04
和樹は、またドアの前の定位置に戻ると、また小さなドアを何度も開け閉めしていた。そして、開いた大きなドアに思いっきりぶつかった。
「邪魔だ!」
「人にぶつけといてそれはないだろォ!?」
頬を撫でながら怒鳴り返すが、男たちが向けた銃にすぐさま手を挙げて降参する。
男たちは弥に近づくと、銃を向けながら、首に変身を阻害する装置を取り付け立たせる。
「よし、ついてこい」
「……」
弥はなんの抵抗もせず立ち上がり、男たちについていき、ドアの閉まる音が静かな部屋に響く。
そして、数秒の静けさを終えると、微かに聞こえる焦った男たちの声。そして、小さなドアの向こう側が開いた。
「終わった」
「おつかれーじゃあ、頼むよ」
すると、静かな部屋にゆっくりと機械音がひとつひとつ響いてきた。
「それ二番目……それ一番…………それ三番……それ四番」
響いた音に対して、時々何番目かいう和樹が四番目まで言い終えると、すぐにドアは開き、弥が現れた。
「その少年は実に耳がいいな」
「ま、音楽やってるもんで」
笑顔でそう答えた和樹の脇を通り過ぎて、部屋の外に出た遼太は廊下で気絶している男たちに軽く同情しつつ、手錠をして変身もしていない普通の状態で、大人二人を一瞬で気絶させた弥に冷や汗をかきながらも、辺りを見ればもう誰もいない。奥には階段が見える。
「装着っ」
「へんしーん」
後ろで早速変身している二人は、弥の首についた装置を壊し、外していた。
「モデルチェンジ」
遼太も弥も早速、変身すると階段に向かって走り出した。
***
その頃、異変に気がついた小人内は、絶叫にも近い怒鳴り声を上げながら、研究所のビルのシャッターを降ろし、警備員たちに遼太たちを捕らえろと命令するものの、さすがにそこはA級能力者なだけあり、普通の警備員では話にならない。
「クソックソッ! ガキ共がッ!」
ふと視界に入った少女は、その様子に安心したように頬を緩めていたが、小人内と目が合うとすぐに表情を強ばらせた。
そして、小人内はニヤニヤといやらしい目でルーチェに近づく。まるで、勝ちを確信したかのように。
「もうサンプルは取ったんだ。もう、お前なんて必要ない」
ルーチェの髪を掴もうとしたその瞬間、刃が小人内の指を掠めた。当たってこそいないが、動きを止めるのには十分すぎる威力だった。
突然現れた男のマフラーは、ふわりと風に揺れ、ルーチェの前に降りてきた。
「
黒に似合わぬ明るい声で、拓斗は刀を持っていない手でピースを作る。
「女の子にあんな顔で近づくなんて、ロリコンの風上にも置けないな!」
「誰がロリコンだ! だいたい、貴様いつから――」
「ずっといたぜ? ロリコンがルーチェを部屋に連れ込んだ時から」
拓斗の能力の一つ、闇に紛れる能力。実際は人の視線から外れるという、透明化に近い能力だ。その能力を使い、ずっとルーチェの隣で、遼太たちの様子を見ては笑っていたりしていたのだが、二人は全く気づいていなかった。
その拓斗の目立ちたがりとは、全く逆方向の能力ではあるが、こうして現れた時のインパクトは普通に現れる時の数倍だということで、気に入っていたりもする。
「新幹線に乗っていたなら、眠っていたはずだ……! なのに、何故!?」
「それは、俺様が持つスターの直感ってやつかな」
決めポーズを取る拓斗に、ルーチェは溢れそうになる涙を必死に堪えていた。
「さぁてと、お姫様を返してもらうぜ! ロリコン大家!」
刀を構える拓斗に、小人内は悲鳴を上げながら後ろによろけ、パソコンに盛大にぶつかった。
「お、お前! 能力者のクセに、人を殺すっていうのか!?」
「もちろん」
拓斗はためらいなく、刀を振り下ろした。しかし、その先にあったのは、膨大な研究データが入った小人内のパソコンだった。
「殺さねぇよ」
