第99話4-30知識の塔


 「ノージムではこんなん所だ。それでよ、シェルなら知ってるんじゃねえか?」


 「何をよ?」



 リュードさんにしみじみ同情されてからリュードさんは今度はシェルさんに話しかける。

 シェルさんは面倒そうに聞き返す。


 「『知識の塔』だよ! 神話の時代からどこかにあるって言うその塔にはお宝がざっくざくあるらしいじゃねえか? シェルなら何か知っているんじゃないか?」


 「またとんでもない物に目をつけるわね? でもそんな在るかどう分からない物をよくも探そうとするものね?」


 シェルさんがそう言うとリュードさんは懐から一冊の手帳を引っ張り出す。

 そしてそれを開いてシェルさんに見せつける。


 「それがよ、こいつを手に入れたんで現実味が出てきたんだよ。見ろよその昔世間を騒がせたって秘密結社ジュメルの十二使徒が書き記したって言う手帳! こいつにはカギになる管理者を見つけ出しその者と『知識の塔』の扉を開けばいいって書かれてんだよ! どうだすっげーだろう!?」


 シェルさんはそれを見てため息をついてから言う。



 「そのジュメルの十二使徒ってのを退治したのが私たち。そんでもって、管理者ってのは私の知り合いでエリリアって言うの。今はウェージム大陸にいて彼女がいない限り『知識の塔』はその姿を現さないわ」



 「はぇ?」



 リュードさんはものすごく間抜けな顔で半口開けてシェルさんを見る。

 そんなリュードさんに更にシェルさんは言う。


 「それに『知識の塔』ってのは本当に知識についての事ばかりでお宝なんて無いわよ? そんなの探すならまだ古代遺跡にもぐった方が金目のものはあるって」



 くぴっ!



 シェルさんは果実酒を飲み干して杯をテーブルに置く。

 そして更に追加でお酒を注文する。



 「そんなぁ、じゃあ俺の今までの努力は…‥‥」


 「無駄だったわね」


 「ちっくしょぉーっ! やっぱお前が絡むとろくなことねぇ!! くそ、どうしてくれるんだよ!?」



 リュードさんはシェルさんに絡む。

 でもシェルさんは新しく来たお酒に口をつけながら手をしっしっと払う。



 「それは私のせいじゃないわよ? それにいくら同調が出来るからって普通の人間があんな女神の知識の一端を扱えるわけないじゃない。あの人ですら面倒がって世界の理を受ける気が無いって言うのに」


 「でも彼女は必要な部分だけ選んでその知識を受け取ることが出来るでしょう?」


 「ティアナ‥‥‥じゃ無かった、フェンリルも知ってのとおりあの人はあなたといちゃいちゃする事しか頭にないわよ。おおむね世界が平和であれば余計な干渉はするつもりも無いし、人間の技術をこれ以上発展させる気も無いわね」


 「確かに、この千年以上技術の進歩はほとんど無いわよ。でも世界の理が分かるなら三百年もあそこで一人で頑張らなくても‥‥‥」


 

 と姉さんがそこまで言ってはたと喋るのを止める。

 みんな姉さんをじぃ~っと見ているからだ。



 「完全に戻ってるわよね?」


 「やっぱりフェンリルさんはティアナ姫が覚醒しているのですわね!?」


 「姉さん‥‥‥」



 僕たちに見られて姉さんは頬に一筋の汗を流す。



 「大丈夫よ、彼女はフェンリル。記憶のオーブもそれをフェンリルに返却されていたでしょう?」


 「そ、そうよ。シェルの言う通り。私はフェンリルよ!!」



 姉さんはそう言いながらみんなから視線を外す。

 全くこの姉は。



 「分かったよ、姉さんは姉さんだよね?」


 「ソウマぁ! そうよ、お姉ちゃんはソウマのお嫁さんになるお姉ちゃんよ!!」



 そう言いながら僕に抱き着いてくる。

 本当にこの姉は。




 「なぁ、さっきから話が見えないんだが、伝説のティアナ姫がどうたら、そっちの坊主の姉ちゃんがティアナ姫ってどう言う事だよ?」


 リュードさんは僕たちを見ながらジト目になる。


 「なんて事無いわよ、フェンリルがティアナの生まれ変わりって事よ。でもティアナでなくフェンリルでいたいって事なんだけどね」


 シェルさんがさらりとそう言うとリュードさんはテーブルに乗り出して姉さんに聞く。



 「なんだって! じゃあ、あんたがご先祖様の主様だったってのか!?」



 「ご先祖様??」


 姉さんはリュードさんをまじまじと見る。

 まじまじと‥‥‥

 そしてその視線が着込んでいる黒い甲冑に行く。



 「って、まさかゾナーの子孫!? その黒い甲冑ってゾナーの!?」



 「す、すげえぇ、本当に言い当てた。俺の秘密のを言い当てた。とうとう、とうとう見つけたぞ!!」


 そう言ってリュードさんは姉さんの前に跪く。

 そして腰の剣を差し出す。



 「我が家の代々の家訓だ。もし主にもう一度出会えたら今度こそは生涯その恩を返すべく命ある限り仕えよと」



 「はぁ?」



 「ちょっと待ちなさいよ、リュードあんたってもしかして!?」


 「俺の名はリュード=ホリゾン。初代ホリゾン公国王の子孫だ」


 いきなりのリュードさんのその申し出に姉さんは固まり、シェルさんは驚く。

 そしてリュードさんは忠誠を誓う騎士の如く姉さんの前に膝まづいている。



 「ちょ、ちょっと、やめてよそんな昔の話。ゾナーはちゃんと約束守ったし、ホリゾン公国もなんだかんだ言ってガレントとは上手くやってるじゃない?」


 「だが家訓は絶対だ。俺たちが世界中を旅している本当の目的はティアナ姫、あんたを探し出し恩返しするってのが目的なんだ! それがとうとう俺の代で叶う!!」



 剣を差し出されたまま姉さんは困惑してシェルさんを見る。

 シェルさんはため息をつきながら両手を上げている。

 姉さんは今度はセキさんを見るけどセキさんは「良いんじゃない?」くらいに軽く見ている。



 「それにこんなに可愛い坊主が一緒なら俄然やる気が出て来る! 坊主、俺の所に嫁に来ないか!?」



 「だ、ダメぇ――――っ!! ソウマは私のなんだからねっ!!」



 「ソ、ソウマ君がお姉さんキラーだけでなく年上の男性にまでですの!?」


 「ソウマは人気者だねぇ~」


 なんやかんやで大騒ぎになる。

 そして姉さんは僕に抱き着きながら叫ぶ。


 「私はフェンリルだし、ソウマの姉でお嫁さんなのーっ!」


 「ぶっ! 姉さん抱き着かないでよ! 苦しい!!」


 「もう、ソウマのいけずぅっ!!」




 酒場に姉さんの叫び声がこだまするのだった。

  

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