は、どうしてもそれが許せなかった。

 

 妹は御人好しなところから、彼に騙されているとも知らずに、いいように使われていた。


 この街には五大業と言う各所の家に伝わる偉業がある。

 それは選ばれた5の家系にもたらされ、この地を守っている。

 この御家ごけによって街の経済は均衡と成り立ちを保ちながら発展している。


 しかし、その一男である子を、兄は妹を守る為とはいえ傷つけてしまった。

 御家の亀裂はさらに深くなり、このままでは五大業の務めが務まらなくなると、やがて、五家を集める大事へとなり、五家によって和解の掟が定められた。

 それは兄と妹の永遠の別れ。 


 妹は相手方の御家へ嫁ぐ形で宥和ゆうわとした。

 この時兄は絶望した。 自分が守るためにしたことが、結果妹をさらに苦しめる人生へと追いやってしまったのだと。

 その御家の一男は占めたような顔をして笑っていた事を、兄は忘れていない。


 そして妹の、苦痛の日々が始まったのである。







◇◆◇◆◇◆◇◆



「良し、着いたぞ」


 


「……これ、本当に入るの? 」


「うむ。 ここからユウカの感じがするからな。

 間違いなくこの建物にいるはずだ」


 フード女子はどうもこの先へ入ってはならないような気がしていた。

 入口は、大きなレールが走る、2連片引門扉で塞がれていたからだ。


 その立派な門扉は、何人たりとも越えさせないと言わんばかりの風格を備えていた。


「良し、行くぞ」


「……これ、私たちの身長じゃ届いてない」


 

「うむ。 そんなこともあろうかと、こいつを持ってきたんだ」


「……え? 紐? ……それでどうするつもり? 」


 エリィーは自慢げに笑い始めた。


「まずお前が、その馬鹿力で私を門の向こうまで放り投げる―――」


「……うん。 わかった それで終わりなんだったら、早くして帰ろ~」


「待て待て待てっ、 ちゃんと最後まで話を聞けぇ! 」


「……だってぇ、門高いし私ひとりじゃ上がれないから」


「いや、勝手に投げて帰ろうとするな!

私が着いた後、ロープを垂らすから、それを使ってお前もあがってくればいいのだ」


「……え~、私も行くの? 」


「なんだ? 嫌なのか?? 」


「……ん~」


 フード少女は何やら悩んでいるようだった。


「とりあえず、いいから向こうへ上げてくれ」


「……わかった」


 フード少女は軽々とエリィーを持ち上げた。


「……じゃぁ、行くよ~」



「うむ。 頼む」



「……えいっ」


 エリィーは本当に軽かったのだろう。

 まるで風船を投げ入れる様にフード少女は持ち上げて投げた。


「よし、着地だ!

 さぁ、お前も見られないうち早くこれで」



 頑張ってロープの紐を垂らそうとする。

 だが、これには誤算があった。


「しまった。 ダメだ、高すぎてロープを向こうまで垂らせない

 なんて、高い塀なんだ」


 学校の門扉は何人たりとの入れない為か、普通の門扉よりも倍以上高い。

 大人の身長も余裕で超えるほどの高さがある。

 投げ入れてもらいないと入れないエリィーが、柔らかいロープを投げたところで、その高さを超えさせる事が出来なかった。


「……何がしたいの? ……あなた」


 ただ、エリィーは必死に上を向ていて跳ねているだけだった。



「これがだな、 届かないんだぁ」



「……はぁ、もういいから。 ちょっとそこ、離れてて」



 フード少女はそう言うと思いっきり重心を落として構えだした。


 同時に、彼女はエリィーの前から消えた。

 気づくと、空から、彼女が落ちてきて、エリィーの横に着地した。


「……はい。 これで大丈夫」


「――おまえなぁ」


 エリィーはそんな事ができるのなら、さっきの押し問答は何だったのだと、思った。



「さ、さぁ、では気を取り直して、潜入と行こうじゃないか」



「……おー」


 フード少女のなんともやる気のない掛け声であった。



ある部屋の扉を開ける。



「何じゃここは誰もおらんのか? 物静かな場所だな」

 

 フード少女も初めての物に興味があるのか物色し始めた。



「にしてもなんだここは。 机がいっぱいあって、この棚に入ったいっぱいの生物は?

