異世界転生~星龍の契約者~ 旧題 異世界転生して龍と契約したら異端でした。~最強ドラゴンと契約し、ハーレムつくっちゃいます!?~

シウ

第1話 「死んでしまいました」

俺、龍宮隼人(たつみやはやと)の最後は突然訪れた。


 俺は地方に住むどこにでもいる社会人二年目の人間だった。高校時代の友人はあまり多くはないが、連絡を取り合い時間が合えば遊びに行くという生活をし、それなりに満足できる生活ができていた。今更だが歳は今年で20歳だ。


 彼女は中学の時に1年ほど付き合った子がいたが自然に消滅した。

仕事は父親が忙しく、また母が病気により話し合いの結果、母が「迷惑をかけたくない」と言い、長い話し合いの末に父は折れ、「形式上は離婚しているが、子供たちに会いに来てくれてもいいから」という事で落ち着いた。


その後、俺と二歳年下の妹は父親の実家の家に引っ越し、父、祖父母、そして、数年前から同居していた、父さんの妹とその旦那さんの七人で生活するようになった。


 そして離婚以降、面と向かって父と母が会うことはなくなったが、幸い車で行ける範囲に母の実家があり、母は自宅療法をしながら時折検査の為に病院へ行き、母のお母さん、俺から見れば祖母にあたるおばあちゃんは元気で、母さんと俺、そして妹を車で様々なところに連れて行ってくれた。


 そして、幼かった俺はそんな、何気ない、けど充実した日が続くのだと思っていたが、そんな日は突然、儚く崩れた。

中学二年のもうそろそろ夏になるといった季節に、父が再婚すると言ったのだった。

それを聞かされた俺は、翌日の学校を無断で欠席し「何故学校を休んだのか」と聞かれた時は「あんたの再婚が気に食わないからだ!」と言って父さんと派手に喧嘩をしたのが一番の思い出といってもいいだろう。


そんなこんなありながら、およそ一年後。俺が中学三年に上がった年に父さんは再婚し、ローンを組み新しい家を建て父さんと俺と妹、そして再婚した継母との生活が始まり、そんな新しい家での生活は俺が高校を卒業するまで続いた。


だがそんな生活に馴染めなかった俺は、高校を卒業すると同時に就職し、同時期に父親の実家に居を移し、そこから仕事に通うようになった。


 就職した仕事場は今の世の中、人手が最も不足している介護の現場職員だった。介護の仕事に就くために、父に頼み込み、介護について集中的に学ぶことができる福祉学科のある高校に三年間通い国試を受け、卒業前に介護福祉士の資格を取得し、現在の職場で働き始めた。


 そして、今では休みの日に同じに高校に通い、友人となった奴らとき一緒に遊ぶことと、静かに家でライトノベルを読むことを楽しみに日々を過ごしていた。


「いよいよ、明日か…給料日」


 そして、明日は25日。俺が働く職場の給料日だ。この給料を使って、ライトノベルを買ったり、新しく発売される、事前に予約した最新ゲームを早く遊びたいとワクワクしながら、カギを開け車へと乗りこむと、気が緩んだのか、それとも疲れのせいか微かに視界が揺れたように感じ、目じりを抑える。


(少し頑張りすぎたか…)


職場での俺の評価としては、頑張っているねと周り言われるが、逆に頑張りすぎているともここ最近言われることが増え、「そうかな?」と思いつつここ最近は全力を出さなかったのだが、今日は少し体調を崩されて現場人数が少なくなり、結果かなり頑張って色々とこなしたせいか、疲労が溜まっているのかもしれなかった。


(まあ、家から職場までは車で10分ほどの距離だし、もう2年も通ってる道だから大丈夫だろ)


 あと少し。そう自分を納得させて目元から手を離すと、車のエンジンをかけ俺は職場を出たが、走り始めて直ぐに欠伸が出てしまった。


(眠気覚ましも兼ねて…コーヒーを買うか)


そう決めると俺はそのまま車を走らせ、帰り道の半ばにあるコンビニに寄ることにし、俺は慣れた手つきで駐車場へと入り車を止める。


(あれ? 今日はやけに少ないな‥‥)


コンビニの駐車場には俺以外の車はなく、店をガラス越しに見た限りでも他の客の姿は見えなかった。田舎という事もあり、確かに客が誰もいない時間帯はあるにはあるが…。


(…まあ、こういう日もあるか)


田舎ではごく普通の光景。そう思いながら車を降り、そのままコンビニの中へと入ると。


「なっ…!?」


目の前で強盗がレジの前で高齢の女性を小太刀程の刃物で脅し、店員に金を要求していた。それはコンビニ強盗だった。


「おい、ばばあ!早く金出せや!!」


「あ、あの、殺さないで……」


「いいからぁ、金を出せっつってんだよ!!」


「ひっ!?」


店員は恐怖で、店員を脅している強盗は気が付かないほどに血が上っているのか、両者共に俺に気づいておらず、そして、周りの状況に気が付いていない強盗は、刃物は持っているがその体は無防備だった。


(ど、どうする!?)


