第117話5-18森を抜けて


 僕たちは初代ティアナ姫のお墓参りを終わらせまた東に向かう。



 「もう半日もすれば元ルド王国ね」


 シェルさんは東を見ながらそうつぶやく。

 するとリュードさんはシェルさんに顔を向け聞く。



 「なあシェル、元ルド王国って今どうなってんだよ? あそこは確か人が住むには危険すぎるキメラや化け物の巣窟でそいつらが出てこれないように国自体を大きな外壁で囲ってあるって噂だったけどよ?」


 「今は俗称魔族と呼ばれる連中がいるわね。キメラだった者も数世代過ぎて性格も大人しくなったし、一部ではダークエルフと交易もしているはずよ?」


 「まさしく魔王が君臨するにふさわしい所ですわね! 何と言う不浄な場所なのですかしらですわ!」



 シェルさんの説明にエマ―ジェリアさんも乗り出して来てぐっとこぶしを握る。



 「こらこらエマ、魔族と言っても何も人族に害を成す事は今は無いの。その見た目が異様でも元は人間といろいろな魔獣や妖魔のキメラだからね。今はいたって平穏で無害な連中よ?」


 「シェルさん、魔族って初めて聞きますけど元は人間だったんですか?」


 「そうね、これもいろいろとあったけど、秘密結社ジュメルって言う連中の犠牲者でもあるのよ。そんな彼らも結局は女神に屈服して塀の中で大人しく暮らすと言う事で世にはほとんど出ていないわね。ただ興味本位で元ルド王国に行った者はその異様な風景に驚きさっきリュードが言ったような風評を流しているわ」



 そこまで言ってシェルさんは大きくため息をつく。



 「シーナ商会も元ルド王国には支店を出さなかった。あそこは塀の中で静かに暮らすのが一番いいのよ‥‥‥」



 昔何か有ったのかな?

 シェルさんは遠い目をしていた。



 「見て、森を抜けるわね」


 姉さんがそんな話をしている僕たちにその先を指さしながら言う。

 針葉樹という冬でも葉が落ちない木々を抜けると少しむこうに大きな塀が見えて来た。



 「あれが元ルド王国、今は魔族の領域。そして魔王のいる魔王城が有る場所」


 シェルさんはそう言うのだった。

 

 

 * * *



 「さて、着いたはいいけどちょっと様子を見ないとだめね」


 「え? なんで? すぐにでも魔王城に攻め込んでミーニャを捕らえればいいんじゃない?」


 森を抜けた僕たちはシェルさんの指示で近くに馬車を止め話し合いを始めた。



 「魔族の連中が魔王軍に占領されていると思うのだけど、私としては今一番心配しているのはモルンの町の様になっていないかどうかよ」



 「あっ!」



 シェルさんのその言葉に僕も思わず声を上げた。

 モルンの町は住民が全部悪魔と融合していた。

 もう人間に戻れないと言うそれはいくら何でもやり過ぎだと思う。



 ミーニャって一体何考えているんだよ?



 「魔族はいたって大人しい連中よ。でも流石に自分たちに危害を加えるとなれば抵抗はするわ。でもその魔族連中が屈服して魔王軍に同行している姿は未だに一度も見ていない。魔族の連中が今どうなっているかが心配なのよ。あの人も言っているけど、この世に生を受けた者がむやみやたらと殲滅されるのは良くない、調和と温和な世界になることを望んでいる。その考えには私も賛同するの」



 「女神様の教えですわね! 流石女神様、慈悲深いですわ!」



 「あ~、あの人は面倒事が嫌いと言うか、なるべく人々に関与しないようにしていると言うか‥‥‥」


 シェルさんの説明にエマ―ジェリアさんは女神様を称え、セキさんは複雑な表情をしながら頬を指先で掻いている。



 「あの子らしいわね。でもそうなるとその魔族連中はどうなったの?」


 「それを先に調べてからよ」


 姉さんのその質問にシェルさんは答えながら森の方を見る。




 「出て来なさいよ。ずっとつけてきているのは知ってるのよ?」


 

 するとガサガサと森の方から音がしてフードを目深くかぶった人物が出てきた。



 「誰よ?」


 「おい、シェルこいつは!?」



 セキさんとリュードさんが立ち上がり構え、腰の剣に手を置く。



 「気付いてたのか?」


 「たかが千歳くらいのダークエルフに遅れをとる私じゃないわ。いくら姿を消す精霊魔法を使っても魂の色までは隠せないものね?」



 そう言うシェルさんの瞳の色は金色になっていた。



 「やっぱりお前は『女神の伴侶シェル』だったのか‥‥‥」



 そう言いながらフードを降ろすその人物はモルンの町で出会ったあのダークエルフだった。



 「そう言えばまだ名前を聞いていなかったわね?」


 「‥‥‥キシャラ」



 ダークエルフの人はそう名乗った。



 「よろしい、じゃあキシャラ教えて。魔族たちはどうなったの?」


 「分からない。我々ダークエルフもそこまで頻繁に魔族と交流をしていたわけでは無いからな」



 そう言って壁を見る。



 「もともと魔族連中に用が有ったのは族長で、その、け、健康的で、そ、そっち系が元気な雄を呼んで種族繫栄するとか言い出していたのだが相性が悪くなかなか子宝に恵まれなくてな」



 「あの族長なんにでも手を出すわね‥‥‥」



 だんだんと顔を赤くするキシャラさん。

 大きくため息をつくシェルさん。


 「ああ、あの族長って男好きだったわよねぇ~」


 「お、男ですのぉっ!? セキ、それってまさかですわ!?」


 セキさんは飽きれた風にそう言う。

 途端にエマ―ジェリアさんが顔を真っ赤にしてキャーキャー騒ぎだす。

 

 


 「な、ソウマ女なんてのはそんなのばっかなんだぞ?」


 「は、はぁ? そうなんですか??」


 何故かここぞとばかりにリュードさんが僕に寄って来てそんな事を言う。



 「ソウマっ! お姉ちゃんはソウマ一筋なのよ!?」


 「ぶっ!」



 リュードさんの言葉に首をかしげていると姉さんが抱き着いてくる。

 もう何が何だか。



 「で、キシャラは私たちに何の用なのよ?」


 「お前たちに付いて行けば今この世界で起こっている事が分かる。そしてその報告をするのが私の役目だ」


 まだ少し赤い顔していたキシャラさんだったけどシェルさんの質問にはきっちりと答えた。



 「ふ~ん、キートスも少しは世の動向を気にするようになったか?」


 「我々も平穏な生活を望んでいる。もう仲間の数は減らしたくは無いからな‥‥‥」



 それを聞いてシェルさんはニヤリとする。

 そして壁を指さしキシャラさんに言う。



 「だったら手伝ってもらいたいわね。あの壁の向こうがどうなっているかあなたなら怪しまれずに見てこれるわよね?」


 「は?」



 突然のそのシェルさんの言葉に目を見開くキシャラさんだった。

 

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