第6話 二重人格
一体どういうことだ?
舞ちゃんが営業部の課長だって?
それにしても雰囲気が全然違う……。
まるで別人じゃないか。
俊輔はもう一度彼女の顔を見直した。
舞奈の口の右下にはホクロがある。
やっぱりこの課長の口の右下にもホクロがあった。
舞奈本人であるのは間違いなさそうだ。
俊輔はちょっと引き気味に笑いながら軽く手を挙げた。
すると
「え?」
まずは挨拶をせねばと
「あの、今日からここに配属になりました高城です。よろしくお願いします」
俊輔はペコリと頭を下げた。
「初日なんだから、もっと早く来るのが常識だろ! 転任の挨拶なんか始業前に済ますもんだよ」
「え?」
その乱雑な品の欠片も無い口調に俊輔は今度は自分の耳を疑った。
「ここは営業部。のんびり挨拶してる時間なんて無いんだよ。総務とは違うんだからね」
俊輔は確認のため、もう一度目に前にいる
この人、本当に舞ちゃんか?
人違いじゃないのか?
いや、雰囲気は全く違うが舞奈であることは間違いなさそうだ。
眼鏡をかけているせい?
いや、そういうレベルの問題ではない。
蛇のような冷徹な目。
ヤクザのような乱暴な口調。
あのウサギのように臆病で猫のように愛くるしい舞奈はどこへ行った?
もしかして双子とか?
いや、そんなこと聞いたことがない。
「なに人の顔ジロジロ見てんの?」
「あっ、すいません」
俊輔はすかさず謝った。
「営業は初めて?」
「あ、はい……。入社してからはずっと総務だったので」
「新入社員じゃないんだから仕事はすぐに覚えてもらわないと困るよ!」
「は、はい……」
俊輔は
「
「はい。高城さん、こっちです」
優衣は俊輔をデスクへと案内した。
「ここが高城さんのデスクになります」
「ありがとうございます」
「何か足りないものがあったら言って下さい」
「はい。ありがとうございます」
優衣はニコっと微笑んで自分のデスクに戻った。
優しい子だな。
やっぱり女性はこうでないと。
そんなことを思いながら俊輔はまた
今度は別の営業マンを鬼のような形相で怒鳴っている。
嘘だろ。あれが、あの優しい舞ちゃん?
夢か幻を見ているような感覚だった。
「藍澤課長、怖い人でしょ」
隣の席の営業マンの人が俊輔に声を掛ける。
「え? あ、はい」
「あ、僕、北山です。よろしく」
北山は入社三年目の若手営業マンだ。
「あの、高城です。よろしく」
「藍澤課長は美人だし仕事もバリバリできるんですけど、とにかく恐くて厳しいんスよ」
「そう……みたいだね……」
俊輔は課長と舞奈が同一人物ということを未だに信じられなかった。
夕方になり、終業のチャイムが鳴る。
慣れない職場のせいか、俊輔はどっぷりと疲れていた。
俊輔は一緒に帰ろうと思い、
しようがない。ひとりで帰るか。
そう思い帰ろうとした時、
「高城さん、今日、これから空いてますか?」
声を掛けてきたのは隣の北山だった。
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