第4章 幻の花

第29話 お休みのカレストラ


「プラン様! これ、飲んでみてください!」


「こっちのも飲んでみてください!」


「「「私のも!」」」


「あっ、そ、そんなに……」


 お、溺れそうだ……。



 僕が花の国に来て一週間が経ったある日、僕は花壇でみんなから雑草のジュースの試飲を頼まれていた。

 この国の人たちはみんな優しい。そしてみんな元気に接してくれる。

 ちょうど今も僕はみんなに取り囲んでもらっていて、右から、左から、前から、後ろから、次々に雑草のジュースを飲ませてもらっていた。


 この前のこともあって、フレーシアさん主導で研究されることになった雑草のジュース作り。

 まだ、美味しく飲めるまでは少し遠いかも知れないけど、皆さんの向上心には目を見張るものがあった。


「ふふっ、プランくん。モテモテだね。最近、毎日そのジュースを貰ってるから、肌もちょっと緑色っぽくなってきたよね」


 と、そう可笑しそうに笑っているのはアリアさんだ。


 基本的に僕たちは一緒に行動している。

 今は花壇で過ごすことが多くて、アリアさんはここの人たちともすでに仲良くなっている姿を見かけることが多かった。


 そんな風に流れていく時間は緩やかで。

 花の香りに包まれている毎日は、彩りのある日々だと言えた。


 そして、その日はリーネさんの言葉で、新しくやることができることになり、


「アリアさん。プランさん。今日は少しお時間をいただいてもよろしいですか? カレストラ様との時間を作っていただきたく思いまして」


「「分かりました!」」




 それから僕とアリアさんはリーネさんに先導してもらって、城にあるカレストラさんの部屋へとたどり着いた。


「カレストラ様。プラン様とアリアさんをお連れしました。入ってもよろしいでしょうか?」


 コンコン、とドアをノックしたリーネさんが、部屋の中に呼びかける。

 しかし、返事はない。


「……もしかしたら、お休みになられているのかもしれません。とりあえず、中に入ってみましょう」


 リーネさんがそっとドアを開けて、小さく手招きすると、僕たちに「部屋にどうぞ」と言ってくれる。


 部屋の中には、立派なデスクがあり、そこに彼女は座っていた。

 カレストラさんだ。


 そのカレストラさんは、頭から突っ伏すように座ったまま眠っていて、窓の外からはそんな彼女を照らす光りが差し込んでいる。


「……恐らくお仕事中に寝てしまったのでしょう」


 リーネさんはそう言い、どこからか毛布を取り出して、座ったまま寝ているカレストラさんの背中に毛布をそっとかけていた。


 カレストラ様の金色の髪がデスクに広がっていて、眠っている彼女の横顔はあどけない表情になっていた。


「あの……僕たち、部屋に入ってもよかったのでしょうか……」


「ええ、構いません。せっかくですので、カレストラ様の寝顔を堪能するのもいいですね」


 リーネさんが、カレストラさんの寝顔を見て嬉しそうに微笑んでいる。


「ど、どうしよう、プランくん! カレストラさんの寝顔、とっても美しいよ……! 今なら頭を撫でても、大丈夫かも!」


 と、やや嬉しそうにそう言ったのはアリアさんで、


「それも、構いませんよ。是非、撫でてあげてください」


「「……いいんだ!」」


 許可をするリーネさん。


 そしてアリアさんは、本当にカレストラさんの頭を撫で始めて、リーネさんも一緒にカレストラさんの頭を撫で始めていた。


 その間、カレストラさんが起きる気配はない。

 ……それぐらい疲れているみたいだった。


 実は、こうしてカレストラさんと会うのは一週間ぶりだ。

 この一週間、僕たちは花壇で色々やったりして、その間カレストラさんはずっと仕事をしていたとリーネさんからは聞いていた。


 なんでも、色々やることが溜まっているから、こなさないといけないとのことだった。

 だから、休む時間とかもないのかもしれない……。


「それもありますが、今日は日差しに温もりがあることも影響しているでしょう。窓の外から差し込む日光を浴びたことで、眠くなってしまったのだと思われます。ご覧ください。街にいる者たちも、日向ぼっこをしながら寝ている姿があちこちで見られます」


「あ、ほんとだ」


 窓の外を見たアリアさんが、街の中にいる人たちの姿を確認していた。


 今日の花の国フラワーエデン。

 花に囲まれているその国は、まどろみの雰囲気が漂っているのだった。


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