デュエットとデート(2)

 私は、事前にコピーしてあった今日のリーディングの本文にマーカーを引きつつ、拓巳と会話をする。


 向かいの人が頼んでいる、大きなパフェみたいな甘そうな飲み物が、目の前にチラつく。

 私はお腹でも空いているのだろうか。


 とりあえず、拓巳が苦手な文法問題を一緒に解いて、明日まわってくる分の、テキストの訳を作ったところで、ひと段落つく。


 私達はお喋りに興じ始める。


「そうだ、美冬、甘いもの好き?」

「うん、普通に好きだけど」

「あれ、飲まない?」


 拓巳は、小さなジェスチャーで、後ろの方向を指す。

 私がさっきまで気にしていた、新作の甘そうな飲み物。


「教えてもらったし、奢るよ」

「え、いいの?」


 正直、とても嬉しい。

 拓巳は、早速立ち上がると、自分の分も合わせて、それを二つ、買ってきた。


「いただきます」


 思わず手を合わせて、ありがたくいただく。


 想像通りに甘くて、なんかこう、脳内にいけない物質が出てくる感じがする。

 これは危険だ。美味しくて、やみつきになりそう。


「あー、なんか今、私、すごい幸せ」

「よかった」


 拓巳はなんだか楽しそうに笑った。




 翌日。ヴィオラの江利子と一緒に、教室で昼食を食べる。

 江利子も私や拓巳と同じC組で、部活もクラスも一緒という、私にとってはわりあい仲の良い方の友達だ。


 お昼休みはいつも、江利子も含めた、クラスの女子のグループでおしゃべりをして過ごす。

 真雪はいつも昼休みも練習しているけど、私の体力だとそんなことはとてもできない。それに、こういうクラスメイトとの付き合いも、それなりに大事だと私は思う。


「ねえ、美冬、昨日拓巳とデートしてたでしょ。」

「え、デート?」


 席に座ってお弁当を広げるや否や、開口一番に江利子は言う。


「昨日、私、見たよー。拓巳くんと仲良く駅前のカフェにいるところ」


 クラスメイトの葉子が、そう証言する。


「ああ、カフェで一緒に宿題やってたんだよ、デートじゃないよ」

「いや、男女が二人きりでいたら、もうデートでしょ」

「二人、付き合わないの?」


 皆が尋ねてくる。

 私は、手に持ったおにぎりを落としそうになる。


 ああ、大事な私の紅鮭おにぎりが、危ないところだった。今日は奮発して百五十円の、ちょっとリッチな方のを買ったのだ。


「付き合うとか、そういうの、私はよくわからないよ」


 私は正直な気持ちを話す。

 最近は、わりと皆にも、思ったままを言えるようになって来ている。


「美冬、せっかくモテるのに。こないだのラブレターの人も、断っちゃったし、もったいないよ」

「あの人、結構イケメンだったのにね」


 皆して、好き勝手なことばかり言う。


 言われてみて初めて、そういえば、そんなこともあったな、と思う。

 あれ、でもそういえば断ったこと、真雪に言っただろうか。


 言ってないような気もする。だとしたら、真雪が磯山先輩とのことを教えてくれないのだって、人のことは言えないだろう。


 真雪とは、恋バナ以外にもたくさん話すことがありすぎて、多分言うタイミングがなかったのだ。


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