ちょこっとの気持ち(4)

 私達は、手を繋いだまま、夜の園内を歩いた。

 今日は真雪の部屋に泊まることになっていたから、多少帰りが遅くなっても大丈夫、という安心感があった。こういうの、初めてな気がする。


 自宅から片道二時間の高校に通っているものだから、高校の友達と遊ぶときは、どうしても早く解散になってしまう。それが今まで少しだけ寂しかったのだけど、今日は違うのだ。


 私は、もう夜だというのに、ワクワクしてしまっていた。


「美冬、あれ乗ってみない?」


 しばらくして、真雪が指差したのは、園内の川から海にまで出る、小さなボートだった。スタッフのお兄さんが前と後ろに立って、漕いでくれるのだ。


 私達は早速乗り場に向かう。途中で建物の窓のところに、楽器のレプリカが飾られているのを見つけたりして、なんだかテンションが上がった。


 ボートには、二人並んで座れた。他に男女のカップルが二組、相席だった。

 つい、そのまま手を繋いで乗船したけれど、私達は一体、他の人からはどんな風に見えているだろう。


 唐突にそんなことを考えてしまった。

 バレンタインに女の子二人で手を繋いでいる、私達。


 今どき、女の子同士のカップルだっているのだから、もしかしたら、そう見えるだろうか。実際、真雪が前に好きだった人も女の子だったわけだし。


 ……って、あれ?

 そうだ、真雪は、女の子が恋愛対象なわけで。


 それは本当に今更なんだけど、今まで特に意識したこともなかったものだから。

 そう考えてしまうと、繋いだままの右手が、どうも妙に熱く感じてくる。


 女の子が恋愛対象という意味では、真雪も拓巳も、変わらないはずなのに。

 どうして、真雪のことは平気なんだろう。


 前に真雪が言ったように、彼女が女の子、つまり私から見て同性だから、なのだろうか。

 真雪と話しながら、そんなことを考えている間に、ボートは川を抜けて、海へ出て行くところだった。


「美冬、後ろ、見て」

「……あっ、すごい」


 真雪に呼びかけられて後ろを振り返ると、海の向こう側にライトアップされた園内が広がっていた。


 周りのカップルたちも歓声を上げて、思い思いに写真を撮ったりしていたけど、私も真雪もここでは写真を撮らなかった。


「カメラ越しに見るの、なんかもったいなくてさ」


 耳元で私にだけ聞こえるように、真雪が言う。

 二人して全く同じことを、考えていた。

 


 真雪は、私のことをどう思っているのだろう。

 ふと、そんな疑問が頭を過ぎる。


 もちろん、友達で、同じ部活の仲間で、サシ練のパートナーで、とか、そういう話じゃなくて。


 私は、誰かに恋愛感情を抱いたことがないから、本当にわからないのだけど。

 前に、拓巳が私に告白してきたみたいに、仲の良い友達同士と思っていても、そういうことがあり得るのだとしたら。


 もしかしたら、真雪が私を好きになることだって、あり得るのかもしれない。

 手を繋いだまま、そんなことを考える。


 頭のどこかで、私は思ってしまう。

 でも、それでも、別に良いかもしれない、と。


 本当に、ちょこっとだけ、思ってしまったのだった。

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