第9話 怪しい男

「うわぁぁぁあぁぁー

 どうしよう。私の角はどこへ行ったのだ」


 どういう事なのだ?

 そう言って鏡の前で自分の姿を見たエリィーは仰天していた。


 いつもちょこっと顔を出す、可愛い角が無くなっている。


 おまけに、羽も、しっぽも無くなっている。

 もう、ただの少女である。


 だから、今彼女はとても騒いでいる。



「な、何が、どうなっているのだ? 」



「わからねぇ、わからねぇけど。

 とりあえず、一旦、落ち着けって」



「そう言う訳にもいかんだろぅ。

 無いんだ! 無いのだぞ。私の体の一部分が」



 自分の体のパーツがある日突然無くなっていたのならば、それは誰だって、あたふたと気持ちが落ち付かなくなってしまうのは至極当然だ。



 じっと鏡で自分の姿を見つめるエリィー。

 相当ショックなのが伺える

「エリィー……」



「まぁ、無くなってしまったものは仕方ないか」



「いや、いいのかよ!? 」



 あまりにもあっさりとした言葉に差驚きを隠せない。


「うむ。 どこにも落ちてないし、もういい」



「いやいやいやいや、そういう問題か?

 と言うか良い訳ないだろう。 つうか、お前さっきまで騒いでたじゃん」



「いや、良いじゃないか。

 これで晴れて、私もお前と同じ見た目だし。

 これは、これで、色々悪くない。 まるで私も人間だな。


 それに、わずらわしい事をする必要も、隠れる必要も、なくなった訳であろう? 」



 策士のような顔をする。



「いや、だからって、とりあえず、原因を探ってみよう。

 何か解決策があるかもしれない。

 大体急に無くなってんだよ。 お前体に違和感とか無かったのか?」



「う~ん。 特に何も無かったぞ。

 それより、こんなところで立ち話もなんだ。 とりあえず、部屋に行こうじゃないか。

 ユウカも疲れているだろう」


 いや、今俺の心配とかしてる場合か? なぜ当の本人の方がユウカより落ち着いているのかがわからなかった。

 

 本人は何気ない顔してとことこと奥の部屋へ歩いて行った。



「何であいつの方が落ち着いてて、俺が慌てることになってんだよ……」


 いつの間にか立ち位置が入れ替わっている。



「それでだ。 お前も落ち着いているからちょっとこの機会に言おうと思ってたんだけど」



「なんだ、言ってみろ」



「お前はどこから来たんだ?

そして、お前は何者なんだ? 」



…………………………………………。


「ユウカ、御飯はまだか~」



「何故、話題を変える」



「だって、こんな話、言ったって誰も信じないだろう」



 何処か悲しげだった。

 エリィーは当初迷子みたいになっていた。

 道端で助ける人がいなかったのは、ウィルスのせいもあるのかもしれないが、それだけでは無かったのだろう。


 全く違う国から来た人の様に、住む場所がない。

 暮らしが分からない。

 頼れる場所を探していたのだが、純粋に素性を話して、良い思いをした経験がエリィーには無かった。



「この話はしたくない」


 話して、また馬鹿にされたり、頭のおかしい奴だと思われて、今のこの快適な住処を失う事をエリィーは酷く恐れていた。



「いったい何があったんだ? 」



「私もわからない。

気が付いたらよくわからない世界に来ていて、本当の事を語れば、お前たちに頭がおかしい奴変な奴だと言われる始末だ」



「なぁ、俺にもその本当の事ってのを教えてくれないか? 」


 エリィーは戸惑っていた。


 相当辛い経験をしていたのだろう。



ピンポーン。


 チャイムの音が鳴る。


 ユウカは玄関の方へと、向かった。


 エリィーもちょこちょこと後ろをついて来ていた。



「はーい、どちら様ですか? 」



 扉を開けると一人の男が立っていた。


 帽子を深々と被り、顔が隠れて見えにくい。

 さらにその上からフードまで被るという二重態勢。



「すいません。 宅急便でーす」



 頼んだ覚えなどないユウカは、首を傾げた。

 そもそも黒いパーカのようなものを羽織ってフードまで被っているなんて怪しすぎる見た目だ。


「○○号室のユウカ様宛になっています」



 ユウカはとりあえず、記載された届け先の住所があっている事を確認し、荷物を引き取った。


「それでは」


「ありがとうございます」


 誰からなのか、差出人は不明な荷物だった。



 エリィーがまた通販か何かでユウカの名前を使って買ったのだろうとエリィーに聞く。



「いや、そんなものは私は頼んでないと思うが」



 との事だった。


 ユウカにも他に思い当たる節はない。



 とりあえず中を開けて確認してみた。



「なんだ? これは? 」


 中にはよくわからにものが入っていた。



 砲丸投に使うような黒くて丸い、球体。


 試しにユウカは手に持ってみる。


 重さは感じるが、見た目より軽い。




「何だ? それは?

 何が届いたんだ? 」



「いや、わかんねぇ。

 何なんだろう」



「ちょっと貸してみろ」



 エリィーは軽々と奪い取る。

 何やら思いつめた様に球体を見つめていた。



「んーこれは……」




「お前、何かわかるのか?! 」




「うむ」



 ユウカは驚いた。 何故わかるのかと? やはりエリィーは賢い子なのかもしれない。


 ユウカからすれば、何に使うべくモノなのかすらわからない。

 ただ、丸くて黒く、硬い球体。

 転がして遊ぶだけのモノなら、あまりにも良い素材を使い過ぎている。


 周りは金属っぽいものでできているようだ。



「よう、わからんが、転がして遊べるんじゃないか? 」



 そう来たか。

 やはり、エリィーはエリィーであった。

 彼女は理解等してはいない。

 あくまで感を伝えたに過ぎなかった。



「もういいわ。

 ちょっとかせ」



 ユウカは取り上げる。



「うわぁ、何するんだ! 」



「何処かにボタンとか何かないのか? 」




 隅々まで調べてはみたものの、これと言って何もなかった。

 結局これは、ただの丸い球体であった。

 箱にも特に説明書など、何か書かれたものは入っていない。




「なぁーユウカもういいんじゃないか?

 どう見ても、ただの丸い球体でしかないぞ

 もう、飯にしないか? 」



「あぁ、そうだな。

 何かの置物かもしれないな。

 にしても、趣味悪いな。


 そだな、御飯にするか」




 ユウカ達はテレビの横に、箱のまま置いて、今日一日を終えた。

 蓋は空けたまま箱に入った状態でテレビの横に置かれた。



「よーし、もう寝るぞぉ」


「うむ。 もう寝よう。 お休みー」


 彼らが寝静まった後。


 それは、そのものの意味を現した。



 彼らのこの行動が、これから大惨事を生むことになろうとは、誰も知らない。





 それは動き出した。

 機械音と共に、その形を変えて。



 赤く点滅するランプ。

 まるで何かを受信している。


 その球体は両脇にプロペラのようなものを出し、飛び上がった。


 これは小型ドローンと言ってもよい。


 ドローンは飛び回り部屋中を探索する。



 いや、何かを探してる。

 それは、エリィーの前で止まった。



 深夜帯、別の部屋から、スマートフォンのようなものを見てにやつく男がいた。


 ユウカの住むマンションではない。

 もっと別の何処かの建物。



 その画面に映し出されていたのは、エリィーだった。


「間違いない。 こいつだ。

 見つけた。 見つけたぞ。

 あいつの言っていた事は本当だったんだ」


 深々と帽子をかぶっているそいつは、楽しそうに笑っていた。



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