第52話 スライムボス
自警団のメンバー、ビイバさんのユニークスキル『創造』の力により生み出された巨大なダム。
俺たちはここを拠点にゲンテーンへと進軍を続けるスライムの濁流を堰き止めなければならない。
遠距離攻撃部隊として参戦する俺は、ウグイ、キツネ、レイブンと共に辺りを見渡すことのできるダムの上へと昇る。
「よいしょ、っと。ロンリ、ありがとね」
縄梯子を上ってきたウグイに手を差し出し、引き上げる。
ダムの上からの景気を見たウグイは険しい表情を浮かべる。
「それにしてもほんと、凄い数だよね」
「ああ。コウノさんは二千体だなんて言っていたが、絶対にもっと数がいるよな」
視界の先は一面の青一色であった。
平原にふよふよとうごめくスライムの群れは、地面を覆いつくす程の数が居て、徐々にこちらへと迫ってきている。
コウノさんの話では魔族は『眷属創造』という自身と同種のモンスターを生み出すスキルを持っているそうだ。
使用には相応の魔力が必要なため普通、魔族が攻めてくる場合は十体ぐらいを引きつれてくるのが限度だそうだが今回のスライムの魔族はその点で常軌を逸している。
スライムが弱い個体であるため生み出すのに必要な魔力が極端に低いのか、それともスライムの魔族には自身の魔力を回復する手段があるのか。
これだけの数を生み出すには相応の時間が必要だろう。
そうなるとスライムの魔族は人間領に一定以上の時間、滞在していたことになる。
魔力の薄い人間領でスライムが生存できていたことを考えると自前で魔力を発生させる手段があると考えるべきだろうか。
「奥に居るのがスライムの魔族ですかね~」
「うう。すごい大きいですよお。あれほんとにスライム、なのでしょうかあ?」
先行するスライムたちの奥。
そこには遠くからでもはっきりとそれだと分かる巨大な水の塊の姿が見えた。
あれがスライムの魔族。
周りのスライムと比較するとその体は何倍も大きい。
おそらくこのダムと同じぐらいの高さがあるのではないだろうか。
「では~。キツネちゃん、おねがいします~」
「うん。やってみるよお。『虚飾』!」
視界に入った生物の姿とスキルをコピーするキツネのスキル。
『虚飾』を発動させたキツネの姿が通常の大きさのスライムへと変わる。
「あれ? キツネさん。スライムの魔族の姿になるんじゃ?」
「いえ。変身は成功していますう」
「でも、大きさが普通のスライムと一緒だぞ」
「えーっとお、スライムの魔族は『吸水』というスキルで体をふくらましている見たいですう」
「つまりその姿は吸水前の姿ってわけだな」
「はいい。そのようですう」
キツネの答えに俺は納得する。
『虚飾』は対象となる生物と自身のサイズが余りにも異なると発動しないはずだ。
今回はダメもとで発動してもらったのだが、元の姿が普通のスライムサイズであるというのなら虚飾が発動したのも納得だ。
「しかし、通常サイズが他のスライムと変わらないとなると仮に吸水を解除し体を小さくされれば他のスライムに紛れられてしまう訳か」
「なかなか厄介そうだね」
「ああ……とりあえずコウノさんにスライムの魔族のスキル構成を伝えなきゃな。キツネ。詳しい情報を教えてもらえるか」
「はいい」
キツネはスライムの姿のままスライムの魔族の姿に変身し得られた情報を伝達してくれる。
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名前:スライムボス
スキル
「物理無効」「眷属創造」「魔力知覚」「魔力操作」「水魔法」「水適正」「吸水」「HP自動回復」「統率」
物理無効:物理攻撃を完全に無効化する。「物理軽減」の上位スキル。
眷属創造:自身と同種のモンスターを創造する。創造には相応の魔力を消費する。
水適正:水の中もしくは水場の付近にいるときステータスが上昇する。
吸水:体内に大量の水を取り込むことができる。また、取り込んだ水を魔力に変換できる。
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「名前はスライムボスというみたいですう。なんだか可愛い名前ですねえ」
「なるほど。体を大きくしているのは吸水のスキルか。川で水を吸ってきたわけだ……それにしても出鱈目なスキルだな。水を魔力に変換できるとか近くに川があれば魔力を無制限に使えるというわけか」
「それならこれだけスライムが増えた理由も納得だね。時間さえ掛ければスライムを作りたい放題だよ。でも、川から本体が離れている今なら追加でスライムが生み出される心配はいらないよね」
ウグイの意見に俺も頷く。
しかし、そう考えるとスライムの魔族――スライムボスが川から離れてゲンテーンを攻めてきてくれたのは僥倖だったかもしれない。
川に張り付かれて無限にスライムを送り込まれたらこちらに勝ち目は無いだろう。
「しかし、『吸水』は破格なスキルだがそれ以外は案外大したことないか……いや、物理無効? スライムが持つのは『物理軽減』のスキルじゃなかったのか」
「魔族となってスキルが強化された見たいですう。純粋な物理攻撃であれば完全に無効化できる見たいですう」
「そうなってくると、より魔法での攻撃が重要になってくるな」
「それにあんなに体が大きくなるまで水を取り込んでいるんだから使える魔力の量も相当だよね。攻撃手段は水魔法しか無いみたいだけど、キツネちゃんのスキルじゃ相手のスキルレベルまでは分からないから注意しないとね」
最大レベルまで鍛えられた魔法であればこのダムを壊すことも訳ないはずだ。
ダムを生み出したビイバさんはスキルを使った反動で戦線を離脱している。
さすがに一発の攻撃で崩されることはないだろうが、ダムに集中放火を受ければ新たに補強ができない以上、突破されるのは時間の問題となるだろう。
「わ、私はスライムボスの情報をコウノさんに伝えてきますう」
「おい! その姿で行くつもりかよ」
「はう!? すみません。『虚飾』解除!」
スライムから元の人間の姿に戻るキツネ。
「では、私もキツネちゃんに付き添って行ってきます~」
「ああ。頼んだ」
レイブンはあたふたと頭を下げるキツネの肩を叩くと、二人で連れだってこの場を去った。
「ロンリ。私たちはどうする? スライムボスが魔法の届く距離に来るまではまだ時間があるけど」
「……そうだな。これだけ高い位置から相手を視認できるんだ。SPの最大値が増えた今なら俺の集中でスライムボスを狙い撃ちできそうだ」
もちろんこんな距離から岩集中を使えば一発で魔力は枯渇してしまう。
「でも、スライムボスには物理攻撃が効かないんだよね」
「……ああ、そうか。それなら魔力集中で」
「うーん。でも、魔力集中も空気中の魔力を枯渇させちゃうから連発はできないんだよね」
「ああ。そうなんだよな……魔力集中はいざという時に取っておいたほうがいいか。それで、スライムボスには効かなくても周りのスライムなら岩集中で倒せるはずだ」
「スライムも『物理軽減』のスキルを持っているはずだけど、岩集中ならその防御を突破できるからね」
「よし、適当な弾を集めておくか。スライム相手なら石をぶつけてやるだけでも十分だろう」
「じゃあ、私も手伝うよ」
俺は時間となるまでウグイと協力して弾丸となる石を集めることにした。
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