ちょこっとの気持ち(2)

 バレンタインデー当日。

 雪は降っていないけど、その代わりにすごくすごく寒い朝だった。


 私達は午前九時から待ち合わせて、ターミナル駅から東京行きの電車に乗る。


「結局、どこに行くの?」

「まあまあ、着いてみるまでのお楽しみってことで」


 真雪は行き先を内緒にしていた。私へのサプライズ、ということらしい。

 やっぱりこういう時思う。真雪は王子様、というか、いわゆる『彼氏力』とかいうやつが高いのだ。


 そもそもこの言葉、『彼氏』さんがデートをリードするのが前提なんて、今時ジェンダーバイアスも甚だしいんだけど、でも優柔不断な私としては、やはり『美冬の好きなところに行こう』などと言われるより、少々荒くても手を引っ張っていってくれる方が嬉しい。


 いや、誰かと比べているというわけでは決してないんだけど。


 私達は紅色の電車に揺られて、色々な話をした。

 バッハの何の曲がどう素晴らしいとか、海外のフルーティストの話だとか、ほとんどは音楽の話だったけれど。


 話に夢中になっている間に、電車は目的地に辿り着いたらしい。


「ここで降りよう」


 真雪が私の手を引っ張るので、慌てて電車から降りる。


「あれ、ここって……」

「そう、あれです」


 その場所は、ついこの間、私が拓巳と一緒に来たテーマパークだったのだ。

 一体どういうつもりなんだろう、と思う。すると、真雪は言った。


「思い出、私が上書きしちゃってもいいかな」


 真雪は屈託なく笑う。

 その言葉と、その表情が、全てだった。


「うん」


 真雪の笑顔にやられてしまったのが恥ずかしくて、私は下を向いたまま、誤魔化すように真雪の手を握って、歩き出す。


 こうして、テーマパークでのリベンジデートが始まったのだった。





 園内に入ると、真雪はいつも通り、興味の赴くままに、私を引っ張り回していた。本当に真雪らしくて、笑ってしまう。


「私、実はさ、こういうところ来るの、初めてなんだ」

「え、そうなの? てっきり慣れてるのかと思ってた」


 テーマパークが初めてだと言うわりに、真雪のまわり方はずいぶん効率的に見える。


「来る前に、だいぶ調べたからね」

「なるほど、さすがだね」


 こんなところにも努力家なところが顔を出すようだ。

 だけど、私は気づいてしまった。効率よくまわっているように思えて、実はそうでもないのだ。真雪が明らかに避けているアトラクションがある。


「……ねえ、真雪ってもしかして、絶叫系、苦手?」

「え? いや……バレたか、ごめん。でも、まあ、美冬が乗りたいなら乗るけど」

「そんな、無理しなくてもいいけど……。でも、ちょっとだけ、乗りたいかも」


 ちなみに私は絶叫系が大好きだ。


「あんまり怖くないやつにしてね……」


 本気で怖がっている真雪を、可愛いと思ってしまった。私にはちょっとサディスティックなところもあるんだろうか。そんなことはないと思うんだけど。

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