第29話 最高級のローブと一番目の眷属……!
「……ものすごく疲れた気がする……」
店を出た俺たちは、どんよりとした気持ちで肩を落としていた。
その後ろからは「ヒッヒッヒッ……」と言う老婆の声が聞こえてくる気がして、さらに体が重くなる気がした。
「あのおばあちゃん……不思議な人だったよね……。テオ、気づいてた……? あのおばあちゃん、全部、隠されてたよね……?」
「うん……。見通せなかった……」
俺も腕輪を通じてテトラの聖女の力で、あのおばあさんのことを看破しようとしたのけど……無力化されていた。そのせいで、何も判別することはできなかった。
分かるのは一つだけ。あのおばあさんは、只者じゃなかったということぐらいだ。
「「あのおばあさんはなんだったのだろう……」」
「あ、そうそう。その服は今のままでは使い物にならん。しかし、使い方は……お主なら分かるはずじゃ。メテオノールくん」
「「……!?」」
とん、と俺の肩に置かれるしわがれた手。
こ、この感じは……。
「ヒッヒッヒ……」
知らず知らずのうちに俺の背後にいたのは、さっきのおばあさん。
いつの間にか店から出てきていて、にこにこと皺が刻まれている顔をローブから覗かせている。
そして、俺にそんな忠告をすると、「ヒッヒッヒ」と言いながら店の中へと戻った。
「し……心臓に悪い……」
「ふふっ」
大きく息を吐く俺を見て、テトラがくすりと微笑んでいた。
でも……どうしてだろう。
あの老婆からは、やっぱりどこかおばあちゃんと似たような雰囲気を感じた。
* * * * *
雲一つない青空の下、街の外にやってきた俺たちは、色々試すことにした。
手に持っているのは、先ほど買ったローブ。
あの店の老婆は言っていた。『この服は今のままでは使い物にならない。でも、メテオノールくん、お主なら分かるはずじゃ……』と。
どうして俺にそんなことを言ったのかは、分からない。
けれど、そう言われたからには、試しにやってみることにした。
俺にはスキルがある。どのみちこのままでは、このローブは古いただのローブなんだ。
だったら、これを代償にスキルを発動してみようと思う。
そして、いざやろうとして気づいた。
「あ! テオ、眷属の降臨ができるようになってるよ……!」
「あっ、ほんとだ」
スキルを確認して見ると、眷属の降臨ができるようになっている。
つまり、ようやくだ。
この前、眷属の降臨が中途半端になってしまったけど、ようやくまた眷属を作ることができそうだった。
「じゃあ、ローブのことが終わったら、やってみようか」
「うん……!」
テトラが頷いてくれる。
その手には、テトラが店で選んだローブも持たれている。
ローブには素材として魔石が散りばめられているため、このままローブを代償にスキルを使えるはずだ。
とりあえず念のために、街からもう少しだけ離れた場所に移動すると、早速試してみることにした。
「スキル……発動」
次の瞬間、代償に俺の手の中にあった古いローブが捧げられる。
それが魔法陣に包まれて、光の残滓となる。
その光は眩い光に変換され、魔法陣が出現するとともに一着のローブがこの場に降臨した。
・『聖霊のシエロス・ローブ』★★★★★
天より生まれし聖獣の加護が込められたローブ。
身につければ、いかなるものからその身を守るだろう。
「きゃああああああああ〜! 綺麗で、可愛いローブだ〜〜〜!」
そのローブを見た途端、テトラの目がキラッキラと光り輝く。
銀色で上品さがあるローブだった。
決して派手ではないものの、綺麗なローブだ。
ふちが琥珀色の輝きで彩られており、琥珀色のボタン、フードに至るまで、手触りの良い素材でこだわりぬかれている。
先ほどまでの、ボロボロで、布の状態も悪かったローブが嘘みたいに見違えるものへと変化した。
「テトラにぴったりなローブだ」
「え、私に……!」
「うん。あの店でその服を持った時、なんとなくテトラのことがすぐに思い浮かんだんだ」
「じゃあ私のことを思って、手に取ってくれたってことなんだ! テオ、大大大好き!」
テトラが飛びつくように抱きしめてきて、俺の首の後ろに手を回して、頬ずりをしてくれた。
よかった。嬉しそうだ。
俺はそんなテトラを抱きしめ返すと、頭を撫でて、テトラの様子を見守った。
今まであまりいい服を着せてあげられなかったから、あのローブが綺麗なローブになってくれたのは本当に良かった。
「テオはすごいよ……! 古い服もこうやって綺麗にできるんだもん! じゃあこっちのローブも綺麗になるのかな……!?」
そう言ってテトラが手に持っているのは、テトラが店で選んだもう一着の古いローブだ。
「私もね、この服を手に持った時、テオのことが思い浮かんだの。理由は分からないけど、『あっ、この服はテオの服だ』って」
「じゃあやってみよう」
俺はテトラが持っていた服に対しても、スキルを発動する。
・『輝陽のゼレイユ・ローブ』★★★★★
光より生まれし聖獣の加護が込められしローブ。
身につければ、いかなる耐性も得ることができる。
「かっこいいいいいいいいいいいい〜!」
ローブを見て、再び目を輝かせるテトラ。
「テオにぴったりの色だ〜〜!」
俺はその姿を見守りつつ、ローブの確認をして見た。
こちらのローブも決して派手ではないものの、琥珀色の上品さがあるローブだった。
ふちの部分に金色の文様が刻まれており、ボタンは茶色、こちらにもフードがついていた。
「これは……本当にいい色かも」
「ねっ!」
特にこの琥珀色が俺は好きだ。
見ていると穏やかな気持ちになれる。
「ねえ、テオ! せっかくだし着せあいっこしよ! 私、テオに着せてあげたい!」
「うん。じゃあしようか」
「うん!」
それからの俺たちはお互いの服に袖を通して、着せあった。
銀色の髪のテトラが銀色のローブに身を包み、その場でくるりと回ると、フードの部分が可愛らしく揺れた。
「テオ、どうかな?」
「とっても似合ってるよ。やっぱりテトラにぴったりだった」
「ふふっ。ありがとっ。テオ、好きっ。ちゅ……っ」
照れたように頬を赤く染めたテトラが、小さな口づけを俺にしてくれる。
そうしていると、テトラの琥珀色の瞳が俺の目の前で優しく揺れていた。
……俺の好きな色の瞳だ。
だから俺は、この色が好きだ。
琥珀色はテトラの色だから。
「テオ、いい服買えたねっ。テオのおかげだねっ。嬉しいね」
その喜んでくれるテトラを見ていると、俺はいつだって救われた気持ちになってくる。
「よし……! それじゃあ続けて、眷属の降臨だ……!」
「うん」
ようやくこの時がやってきた。
代償として使うのは、あの時にスライムが残してくれた魔石。
この魔石には、ご利益がありそうな気がする。だからこそ、使用するのはこの魔石だ。
「スキル……発動」
そして次の瞬間、それが発動した。
「「おお……!」」
赤黒い雷がバチバチと弾ける。
それが棘のように鋭い雷となって、この場を満たした。
その全てが収束し、静けさに満ちた時、俺たちの前に一人の眷属が姿を現してくれた。
『……私を降臨させたのは……あなたたち?』
「「こ、この子は……!」」
それは一人の少女だった。いつの日にか見たことのある、赤い髪をしたあの女の子なのだった。
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