第76話 (閑話)各地の聖女たちの魔力矯正
* * * * *
「ああ、ソフィアちゃんの鬼畜! テオくんに痛いことするなんて最低!」
一人の少女が抗議の声をあげていた。
それは各地にいる聖女のうちの一人の声だった。
聖女という存在がいる。
その聖女たちは繋がっている。
だから、現在、聖女ソフィアの屋敷に泊まっているテオの様子を、彼女たちはソフィアを通じて確認することができていた。
ソフィアのベッドの上で、後ろからソフィアに抱きしめられているテオ。前からはテトラに抱きしめられていて、そんなテオの魔力を矯正しようと、ソフィアが聖女の力を行使している。
それは構わない。テオのためになるのだから。
しかしーー
バチバチバチバチ……ッッッッッッッッッッッッッ!
『……ぁ……ああ””……あああ”””……ッッッッ………………”””””ッッッ!!!』
「痛そう……。テオくん……とっても痛そうだよぉぉお……」
そう言ったのは、教会の自室にいる一人の聖女だった。
彼女はベッドの上にぺたりと女の子座りをしながら、遠く離れたところにいるテオの様子をハラハラしながら眺めていた。
「テオくんが……とっても痛がってるっ」
ソフィアに後ろから抱きしめられているテオが、バチバチと弾ける自分の魔力の痛みに苦しんでいる。
休憩と、矯正。
それを交互に施されたテオの体は仰け反っており、ビクンビクンと小刻みに跳ねて、痛みでぐったりとしている。
服なんて、汗でびっしょりだ。テオの目が、くらくらと大きく見開かれていた。
そして、ソフィアが魔力の矯正を緩めると、目の前にいるテトラの胸に顔を埋めているテオ。
それはまるで、母に甘えている幼な子のような有様で。
「んふ……っ」
そんなテオの姿に、彼女はなぜか体が熱くなってしまった。
痛みに耐えているテオを見ていると、彼女はじんわりとした熱っぽさを感じてしまうのだ。
「痛みに耐えてるテオくん……健気……。か、可愛い……っ」
普段は、どちらかといえばクールなテオくん。
だけど、今は違う。
必死で痛みに耐えて、目の前にいるテトラに甘えてもいる。
もし……自分もあそこにいれたなら、どれだけよかったことか。
無性に甘やかしてあげたくなってしまうな……っ。
「テオくん、テオくんっ」
彼女は遠く離れているテオに見惚れながら、もじもじと太ももをこすり合わせるのだった。
* * * * * * *
また別の聖女は、怒りによってわなわなと拳を震わせていた。
「許せません……。テオくんを痛めつけるなんて、ソフィアはなんてことを」
彼女は聖女の中でも、正しさを貫いている聖女である。
だからこそ、許せなかった。
ソフィアがテオに痛い思いをさせていることを。
「……確かにテオくんの魔力は乱れています。でも、それは私が手取り足取り正してあげるはずだったのに……。悔しい……」
『でも、ソフィア様なら安心だと思うよ』
「そういう問題ではありません! 私がテオくんにしてあげたかったのに!」
だから、悔しい!