バチンっという、電気が弾ける音と共に一瞬その周りは白い光に包まれ、周囲の電子機器は全て電源が落ち、建物は暗闇に包まれた。
研究者にとって最も重要なデータを破壊され、放心状態となった小人内を尻目にルーチェの元にくると、変わらぬ笑顔でルーチェの手錠に触れると引きちぎろうと地位からを込めるが、壊れる気配はない。
「……あとで弥に壊してもらおう! 今は脱出だ!」
部屋は真っ暗だったが、拓斗はルーチェを抱え上げると、迷いなく外に向かって走り出した。
***
その頃、脱出に向かっていた五人はというと、建物の中を走っていた。
「じゃあ、拓斗もいるわけ!?」
「いんじゃねぇの? 俺が寝る前に携帯で、車両に睡眠ガスがまかれてるから、車両に入らないで、ルーチェの護衛しといてくれ。ってメールしたし」
遼太が和樹の質問に答えた瞬間、目の前が真っ暗になる。
「あーいるな。こりゃ」
「盛大にやってるなぁ……さすがスター。やることがデカい」
「人の迷惑考えろよ!! こっちは、暗闇で見える奴いねぇんだぞ!?」
「非常灯は生きてる」
「日頃の避難訓練の賜物ですな」
「避難訓練なんてしたことねぇだろ」
「俺ら避難する方じゃないからなぁ」
文句を言いながらも、すでにロビー近くまで来ていた五人は、まっすぐロビーに向かう。
「シャッター閉まってたけど、アレどうする!?」
「能力者対策はしてるだろうから、俺は無理だからな!」
能力者対策をしていれば、おそらく属性攻撃には強く作ってあるだろう。そうなれば、属性攻撃をぶつけることが主な木在には壊すことは難しい。物理攻撃が主なこのチームで、それで困るということはないのだが、遼太はその斜め上を行った。
「わざわざ強化してる場所を破る必要はねぇよ!」
そういって、いつもの斧ではなく、金棒を持つと、ロビーのドアの横のただの壁の部分を思い切り殴り、粉砕した。確かに、シャッターのように強度を増していることも、能力者対策を講じているとも思えないが、
「人としてどうなのよ……それ」
「新幹線に睡眠ガスまいて人を監禁するようなロリコンに、人としてまともにドアから出ていく必要はねぇよ。この建物全部、破壊されないだけマシだと思うね」
それは確かにそうなのかもしれないが、和樹もなんとも言えない表情になる。先程までの小人内を尊敬しているような素振りは、一体何だったのだろうか。
「あんな接待プレイで喜んでる奴の何を尊敬しろって?」
「接待プレイ?」
「相手を楽しませるように、わざと実力を拮抗させるように打つんだよ。あのあからさまな接待プレイで、高笑いしてたような奴だぜ? 別に接待で負ける必要なかったのに、負けてくれたっていうのにさ」
「妙に詳しいね……なに? その優勝者と知り合いだったの?」
和樹が何か嫌な予感に聞いてみれば、遼太はなんてこともなさそうに、答えた。
「俺、準優勝だから後ろで見てたし、その後、話もして、優勝が君じゃなくてよかったって言われた」
接待などせずに、全力で倒しに行きそう。と、全員が言葉には出さないが同じ確信を抱いたが、そもそも初等教育の時点で、大人のボードゲーム大会で準優勝していることに気づくまでは、まだ時間が掛かった。
それに、その事実に気づくよりももっと重要なことが、上から降ってきていた。
「たぁぁぁすぅぅけぇてぇぇぇぇええ!!」
夜空に、光り輝く破片と共に降ってきている男と少女がいた。
「なんで飛べないのに飛んだんですかァッ!?」
「一応、スタッをふわっ……程度にはできる。俺のスター性で!」
「この高さじゃ、スタッじゃ済みませんからァァァアア!!」
先程まで堪えていたはずの涙が、別の意味で溢れ出し、拓斗たちに会ってから初めて心の底から叫んでいた。
地面が近づくに連れて、二人の悲鳴は大きくなっていったが、巻き上がる風に包まれた瞬間、悲鳴は途端に止んだ。