 その時俺はすぐその場を逃げるなり、警察に電話をするなりすれば運命は変わっていたかもしれなかったが、その時の俺の頭の中に浮かんだのは、1年前に死んだじいちゃんとある約束をしていた事が脳裏に過っていた。


『隼人、もし、困っている人がいたら損得を考えず「助けたい」と思ったなら、自分の思いに身を任せて、戦え。そして、世の不条理にも負けない強い男になってくれ。けどな、自分が死ぬような真似はせんでくれよ?』


そう最後に付け加えられたその約束は、俺の中の物事を考える中で一番大切にしていることで。気が付いたら、怖いはずなのに俺は…一息に駆け出して距離を詰めると後ろから強盗犯に掴みかかっていた。


「何をやってんだ!この野郎が!」


「ああぁ!? くそが! 離せ、離しやがれ!?」


「早くっ、今のうちに警察をっ!」


「は、はいぃぃ!」


高齢の女性店員は若干パニックを起こしつつも警察を呼ぶためのボタンを押し、一方の俺は何とか高齢の女性店員から刃物を振り回す強盗犯を引き離せたと思った時。


「くそがぁ!! 離せっ!」


「がっ!」


逆上した犯人がそのまま近くの商品棚に体を俺ごとぶつけ、その衝撃におもわず腕の力が抜けてしまい強盗が拘束から抜け出す。


「このばばぁ! ぶっ殺してやらぁ!!」


もはや、錯乱状態と言ってもいい強盗は駆け出すと、レジから逃げれずにいた女性店員を刺し殺そうと距離を詰めていく中で背中の痛みを堪えつつどうにか体を起こす。


(っつ。くそ、あいつ何かやばい薬でもやってるんじゃないのか!?)


もはや、尋常ではない力に何かしらの薬物でもしているのでは? と思わず内心で思いながら駆け出し、背後から強盗をもう一度拘束する。


「くそがぁぁ! 離せ、離しやがれ!!!」


今度が離されないようにこちらも全力で拘束する。が、強盗は手に持っていた刃物をがむしゃら振り回し。


「ぐっ!?」


そのひと振りが、右足の大腿部を深く切り裂き、生暖かい感触を感じると同時に強烈なまでの痛みが脳天を貫き、足と腕の力が抜ける。


「このぉぉ、いい加減にぅ、しゃがれぇぇぇ!」


もはや呂律こそ回っていなかったが、何処にそんな怪力があるのかと思うほどの力で弾き飛ばされて、商品棚へと突っ込み商品棚と陳列している商品が崩れる音が耳に響く中、強盗は女性店員への距離を詰めていく音が聞こえた。


(やべぇ。右足に力がはいらねぇ)


斬られた際に足の神経まで斬られたのか、右足の付け根付近の感覚はあったが、それより先の感覚が、一切なかった。そして、ぶつかった際に頭の何処かが切れたのか、生暖かい感触があった。


「ひいぃ!?」


「ひげんじゃねぇよぉ、こりょせないだろうが~?」


そうしている間に、恐らくレジから外へと逃げ出そうとした女性店員に追いついたのか、聞こえた強盗の言葉が聞こえ、血を流しながら俺は立ち上がる。


「おい。いつまでも年寄りをいじめてんじゃねぇぞ、ゴミくずがっ!」


「あぁ?」


ゴミくず、挑発目的の言葉に強盗は女性店員から俺へと顔だけではなく、全身を向けてきた。


「てぇめぇ、おれにむかって、なんついやがった、ああ!?」


「年寄りを虐める、ダダのゴミくず以下のお前にだよっ!」


「‥‥ふざけるなぁぁぁ!!!」


怒声を上げつつ、刃物を構え一直線に突っ込んでくる強盗に対し、俺はその場を動けなかったが、それでも店員から意識をこちら抜向けるという目標は達成できた。

血を失い、鈍った思考でそんなことを考えていると何かが貫いたような感覚があり、その場所は心臓近くの所で、全体に血が滲み出しているのが、なんとなく分かった。

けど、それは俺が望んだ結果でもあった。


「これで、これ刃物は使えない、なっ!」


それを認識するのと同時に、俺は残っていた全てを込めた渾身を込めた右ストレートを、至近距離で強盗の顔面へと叩き込む。


「ぐぶるっ!?」


変な声を上げつつ、硬い何かを砕いた感触と折れた歯が宙を舞う僅かな間に強盗はそのまま床へと叩きつけられ、起き上がることはなかった。

そして、それを見届けた俺は後ろの棚にもたれかかるように座り込む。


「くそ…。まったくもって、最悪だ」


足の力が抜け、全身をめぐっていたアドレナリンも切れたのか、急速に体の端から冷えていきながら、同時に意識が遠くなっていくのを感じていると、サイレンの音が微かに聞こえることに気が付いた。


(ったく、来るのが遅いぞ…)


他人事のようにそれを感じながらも、意識は薄くなっていく。


(ああ。どうしてこうなったのかね…)


後悔は無い中で、そんなことを思っていると店に到着した警察官の一人が強盗を拘束し、もう一人が何か言っているのは分かったが、何を言っているのは、もはや聞き取れなかった。


(俺は。死ぬんだろうな‥‥)


 意識を手放す直前まで、警官が何かを言っていたが答える気力も無かった俺の頭に最後に浮かんだのは自分の事ではなく家族の事だった。


(長生きして、ばあちゃんを支えて上げたかったな…それに…)


 自分の家族、作りたかったな‥‥。とそれを最後に俺はまるで深い海に落ちて行くかの様に今度こそ意識を手放した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る