しかし、同時にソフィア以上に適任の者がいないのもまた理解している。
『ソフィア様は蒼龍の加護を受けているから、結界とか、矯正とかはソフィア様の右に出る者はいないもんね。今の聖女の中でソフィア様が一番力の強い聖女だから、ソフィア様に無理なら、誰にだって無理だよ』
「それは……そうです。蒼竜の加護……羨ましい。私なんて黒龍の加護なのに……。はぁ……」
『ひどい! そんなガッカリするなんて……』
彼女のそばにいた存在が抗議の声をあげる。
黒龍。それは龍の中では、異端な存在ではある。
「私も蒼竜の加護がよかった……。それか月光龍の加護……」
しかし、彼女の加護は黒龍の加護。
蒼竜の加護も強力だが、それよりも強力と言われている月光竜の加護。
その詳細は不明。
そもそも月光龍は長い歴史の中で、たった一人の聖女にしか加護を与えなかったのだ。
だから月光龍に選ばれるということは、それだけですごいことである。
『でも、ソフィア様。どうしてリンクを繋げたんだろうね。さっきまで切ってたのに』
「ええ、テオくんの魔力の矯正を始めた時になって、みんなとのリンクを繋げました。勝手によくリンクを遮断するソフィアなのに珍しいです」
普段のソフィアは、よく聖女同士の繋がりを遮断することが多い。
聖女の中で一番力の強いソフィアは、各地で問題が起きるたびに解決しに出向いている。
しかし、そこには見ない方がいい景色が広がってることも多い。例えば瘴気が蔓延ってしまった場所が、どのような爪痕を残すか……等。
つまりそれは、純粋に他の聖女たちのことを思ってのことなのだった。それは彼女たちも理解している。ソフィアは他の聖女の見本になっている聖女なのだ。
そして今回、ソフィアはテオと街で出会った。
その際に、一度リンクを切っている。それはテオに配慮してのことだった。
そして、ついさっきまたリンクが繋がった。テオの魔力を矯正しようというところになって、各地の聖女たちとのリンクをソフィアが繋げたのだ。
「もしかしてソフィアは、私たちの力を必要としているのでしょうか?」
と、彼女がそう呟いた時だった。
ーー『みなさん、聞こえますか。こちら、ソフィアです。ただいまテオ様の魔力の矯正をしております』ーー
「「「ああー、ソフィア様!」」」
各地にいる聖女たちに、一斉にソフィアの声が伝わってきた。
同時にブーイングも起きた。
「ソフィアちゃんの鬼畜!」
「最低! 最低!」
「テオくんに優しくしてあげて!」
「そうだそうだ!」
それは嫉妬の声。
ーー『実はそのことについて、お話がありまして。私だけの魔力ではテオ様の矯正は少々厳しい状況にあります。ですので、各地にいる皆様のご助力をお願いしたいのですがーー』ーー
「「「分かりました!!」」」
素早い手のひら返し。
聖女たちは、基本自室に閉じこもっている。
孤独だ。友達なんていない。何かをする時は一人でやるしかない。
だから、憧れていた。
みんなで何かをやることに。
共同作業をすることが夢だったのだ。そんな夢は叶いっこないと思っていた。
しかし、今まさに、ソフィアが協力をしてくれと言ってくれている。何より、テオのために繋がるという。
ならば、やるしかない。
ーー『では、タイミングを合わせて魔力を送り込んでください。それを私が経由して、テオ様の魔力の矯正に作用させます。3……2……1……』ーー
「「「いけ!」」」
バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ……ッッッッッッッッッッッッッ!
『……ぁ……ああ””……あああ”””……ッッッッッッ………………ああ”””””ッッッ!!!』
「「「ああ……テオくん!」」」
今までとは比べ物にならない痛み。全聖女たちの魔力に矯正されたことで、テオの体に激痛が走る。
体が仰け反る。
ギシギシとベッドが軋む。テオの全身からブワッと汗が出る。
それを見たテトラが大泣きをして、ベッドのシーツにシミを作った。
その声を聞きながら、ソフィアは魔力の矯正をさらに強めた。
さっきよりも、強く、強く、強く強く……。
バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ……ッッッッッッッッッッッッッ!
『……ぁ……ああ””……あああ”””……ッッッッッッ………………”””””ッッッ!!!』
「「「ソフィアの鬼畜!」」」
それはまさに鬼畜の所業。
だけど……どうしてだろう。
痛みに耐えているテオを見ていると、体の奥の方がじんわりと熱くなってくるのだ。
各地にいる聖女たちが、同時にもじもじと太ももを擦り合わせた。熱っぽくなり、テオのことで頭がいっぱいになる。
それでも、痛みに耐えているテオのことを、純粋に応援し続けるのだった。
* * * * * *
そしてーー。
「でもソフィア……お役目前にテオくんに会えてよかった」
それは、恐らく他の聖女たちも思っていることだった。
もうすぐソフィアのお役目がやってくる。
遅かれ早かれ、全ての聖女たちにやってくることだ。
今回選ばれたのが、ソフィアだったというだけだ。一番力の強い彼女しか、納められないことなのだ。
だからこそ思う。
テオとテトラ。ソフィアが二人と再び出会えて良かったと。
聖女の最後はいつだって孤独なのだから。
その前にこうしてテオたちと過ごす時間を取れたのは、それだけで救いになるのだ。
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