第四章

第70話4-1ボヘーミャへ帰還


 リリスさんが去ってから僕たちはボヘーミャにまで戻ってた。



 

 「すると今後は各国に出没する魔王の配下の者はいなくなると言う事ですね?」



 学園長さんはそう言いながらお茶をすすっている。

 

 「ええ、『ハーピーの雫』はそのサキュバスのリリスってのが魔王城へ持ち帰ったわ。だから各国の市場に現れている配下の者もそのうちいなくなるわ。でも魔王軍の侵攻は‥‥‥」


 シェルさんもお茶をすすってから学園長さんに答える。

 僕たちもお茶をいただきながら学園長さんの次の言葉を待つ。


 「止まることは無いと言う事ですね」



 コトっ



 学園長さんは湯呑をテーブルに置く。

 そして仮面を外しながらため息をついて僕たちを見渡す。



 「となれば戦力を侵攻する魔王軍にあてがい北にまで押し戻し、ホリゾン公国を解放しなければなりませんね」


 「そう、なるわね‥‥‥」


 学園長さんの話にシェルさんもため息をつきながら答える。


 でも、そうするとイザンカの時みたいに大戦になってしまう。

 ミーニャには僕が魔王城に行くからみんなに迷惑かけないでってお願いしているけど、リリスさんちゃんと伝えてくれたかな?



 「シェルたちはどうするつもりですか?」


 「私たちは単独で魔王城へ殴り込みをかけに行くわ。イオマ‥‥‥じゃ無かった、今はミーニャって魔王を押さえない限りこの戦いは終わらないわ。魔王軍はそのほとんどがレッサーデーモンやアークデーモンが中心の悪魔召喚だもの。その場をしのいでも大元を断たなければ意味が無いわ」



 シェルさんのその言葉に学園長さんは黒い瞳を閉じ息を吸い込みゆっくりと吐き出す。



 「あなたたちにお願いする他ありませんね。連合は防衛を主体としましょう。万が一シェルたちに何か有れば彼女を呼びます。よろしいですね?」



 するとシェルさんは凄く嫌そうな顔をする。

 そしてう~んとか唸ってから肩を落とし力なく言う。


 「そうならない様に頑張るしか無いわね。彼女には出てきてもらいたくないけどそれは本当に最終手段よ。ユカ、分かっているわよね?」


 「ええ、勿論です」


 そう言って湯呑に新しいお茶を注ぎ僕たちにも注いでくれる。 


 

 「彼女」って誰だろう?


 思わず姉さんと顔を見合わせる。

 姉さんやシェルさんが敵わなくてもその「彼女」って人が出て来るとどうにか出来てしまうって事だよね?



 「そうね、出て来てはもらいたくないもんね」


 「セキ、もしかしてその『彼女』というのはですわ‥‥‥」


 セキさんは頭の後ろを掻きながらやっぱりシェルさんと同じく嫌そうな顔をする。



 「とにかく彼女が出てこないで済むように頑張りましょう。一度彼女が動くと今は色々と問題だからね」


 シェルさんはそう言って立ち上がる。



 「ユカ、後はお願い。とりあえずエリリアに会ってからベイベイに戻るわ」


 「わかりました。シェル、あなたたちも気を付けて」



 学園長さんのその言葉を聞いて軽く手を上げてからシェルさんは僕たちとこの部屋を後にするのだった。



 * * *



 「そうか、『ハーピーの雫』を手に入れたか。彼女ら乙女の体液は特殊だからね。経験をしてしまうとその成分分泌をしなくなるから使い物にならなくなる。まさしく希少価値の高い物だよ」


 「説明ありがとう。まあそう言う訳でそのうち一つを魔王軍のサキュバスであるリリスに渡したからとりあえず各国の市場に現れている魔王軍はこれでいなくなるんじゃない?」



 エリリアさんにそう説明するシェルさん。

 エリリアさんはそれを聞いて何か考え込む。



 「まあその点はは良いだろうけど、魔王はソウマ君が魔王城に来る事を望んでいるんだよね? だとするとユカに言って早々に魔王軍の更なる侵攻を防ぐために手を打った方が良い。多分今まで以上に強力に攻めて来るだろう」


 「どう言う事?」



 「今まで魔王は何処に有るか分からないレアアイテムの為に侵攻することに手加減をしていた。万が一戦乱でレアアイテムが破壊もしくは紛失してしまう事を恐れてね。しかし目的であるレアアイテムの入手が出来れば気兼ねする事は無くなる。いくらソウマ君が魔王城に行くと言っても魔王からすれば当初の目的である世界征服とソウマ君が魔王城へ来る事は別問題だ。だからソウマ君が来る前に世界征服を完了して勇敢になったソウマ君を自分の手に入れそして当初の予定通り世界の覇者として、そしてその夫っとしてソウマ君もその横に納めるつもりなのだろう」



 エリリアさんはそう言いながらメガネを外す。

 そして目頭を指で揉んでからシェルさんを見る。



 「そのサキュバスを逃がすべきでは無かったね。まあ今となっては時既に遅しだけどね」



 「そんな‥‥‥」



 シェルさんとエリリアさんの話を聞いていた僕は思わずつぶやいてしまった。



 いくらミーニャにお願いしても聞き入れてはもらえないと言う事か。

 思わず唇を噛んでしまう。



 「それでも今は魔王城に向かうしかないでしょう? 私たちが戦場に向かっても大元を何とかしなければこの戦いは終わらないわ。それこそ更に事が大きくなってしまえば彼女を呼ぶ羽目になってしまう」



 シェルさんはここでも嫌そうな顔をする。



 「彼女か‥‥‥女神が今の世界に降臨して来たら確かにただでは済まないな。せめてアガシタ様あたりが協力してくれればいいのだが‥‥‥」


 「アガシタねぇ。あの古き女神ったら遠の昔に回復しているくせに復帰するつもりなんか無くこの千三百年間何処をほっつき歩いている事やら。ライムやレイムだってこの所姿を見せないし」



 「彼女」って女神様の事だったんだ!



 僕は驚き姉さんと顔を見合わせるとなんか姉さんは身震いして僕に抱き着く。


 「お姉ちゃんその女神様に会ったら襲われちゃうんでしょ? 嫌よ、私にはソウマと言うモノが有るのだから!!」


 なんで姉さんが女神様に襲われちゃうのか良く分からないけど、女神様の伴侶ってシェルさんじゃ無いの?

 それに古き女神とか言うアガシタって女神様の話は聞いた事が無い。


 僕はエリリアさんを見て話す。



 「エリリアさん、そうするとミーニャを止めるには僕たちが魔王城に行ってミーニャを取り押さえなければいけないって事ですか?」


 「今の魔王は完全覚醒しているのだろう? そうそう簡単には取り押さえるのは難しいのではないかい?」



 「それでもミーニャを村に連れ帰ります!」



 僕ははっきりとその事を告げる。

 するとエリリアさんは僕をじっと見てから眼鏡をかけ直し言う。


 「そこまで意志が強いのならば何も言うまい。君たちが上手く対処することを祈るよ」



 「そうね。ソウマ、フェンリル行きましょう!」


 「「はいっ!」」




 僕と姉さんは声を合わせてシェルさんに答え立ち上がるのだった。


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