第97話4-28出会い


 ヘミュンの町は意外と獣人の人が多かった。



 「へぇ、僕たちの村以外で獣人の人を見るのは久しぶりだね?」


 「あら、エダーの港町にもいたわよ?」



 町の門を咎められることなくすんなりと入って町の様子を見ると意外と獣人の人が目についた。

 エダーの港町では見かけなかったんだけどな?

 僕の感想に姉さんはそう答えた。



 「エダーの港町では獣人の特に可愛い若い女の子は狙われるからね。捕まってそのまま船で他の所に身売りされていた子もいたしね。みんな目立たないようにフードとかかぶっているわね」


 「ここはそうでもないって事なの、シェル?」


 馬車の荷台からセキさん馭者席まで出てきてシェルさんに聞く。

 シェルさんは首を振りながら周りの様子を見るけど、衛兵の詰め所だったところに魔王軍の悪魔たちがいる。



 「多分サボやエダーの港町と同じ治安が向上したのでしょうね。ホリゾン公国の首都エリモアが近いと魔王軍も多いみたいだし。それにもともと獣人は数が少ない種族だし、ジルの村以外ではいまだに迫害を受けていたしね」


 そう言いながらシェルさんは僕を見る。



 「ジルの子供は獣人の血が濃かったから耳と尻尾が有ったのよね。母親に似ていて可愛らしい子だったわね」


 「ああ、村に私が遊びに行った時に一緒に遊んでくれた子かぁ。ずいぶんと昔の話ね」


 姉さんも僕を見る。

 一体何なんだろう?

 僕が首をかしげているとセキさんが僕を見て付け加える。



 「あ~、そうか。ソウマの前世よ。ジルだったっ頃アルミナとの間に生まれたって子ねだったわね」


 「ぼくの前世ですか? 僕って獣人の娘と一緒になっていたんですか?」


 「そうね、あの時は驚かされたけどみんなでお祝いに行ったのよね」


 「ううぅ、昔の話だけどお姉ちゃんはちょっと嫉妬するなぁ。ソウマぁ、お姉ちゃんもソウマの子供欲しい!」


 また姉さんが無茶な事言ってるし。

 そして真っ赤になったエマ―ジェリアさんは「キャーキャー」騒いでいる。



 そうこうしていたけど、僕たちは宿屋を見つけてそこへ行く。


 「さてと、今日はここでゆっくり休んで調達物資を仕入れたらエリモアに行くわよ」


 「ええ、シェル分かっているわよね?」


 何故か姉さんとシェルさんは頷きあっている。

 そして僕は悪寒に背筋をぞくりとさせる。


 

 「ソウマ君、本当にいいのですの?」


 「エ、エマ―ジェリアさん何がですか?」


 「そ、それはその、フェンリルさんと一線を超えるって事ですわよ! きょ、姉弟なのでわよ!?」


 エマ―ジェリアさんは僕を荷台に引き戻し赤くなりながら小声で聞いてくる。


 一戦って言われても本気で戦う訳じゃ無いし、いつも通りに鍛錬として姉さんに鍛えられるだけなんだけどね?



 「僕はもっと強くならなきゃいけないと思うんですけど。姉さんに釣り合うくらいには」


 「そ、ソウマ君、本気でフェンリルさんをお嫁さんにするつもりなのですの!?」


 「はぁ?」


 なんかエマ―ジェリアさんとも話がかみ合わない。

 なんで姉さんがお嫁さんになるの?

 大体そんな相手がいるなんて聞いた事無いんだけど?


 なんか訳が分からない。



 「ほら、ソウマもエマも馬車を片付けるから宿屋に行ってなさいよ」


 エマ―ジェリアさんが涙目で赤くなり始め僕の首を絞めている所にシェルさんが声を掛ける。

 慌ててエマ―ジェリアさんと一緒になって馬車を降りて宿屋に行くけど、エマ―ジェリアさんは「ソウマ君の馬鹿ぁ!」と言ってそっぽを向いている。


 なんなんだろうね。


 


 「おっと、わるいな。通してもらえるか?」


 宿屋の入り口でシェルさんたちを待っていると大柄の黒い甲冑を着た男の人が声を掛けて来た。


 「あ、すみません。今退きますね」


 宿屋に入る邪魔になっちゃったね。

 僕とエマ―ジェリアさんは慌てて荷物を持って入り口から退く。


 「ん、あんがとさん。おっ、君可愛いね?」


 その男の人はエマージェリアさんではなく僕に向かってそう言う。

 思わずきょとんとしてしまうけどエマ―ジェリアさんが僕の腕を引っ張ってしっかりと腕に抱き着いてくる。



 ふにっ!



 う~ん、前とあんまり変わらないかな?



 「男の子に向かって可愛いは侮辱ではありませんの?」


 「なんだ、彼女付きかよ? 気になったら謝る」

 

 そう言ってその甲冑の人は頭をエマ―ジェリアさんに下げて宿屋のカウンターに向かって行った。



 「なんなのですの? 北の男性はみんなあんな風に不躾なのですの?」


 「はははは、どうなんでしょうね? でもあの人強そうでしたね」



 僕も姉さんたちに鍛錬を積まさせられているので強そうな人くらい分かるようになってきた。

 あの黒い甲冑の人、多分強いはず。



 「あら、エマったらソウマに抱き着いてどうしたの? ははぁ~ん、フェンリルとソウマが仲いいから焼いてるんだ?」


 「なっ!? こ、これはソウマ君の男の尊厳を手助けしたのですわ!!」


 僕たちが黒い甲冑の人の様子を見ていたらセキさんがやって来た。

 そしてからかうようにエマ―ジェリアさんに言うとエマ―ジェリアさんは慌てて僕から離れた。



 「ソウマぁ~、ちょっと目を離した隙に何エマージェリアさんと仲良くなっているのよぉ~」


 「姉さん?」


 「あらあら、フェンリルも急がないとエマにソウマ取られちゃいそうね?」


 後ろから姉さんが現れ僕の肩に手を乗せる。

 それをシェルさんはにやにやして見ているけどエマ―ジェリアさんが僕を取ちゃうって?



 「シェ、シェル様! 私はソウマ君を取る訳じゃありませんわ! て、手助けをしたまでですわ! それに私はシェル様の事が!」


 「はいはい、分かった分かった。そう言う事にしておくわ」


 ニヤニヤしたままシェルさんはエマ―ジェリアさんの頭を撫でる。



 と、さっきの男の人が大声を上げる。



 「んだとぉっ! なんで俺には部屋貸せねぇんだよ!?」


 「あのな、あんた前にも問題起こしただろうに!!」



 なんか向こうで騒ぎになっている。

 僕たちもその騒ぎに気付きそちらを見るのだった。

 

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