第3話 運命の出逢い ~3~

翌日の夕方、俊輔はいつものように会社からの帰り道を歩いていた。

流れるクリスマスソングが相変わらず虚しく心に響く。


すると、眼鏡ショップの前に立っている舞奈の姿を見つけた。

「あれ?」

舞奈もすぐに俊輔に気づいた。


俊輔はゆっくりと近づき声を掛けた。

「すいません。昨日はどうも。眼鏡を取りに来たんですか?」

「あ、はい。たった今眼鏡を受け取ってきました。ありがとうございました」

ちょっと焦った素振りをしながら小さく頭を下げた。


「そんなお礼なんて。こっちが悪かったんですから。あの、今日は眼鏡は?」

「今日はコンタクトを付けてみたんです。昨日みたいなことがあると困るんで少し慣れておこうと思って」

「ああ、そうですね。そのほうがイザという時、安心かも」


あたらめて見ても舞奈はやっぱり可愛いかった。

俊輔は思い切ってもう一度連絡先を訊こうとも思ったが、また断られるのが怖くて止めた。


「それじゃ」

俊輔は軽く頭を下げた。

「は、はい。それじゃ……」

舞奈も合わせるようにペコリと頭を下げた。


俊輔がそのまま駅に向かおうとしたその時、


「あっ、あの!」

舞奈が焦ったように声を掛ける。

その声にびっくりしながら俊輔は振り返った。

「はい?」


「あの……これ……」

舞奈は恥ずかしそうに俊輔に一枚のメモをそっと渡した。

―何?


メモを見ると、ラインのIDが書かれていた。


「あの……これは?」

「すいません。ありがとうございました」

舞奈は小さく頷くように頭を下げ、逃げるように去っていった。


「これって?……」

―運命じゃん!


俊輔は思わずその場でガッツポーズをした。


街中に流れるクリスマスソングが俊輔の頭の中で奏でるクリスマスソングと共鳴する。

さっきまであれほど虚しく感じていたクリスマスソングが、まるで自分一人を祝福しているように感じた。

イルミネーションもいっそう輝きだした。


俊輔はその日すぐ連絡を取り、再び舞奈と会う約束をした。



日曜日、俊輔と舞奈の初めてのデート。

二人はあるカフェで待ち合わせをした。


ちょっと遅れてきた舞奈が店に入ると、先に待っていた俊輔が奥の席で手を振る。


「すいません。遅れちゃって」

舞奈はそう言いながら恥ずかしそうに首を傾げた。


舞奈は俯きながら軽く会釈をして席に座った。

「いえ、僕も今来たところです」


お決まりのセリフで挨拶が終わる。

俊輔がカフェオレを注文すると、舞奈も「同じものを」と合わせて注文した。


「あの、今日は来てくれてありがとうございます」

「あ、いえ。こちらこそ誘っていただいてありがとうございました」

舞奈は俯いたまま軽く頭を下げた。


「あ、今日も眼鏡はかけてないんですね?」

「あ、はい! あの、これを機会にこれからはコンタクトにしてみようかなって思って……」

そう言いながら恥ずかしそうに首を傾げた。


「あの、可愛いと思います」

「あ……ありがとうございます」

舞奈は恥ずかしそうに小さく笑うとさらに深く俯いた。


よく考えたら俊輔は眼鏡をかけた舞奈を見たことがない。

よって相対的な意見など言えるはずがないのだが、二人ともそれに気付く余裕は無いようだ。


俊輔が気になったのは、この辺りからだ。

舞奈は一度も俊輔を見ようとしなかった。


「藍澤さん?」

「……」

返事が無いので俊輔は舞奈の顔を覗き込む。

「あの、藍澤さん?」

「は、はい!」

慌てたように舞奈が顔を上げる。

その顔はガチガチに強張り、大きな瞳は潤んで震えていた。


どうしてそんなに緊張してるんだ?

確かに何歳いくつになっても初めて二人で会うとなれば緊張もするだろう。

俊輔も会社以外でこうして女性と二人きりで会うのは一年ぶりで、やはり緊張していた。

しかし、舞奈の緊張の仕方は少し異常に映った。


「す、すいません。私、男の人とこんなふうに二人で会うの初めてで……」

「え、そうなんですか? でも会社にも男性はたくさんいるでしょ?」

「私・・・・・会社では男の人とはに喋れないんです」

舞奈はそう言って頬を赤く染める。


今時、こんなにいじらしくて純情な女性がいるんだと俊輔は驚いた。

俊輔はそんな舞奈にだんだんと惹かれていく。


「あの、藍澤さん、じゃあ今、付き合っている人とかは?」

「いえ、私、今まで男の人とお付き合いしたことがなくて……」

舞奈はそう言いながら恥ずかしそうに首を傾げた。


俊輔は嬉しいと思う反面、正直少し変だとは思った。

こんな可愛い子が今まで彼氏がいなかったなんて……。


その違和感に俊輔はもっと早く気付くべきだったのかのしれない。

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