第18話 報告会

その日、第一営業部内に衝撃が走った。


俊輔たちが結婚することと、既に一緒に暮らしていることを会社のみんなに報告したのだ。


「あの、拝原係長。すいません。そういうことですので今後もよろしくお願いします……」

「おう……」

拝原係長はこの後、三分間、口が塞がらなかった。


「あの、北山君もよろしくね」

「はあ……」

北山はこの後、一分近く瞬きが止まった。


「それで、結婚の報告会というわけでもないんですが、今度の日曜日に皆さんをうちへご招待したいのですが……」


「はあ……」「はあ……」「はあ……」「はあ……」「はあ……」


そろって返事をした全員の目は焦点が合っていなかった。



日曜日の午後。

第一営業部のみんなが俊輔と舞奈のマンションへ向かっていた。


「しかし、どんな生活してんだろな、藍澤課長と高城って」

「いやあ、やっぱり会社の中と同じで高城さんがガンガン怒鳴られながらコキ使われてんじゃないスか?」

「いやいや、もしかして意外に高城さん、家では亭主関白だったりして」

「いやあ、藍澤課長に文句の一つでも言ったら百倍くらいで返ってきますよ!」


マンションのインターホンを鳴らすと中から返事が聞こえた。

ガチャリと音がして玄関の扉が開く。

すると、みんなが見慣れない笑顔の女性がロリ可愛いエプロン姿で出迎えた。


「あーっ、すいません。部屋を間違えました!」

「なにやってんだよ。バカ!」


部屋を間違えたと思い、みんながゾロゾロと引き上げようとすると、

「ちょっとみんな、どこ行くのよ?」


「え?」「え?」「え?」「え?」「え?」

全員が一斉に聞き覚えのある声に振り向く。


「ええーっ! 藍澤課長お?」

宇宙人を初めて見るような驚愕な目でみんな舞奈を見つめる。


「いらっしゃいませえ! お待ちしてましたあ!」

今まで見せたこともない課長まいなの眩しい笑顔に全員が目を疑った。


「俊くーん。みんな来たよおー!」

舞奈が奥にいる俊輔に声を掛ける。

その甘たるい声にみんな顔を見合わせた。


中に招き入れられ、みんなリビングに座ったが、全員がいまだに茫然として口が開いたままだった。


そこに照れるように俊輔がやってきた。

「いらっしゃいませ。今日はお越しいただいてありがとうございます」

人間がやってきたのでみんな少しほっとする。


「高城、あ、あの人、本当に藍澤課長か?」

拝原係長はとても信じられないようで、いまだに瞬きをしていない。


「はい、間違いなく本人です」

俊輔は苦笑いをしながら頷いた。


「いや、あの、眼鏡をかけてないので顔の印象が違うのは分かるんだけど、性格が全然……」

「ああ、まあいろいろありまして……」

俊輔は説明に苦労した。


「俊くーん。ちょっと手伝って!」

舞奈が俊輔を呼ぶ声がする。


「あの、もしかして課長って二重人格スか?」

北山があからさまに訊いた。

「こら! 失礼でしょ!」

優衣が北山を叱る。


「確かに会社では厳しい性格だけどね。でも家ではあれが普通なんだよ」

眼鏡をかけると変貌するとは言えなかった。


「あの、夜の生活はどっちの性格スか?」

北山は興味津々に前のめりになる。

「こら、北山君! 変なこと訊かないの!」

優衣も北山を叱りながらも、

「で、どっち?」

と上目遣いで俊輔を見つめた。


「ちょっと、勘弁して下さいよ」

そう言いながら俊輔は逃げるようにダイニングへ向かった。


驚きながらもみんなは暖かく二人を祝福した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る