女子高生物語(短編集)

龍鳥

好きだから嫌い


 私は自分が大好きだ。

 でも友達だったB子が嫌いだ。



 「まじムカツクよねーB子」


 「そうよね、あの人って無口だし感じ悪いし。さっき挨拶したのに無視されちゃってさー」


今日も私は、B子についての悪口を言う。最近なって友達になったC子は、気軽に話せる人柄で、私も気分が落ち着く。



 「そういえば、アンタ。B子と仲良かったよね?なんで破局したの?」


 「アイツ彼氏できたらしいよ。それで『ごめん、彼氏が貴方のこと気に入らないから友達辞めて欲しい』とか言われてさぁ」


 「うわぁ、酷いねそれ」


 しかも面と向かってだ。彼氏のために親友と縁を切るなんて、本当に最低な奴だ。ここで共感してくれるC子も、良い感じに話に乗ってくれて付き合いやすくて、助かる。



 「本当ムカつく!!あと知ってる?B子て唐揚げにレモンかけるんだよ?信じられるか?」


 「えっ?マジそれ?普通は唐揚げてレモンかけなくない?」


 「だよねだよね!!アイツ唐揚げが昔から好きでさ!!レモンにかけることを小学校からやってるんだぜ!!キモくないですか!!」


「あれ?アンタとB子てそんな古い付き合いなの?」



 アタシたち2人の出会いは単純だ。小学生の時に、ひ弱で細い体でいじめられていたB子をアタシは救ってやった。そん時のアイツは泣きながら抱きついてきて、アタシも返り討ちにあって怪我をしながらも泣いた思い出がある。



「ありがとう、助けてくれて。私たち、ずっと友達だよ」


 「うん、アタシもだよB子」



 そんな会話をした覚えが、今でも鮮明に残っている。それがイケメンの彼氏ができた途端に、別れようだ?都合が良すぎて腹が立つわ!!



 「いじめられて助けたのに!!なんて親不孝なやつなんだ!!!!」


 「いや、アンタはB子の親じゃないでしょ」


 「だってその時に、永遠に友達になる『ゆびきりげんまん』だってしたんだぜ!!それで彼氏ができたら邪魔だから別れて酷くない!!ムカつくよね!!」


 「いや。それさっき聞いたし……」



 アタシら楽しくB子の雑談をクラスで雑談しているときに、彼氏と一緒に入ってくるC子が目に入った。私と話してる時には見たことない顔している。あの笑ってる顔を今すぐグチャグチャにぶち壊したい。嫌いだ。



 「なぁ、別に彼氏が気に入らないだけなんだからさ、B子との仲はまだ改善の余地があるかもしれないよ?今から仲直りするのも遅くはないと思うけど」



 確かにC子の言う通りかもしれない。今ならB子との衝突はほんの少ししかないだけだし、もしかしたら……。

 私は、B子の方にそっと寄ってみた。



 「やあ、B子。久しぶ」


 「おい、お前さあ。B子に近づくなよって前から言ったよな」



 B子を遮るように、彼氏がアタシの前に通せんぼする。B子もB子で、みるみるうちに不機嫌な顔になってくる。



 「毎回毎回ウザイんだよ!!最初はB子の友達として付き合ってあげたけど、俺たちのプライベートのデート中にまで何回も割り込んできやがってさ!!近寄るなよ!!」



 なにを言ってるんだこいつは?それはお前みたいなビッチからB子を守るためにした行動だぞ。ふしだらな男だったらアタシが代わりに制裁する、それが永遠の約束の1つなんだ。



 「この前だってそうだ!!俺たちがお前に連絡しないで黙ってデパートでデートしてる時もさ!!お前は俺たちを尾行してたよな!!しかも最後までずっと!!お前のせいで雰囲気がぶち壊しだよ!!」


 「えっ、ちょっ待って。それ初耳なんだけど」


 C子も怖がるような目で私を見てている。なぜそんな目で見るのだ?親友としては当然のことだろ?


 それに比べてB子はあからさまに不機嫌な顔をしているのはムカつく!!誰のおかげでお前が人と喋るようになったと思ってるんだ!!テメェが小学校の時に、無口でもいじめられた時に話し方のノウハウを教えたのはアタシだぞ!!なんで嫌いになる必要がある!!



 「おいB子!!アタシのおかげで彼氏ができたようなもんだろ!!少しは感謝しろ!!それにこんな男が健全な男子に見えるか!!アタシが認めるまで、こんな男と付き合うのは認めないからな!!アタシの許可なしに決めるところも嫌いなんだよ!!」


 「お、おい。なにもそこまで言わなくても」



 C子の静止を聞かずに、アタシはB子の胸倉に掴みかかる。化粧までして、しかもアタシが教えた化粧のやり方もまるで違う色気を出すのも嫌い!!



 「C子聞いてよ!こいつ彼氏ができた途端に、アタシのことを遠ざけるようになったんだぞ!!」



「それはさっき聞いたって……」



 「本当にムカつくよな!!こいつの恥ずかしいエピソードを何回も持ってるの知ってるのアタシだけだから聞いてよ!!中学の頃ね、好きな男子に告白しようと悩んでたんだけどさ、コイツなにで告白しようと思ってたと思う?今時に手作りの編み物マフラーで告白しようとしたんだぜ!!アタシはめんどくさいからやめとけと止めたのに告白したのが嫌いだったんだよ!!わかる?嫌いなんだよもう!!」


 「……離して」


 B子の冷たい声で、アタシは後退りしてしまう。これまで以上に冷たい視線で、B子がアタシを見つめている。



 「もう、話しかけないで」



 言い終えた途端、耳の奥まで木霊するように反響音が鳴る言葉。アタシは耐えられず、膝から崩れ落ち吐いてしまった。



 「ちょ、ちょっと大丈夫!?」



 アタシの背中を、C子がサワサワと摩っている。それでも嘔吐は治らない。B子と彼氏の2人は、アタシのことを気にせず何食わぬ顔で教室から去って行った。そういう無関心なところも、昔から嫌いなんだよね。



 「アイツが虫が苦手なのも嫌い!!それを知ってるのはアタシだけ!!アイツが実は辛党なのも嫌い!!それも知ってるのはアタシだけ!!なのになんでだよ!!なんで遠くに行っちゃうんだよ!!そんなアイツが大っ嫌いだよ!!」



 「落ち着いてよ!!誰か一緒に保健室に連れてって!!」


 「ぐすっ!!どうしてあんな男を選んだんだよ!!あの時の約束を破るあいつなんて大っ嫌いだ!!」



 泣きながら喘ぐ声と、胃液が口から溢れるのが止まらない。頭の中では、初めて会った時の約束のシーンが、グルグルと映写機の回転のように映像が流れていた。



 『あたしたち、ずっと友達だよ』

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