 何か研究でもしているのか?」


 エリィーの目には、ホルマリン漬けされた、胎児のサンプルや、昆虫、や動物が映っていた。



「……た、大変だ、エリィー」


「ん? どうしたのだ」



 エリィーは奥の声がする部屋へ入った。



「……人間が、内臓を丸裸にされてつるされてる。

 

 それにこっちには白骨化した死体がつるされてる」



「いや、――それはだな人体模型と言うやつらしい……」


「……模型? 殺されてる訳じゃないの? 」


「そうだ、ただのプラスティックでできたおもちゃだ」


「……そ? そうなの

 これ、すごく柔らかいけど」


「うむ。 そうだな。

 私が知っているのより、ここのはさらに構成に作られているらしいな。

 ここまで本物に近いとそこまでする意味はあるのかと思えてしまうが」


 肌も柔らかく、瞼も薄い。 まるで本当の人間さながらの模型だった。

 ちなみに、内臓も結構そっくりだったりして、生徒の間では恐怖の人体模型と恐れられている。






「……偽物なら良いけど」



「そうだな、この部屋はなんだか、色々と気持ち悪いから、もう出よう」



「……うん」


 彼女たちは、声の聞こえる部屋は飛ばし、音のない部屋へと歩みを進めた。

 エリィーはユウカを見つけたいのか、声のする教室には、こっそりと覗きながら歩いていた。



「……ねぇ、―― 聞いてる」



「な、なんだ? 」


「……そんなにまじまじ覗いてたら、見つかる」


 エリィーはいつの間にか夢中になって教室を覗き込んでいた。


「……それより聞いて。 あの奥の部屋。 いい音が聞こえてくる」



「あぁ、さっきから鳴っているやつだな。 

 あれはきっとピアノと言うやつだ。 あれに合わせて人間が合唱しているんだろう」



「……ぴあの? 合唱」


「だから、あれだ。 楽器に合わせて、歌を歌うようなことだ」



「…… 歌 ……すごい、あんなに綺麗に歌えるなんて」



「あ、おいこら、ちょっと待て」



 フード少女はてくてくと教室の方まで近づいて行った。


「ちょっと、勝手にいくな」


「……もう少しこの音を近くで聞いてたい」


 その時だった。丁度学校のチャイムが鳴り響いた。


「な、あんだこの音は? 」


「……うるさい 不況和音」


「もしかして、私たちが見つかったか!? 」


「……はっ、それは、まずい」


 二人は一目散に逃げた。


「先生ー! 」


「どうしました? 」


「いま、扉の向こうに小学生みたいな子がいませんでした? 」


「え? 何言ってるのあなたは」





「危機一髪だったのか? 」


「……わからない ハァ、ハァ、 ……でも、ハァ、警報は止まった、みたい」


「そ、ハァ、ハァ、そうだな」


 エリィー達は階段を駆け上がって休んでいた。

 と騒めく声がそこら中から聞こえだし上からも下からも近づいてくる。


「お、おい、これはまずくないか」


「……そうだね。 挟まれた」


 休み時間に入った。 教室から移動する学生が下から、上から移動してくる。

 どう考えても鉢合わせしてしまう。

 階段に隠れる場所などないのだから。



「こ、こんにちわ~」


「…………………………。 」


 見つかった。



「きゃ――可愛い

 なんで? どこからきたの? 」



「え? 何々? 小学生だよね? 何で学校ウチにいるの―?」



「おい。 やべぇって。 迷子か

 誰か保護者がいるんじゃないのか? 」



「え、何々? どこの子??」



「おい、先生呼んで来いって」


「わー可愛い、なにこの子たち? 

 外国人?? 可愛すぎるんだけど、お人形さんみたい」



 見つかってしまった。 仕方がない、誰であれ、この場合見つからないのは無理だ。

 エリィーも、覚悟を決めていた。

 

「終わったな」


「……終ふぁっつぁ」


 フード少女は女子高生たちに頬を刷られていた。



「おい、お前の力で、何とか振り切ってくれないか」


「……分かった」



 エリィーも女子高生に抱きかかえられて身動きが取れなかった。


「キャ――

 なに? 」 



 あまりにも目に止まらぬ速さで、女子高生たちから、エリィーを救った。


「すまない、助かった

 お前を連れて来て正解だった」


「……うん。 この借りは高くつくよ」



「んな! 」





 3年のクラス。


「なぁ、次科学だぜ。 俺さ、課題やってきてないんだよ。

 この昼休みにさ、写させてくれよ。 頼む。 

 ところで、お前の目のくまなに? 本当にヤバいよな」


「はぁ? 