「ほらな! スターってのは、どんな場所からでも、ふわっ……って降りられる」
「考えなしにも程があるって!」
「俺が気付かなかったらどうする気だったんだよ……」
和樹が無事なことに脱力し、木在も杖を降ろすと二人とも無事なことに胸をなでおろす。もはや、小人内から無事に逃れたよりも、高層ビルから紐無しバンジーを行なって無事だった方にばかり目が行ってしまう。
しかも当の本人はまったくもって悪びれず、笑ったままで、ルーチェに泣きながら殴られていた。
「ほらーお前らー逃げ切るまでが脱出だぞー」
まるで遠足のような遼太の言葉に、全員が元気よく返事をして、夜の町に逃げていった。
***
路地裏をしばらく走った頃、そろそろいいかと遼太が足を止めると、まずは木在が座り込んだ。
「いくらなんでもだらしないだろ」
「体力なさすぎだぞ」
「休憩するなら別にいいだろ。だいたい、今日パンと牛乳だけだぞ。拓斗は食ったのかよ?」
「俺はロリコンの飯食ったぞ?」
そういえば、運ばれてきた食事がいつもより少ないと小人内が文句を言っていたが、原因はどうやら拓斗だったらしい。そんなことを思い出しながら、大きな鎧に似合わない小さな針金で、錠と外している遼太の方を見る。
「外れそう?」
この程度なら、弥でなくても変身して筋力がアップしている能力者なら、簡単に破壊することはできるが、怪我をしても困るということで、遼太がピッキングして開けていた。そんな技術一体どこで身に付けたのか、不思議に思ったが、遼太曰く、紳士の嗜みだそうだ。
「ほら、長老だって普通にしてるぞ」
「まだまだ若いもんには負けんよ」
朗らかに笑う長老に、木在も表情を歪め、拓斗も和樹も同じように笑ったが、拓斗は首をかしげながら長老を見ると、
「じいさん、どちら様?」
今更なことを聞いたのだった。
拓斗が不思議そうに見つめる中、突然、暗闇から男が降りてきた。
「長老! ご無事で!」
その男は、長老の元で跪くと、明らかに能力者である格好の拓斗たちの方の様子を注意深く伺っていた。拓斗たちも、突然現れた男に驚いて構えるものの、すぐに長老の笑い声に全員が驚いてそちらに目を向けた。
「じゃから、行ったじゃろ? 長老じゃよ。なに、あそこでなんのもてなしもできなかったからの。わしの家でもてなしてやろう」
「よろしいのですか?」
「うむ」
頷く長老とは裏腹に、男はまだ警戒したように拓斗たちを見ていたが、その拓斗たちはというと、相変わらず気楽なものだった。
「もてなししてくれんの? よっしゃー!」
「とりあえず、腹減った!」
「そういえば荷物は?」
「ロリコンに取られただろ」
「戻るのは危険」
「それなら、拓斗さんが脱出の時に持ってきてました」
拓斗、和樹、木在、遼太、弥、ルーチェと続き、拓斗が自慢気に自分のことを指さして、ポーズを決め、それぞれの荷物を置くものの、自分の分がなかった。
「あ、俺の荷物、駅のコインロッカーにしまってきたんだった……長老、それ取りに行ってからでいい?」
「では、それは部下に取りに行かせよう。鍵はあるか?」
「ほい、これ」
長老に鍵を渡せば、隣の男に渡り、男は来たとき同様、一瞬にして消えた。
「さっきも思ったけど、能力者、ではないよな?」
「アレだろ? 帝国に昔からいるっていう、忍者」
「俺、本物初めて見た」
「俺もー」
「お主ら、本当に緊張感が無いのぉ。まぁ、よい。わしの家に案内しよう」
ついてこい。と言った長老の表情を、誰一人として見ることはできなかったが、もし見ることが出来ていれば、この先のことも少しは予想できたかもしれない。
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