第26話 戦闘スタイル

「「「ワオーーーーーーーン」」」


 ウルフたちの遠吠え。

 俺たち五人は拠点の南側、川の近くで三体のウルフと対峙する。




「じゃあ、手筈通りいくぞ」


「ええ。盾役は任せてください」


 俺の掛け声に盾を構えたアルマが隊列から前に出る。


「ははっ! ウチら新チームの初陣はウルフってわけねっ! 肩慣らしにはちょうどいい相手だねっ!」


 拳同士をかち合わせながらキツツキは獰猛な笑みでアルマの横に並ぶ。


「ふふふ。キツツキちゃん、気合入りすぎだよ。怪我をしたら回復は任せてね」


 ウグイは俺、ウサギと共に後列に待機。

 ウグイは回復、俺とウサギは遠距離での攻撃を狙う。


「正面からウルフに挑むのは初めてっすね。凄い威圧感っす」


「ああ。だが、ビビる必要はない。この五人ならウルフの三体ぐらい数に入らないはずだ」


 俺はわざと強い口調で、怖がるウサギを叱咤する。


 今まで俺とウサギは遠距離から一方的に攻撃を仕掛け、モンスターを倒してきた。

 こうしてモンスターと正面から向き合う機会はなかったのだ。


 だが、新たな仲間を加えたこの五人のチームであれば奇襲に頼らずともモンスターを倒せるはずだ。


「よし。攻撃開始だ」


「「「「おお!!」」」」


 俺たちは新チームでの初めての戦闘を開始する。




「「「ワオーーーーーーーーン」」」


 襲い来るウルフの群れ。

 ウルフは仲間同士での連携が得意なモンスターだ。

 先頭のアルマを囲うように陣を敷こうと両端のウルフが左右に展開する。


「敵対!」


 アルマは盾を構えると力のある言葉を発する。

 アルマの声を聞いたウルフたちは眼を血走らせると、一斉にアルマへと飛び掛かった。


 『敵対』は、敵の敵対心を煽り自身に攻撃の矛先を向けさせるスキルだ。

 ウルフたちの振るう爪が、牙が、アルマを襲う。

 アルマは位置を調整し、ウルフ三体が自分の正面から攻撃を振るうように誘導。

 一方向からの攻撃であればアルマの大盾により攻撃は完全に防がれる。


「アルマのユニークスキル『硬殻』は盾で受けた攻撃の威力を軽減するわっ! 正面なら90%、盾の端で受けても50%にまで威力を弱めることができるのっ!」


「キツツキさん! 解説はいいから早く一体引き受けて!」


「ははっ! 了解よっ!」


 余裕をかまして解説に回っていたキツツキにアルマからのツッコミが飛ぶ。

 さすがに三体からの攻撃を盾一つで受けるのは『盾の才能』のスキル補正があっても厳しいのだろう。

 とはいえ仮に盾で受けそこなってもアルマはポイントで交換した木製の軽鎧を着込んでいる。

 そうそう怪我をする心配は無い。


「じゃあ、一体もらうよ! インファイト!」


 アルマに敵意を向けるウルフたちの背後に回り込んだキツツキ。

 眼に見えると錯覚するほどの闘気がキツツキから発せられ、ウルフの一体を襲う。

 闘気を当てられたウルフは体を跳ねるように身を翻すと攻撃の矛先をキツツキに変える。


 『インファイト』は敵一体を対象とした敵対心を煽るスキルだ。

 対象が少ない分『敵対』よりも敵対心の増加量が多く、さらに対象へのダメージを底上げする効果も持つ。


 ウルフは素早いモンスターだが、敵対心を煽られた攻撃は精細さを欠く。

 キツツキは『回避』で上がった反応速度と、空手で鍛えた反射神経でウルフの攻撃を回避しながら軽い攻撃を当てていく。


「ウチの攻撃は木でも岩でも、なんでも穿うがつよっ!」


 キツツキの持つユニークスキル『連穿』。

 攻撃を当てれば当てるほど、次にその対象に与えるダメージを増加する効果により、軽い攻撃であっても数を打てばそれは致命の一撃となる。 


「キャウン!?」


 攻撃を打ち込まれるたびに強くなる威力にウルフは苦痛の声を上げる。

 キツツキの攻撃は止まらない。


「新チームでの初陣っ! 出し惜しみはしないよっ! オーバードライブ!」


 キツツキの体から眼に見えるほどの闘気があふれ出す。

 SPを消費し、攻撃の威力を上げる『オーバードライブ』のスキル。


「これで、終わりっ!」


 『インファイト』『連穿』『オーバードライブ』。

 攻撃の威力を上げる三つのスキルが発動した状態でのとどめの一撃。

 キツツキの中段突きを受けたウルフは、その衝撃から背後へと吹き飛んだ。



「うへえ、えげつない威力っすね」


「よそ見してないで俺らも攻撃に参加するぞ。集中!」


 残るウルフ二体による攻撃は今もアルマへと向けられている。

 俺たちはそれぞれ弓矢と火柱でウルフを攻撃する。


 こうして1分とかからずに俺たちは三体のウルフを倒すことに成功する。


「はっ! 大勝利っ!」


「みんなお疲れさま。あなたに癒しを~♪ あなたに活力を~♪」


 あっさりと三体のウルフを倒し終えた俺たちをウグイの回復の歌と活力の歌が包む。

 体の内から力が湧いてくるのを感じる。

 うん。なんだか体がムズかゆい感じだ。


「アルマ達三人は戦い方が安定しているな」


「僕たち今の戦いでいらなかったすよね」


 戦いを振り返る。

 盾役、攻撃役、回復役。

 アルマ達はすでに戦闘スタイルを確立している。

 俺とウサギの攻撃手段は遠距離のため、前衛のアルマ、キツツキに当てないよう注意さえすれば邪魔にはならないが正直居なくても変わらないだろう。


「いや、そんなことは無いよっ。ウチの連穿は体力の高い敵には有効だけど、数で押してくる相手には効果が薄いんだよねっ。オオカミ君達が居てくれたおかげでこんだけ早く倒せたんだよっ!」


「殲滅速度が上がれば僕が受けるダメージの総量も減ります。その分ウグイさんの消耗も減るので、戦闘の効率は格段に上がります」


「うん。ロンリも、ウサギ君も凄かったよ。今までだったらキツツキちゃんが被弾しないように立ち回らなきゃだから5分以上はかけて戦っていたんだから」


「ははっ。そうか。ありがとう」


 皆から俺とウサギに賛辞が送られる。

 やはり仲間と共に戦うのは悪い気はしない。




「よしっ! じゃあ、次に戦うモンスターを探そうよっ! 次は私一人でもやっちゃうよ!」


「いや、ちょっと待ってくれないか」


 キツツキの発言を俺は押しとどめる。


「うん? どうしたんですか、オオカミ君。疲れたなら少し休憩しましょうか?」


「いや。そうじゃない。ちょっと試してみたい事があるんだ」


 俺はウグイを手招きする。


「えっ、私?」


「ああ。オーク戦でやったあの連携、試すぞ」


「あの連携って……どれだっけ?」


 疑問符を浮かべるウグイと共に俺は索敵で反応のあったモンスターの元へと移動する。

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