 それが人様に頼む態度かよ」


「おまえ、そんなになるまで勉強しなきゃなんねぇのか? 」


「いや、お前がしなさすぎなだけだろ」


「馬鹿やろう! 人生は楽しんでなんぼ。

 失った時間は取り戻せないんだぜぇ」


「何かっこつけてんだよ。

 大学は入れなきゃ元も子もないだろ」


「今はそんなこと忘れろ」


「じゃあ、宿題も別に写さなくていいよな。

 これでゆっくり飯が食えるしな」



「あ、嘘、ごめん。 そこは写させて 」


「たくっ」




「あ―、ねぇユウカ達! 」


 黎だ。


「星見なかった? 」



 星? 彼女は、先に教室をでたが何をしに行ったのかまでは分からない。


「さぁな。 でもさっき出て行ったぜ。 教室」


「え、? そうなの? 」


「弁当忘れて購買に行ったとか」


「ばか、桂川。 お前じゃあるまいし」




 粗方間違ってはいないのかもしれない。

 この学院の食堂には高級弁当と呼ばれるものと、最高のパンと呼ばれる物が並ぶ。

 これは全校生徒でも有名なモノで取り合いになる。


 これがまた美味しくて200円と来たら、学生は皆、喉から手が出るほど欲しい。

 パンは大体1日20個。

 弁当は12個ほど並ぶ。


 たとえお弁当を持ってきている生徒でも、狙うものは狙うそれは、バーゲンの戦場のようになる。


 パンと弁当の売り場は対面を向いて離れており、2つ一気に手に入れるのは無理だろう。

 

「きっと、星ちゃんは高級弁当を狙ってるんだろ

 間違いない」



「そっか。 じゃぁま、帰ってくるまでここで待ってるかな」


 黎はユウカの机に座った。



「おい、俺のノート、ぐしゃぐしゃにするなよ」



「あ、ごめんごめん」


「何言ってんだ。 黎ちゃんのお尻が汚れない様に、敷物を敷いておくのは最低限の作法だろう」


「桂川、優っさしぃ! 」


「桂川、お前、絶対ノート貸さないから」


「おい、女、早くその神聖なノートから降りろ、馬鹿垂れ」


「ちょっと何、急に態度変わったんだけど。

 サイテー」


「は? 大切なノートの上に座る奴が悪いんだ。 

 大事なノートだぞ」



「ハイハイ。 降りますよ」


「桂川、お前ってやつは――」


「じゃあ、私お邪魔みたいだから、ちょっくら星探してくるね」


「おー行ってらっしゃーい

 星ちゃんによろしく」



「ベー、だ 」


 星は見送る桂川に下を突き付けた。


「にしても、やけに、今日は外が騒がしくないか? 」


「あ~、だよな、なんか有名人でも来てんじゃね」


「あほか、そんな訳ねぇよ」









「……とりあえず、どこに向かう? 」

 ……ここの道、なんだか人間ばかりでてくるけど」


 

「きゃぁぁあっぁ」

「キャッ――」


「何、今の風、」

「さ、さぁ? 」


 フード少女は音速の速さで校舎を駆け回っていた。

 普通の人には姿すら見えない。 強い風だけが、吹き抜けたようにしか感じない。

 彼女達は、隠れる場所が無く、校舎内をぐるぐると何週も回っていた。


「うむ、困ったな。 さっきの警報で、きっと一斉に生徒が飛び出してきたのだろう」



「……何てこと」


「さっき、先生とか言うのを呼べとかいっていただろ。

 きっとそれが、ここの指揮官なんだろう。

 獲物を捕らえたら、ボスに伝えるのはどこの世界でもそうだからな」


「……じゃあ、ここの人達は皆私たちを」


「あぁ、捕まえる為に出てきたのだろう」


「……エ、エリィー……」


「どうした? 」




「……もう走り過ぎて、息が……

 早く隠れる……場所を」


「そうだったな。 お前ずっと私を抱えて走りっぱなしだったな」


「ふんふんふんふんふん」


 フード少女は大変苦しかったのか、めちゃくちゃ首を縦に降った。



「そうだ、取りあえずあのい物騒な部屋へ逃げこもう。

 あそこなら、あの見た目故誰も近づかないのではないか」



「ハァ、……で、ハァ、それはどこ? 」



「うっ、 わ、私もわからん」



「ン゛ん゛ん゛ん゛ん゛んんん゛ん゛ん゛ん゛! 」


 フード少女は暫く学校内を走り続けさせられました。


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