第53話3-12サスボの村


 「流石にこの辺の盗賊じゃあんまり路銀にならないわね?」



 姉さんは盗賊から没収した皮袋の中のお金を見ている。



 「なんなのですのぉ!? フェンリルさんもソウマ君も何なのですのぉっ!?」


 「あら、エマは知らなかったの? 盗賊って書いて路銀って読むのよ?」


 「いや、普通は違うでしょうに? まあこいつらのさばらせておいて良い事無いから良いけどね」


 ぴこぴこ?



 エマ―ジェリアさんって盗賊に遭遇したことが無いのかな?

 シェルさんも先生と同じような事言ってるし、セキさんも結果それで良いって言うんだから良いと思うけどね。


 アイミは耳をピコピコしながら首傾げているからエマ―ジェリアさんと同じで始めての経験かな?


 既にあちらこちらで倒れている盗賊のおじさんたち。

 これに懲りてもう悪いこと止めればいいのにね。



 「そ、それでもいきなり殲滅なんて野蛮ですわ!」


 『じゃあ、あたしが相手して全部搾り取った方が良いの? おっさんは加齢臭が有ってあんまり好きじゃないんだけどなぁ~。出すのも薄めだし』


 リリスさんがそう言ってからから笑うとエマ―ジェリアさんは真っ赤になって手をバタバタ振って「きゃーきゃー」騒いでいる。



 「さてと、それじゃぁとっとと片付けてこの先にあるサスボの村まで行きましょう。エデルの村はそこから更に西に山を登った場所らしいからね。まずはサスボの村で情報を集めなきゃね」


 シェルさんはそう言って大地の精霊たちに盗賊のおじさんたちを運ばせて道の端っこに集めておく。

 そしてセキさんが近くの蔓を引っ張って来てぐるぐる巻きにしてアイミが手刀で手ごろな木を捌き板状にして最後にシェルさんがさらさらと何か書いている。


 「助けてください、もう盗賊はやめます。深く反省してます。っと、さてこれで誰かに助けてもらえると良いわね?」


 にんまりと笑って盗賊のおじさんたちから離れる。


 気が付いた何人かのおじさんは騒いでいるみたいだけど無視して僕たちはその場を立ち去るのだった。



 * * * * *


 

 「そう言えばサスボの村って後どのくらいなんですか?」


 「リザードマンたちの話だと歩いて二、三日くらいらしいからもうすぐね」



 今日はこの辺で野営だけど僕は姉さんたちとの稽古が終わってエマ―ジェリアさんに傷を治してもらってからシェルさんの晩御飯作るのを手伝い始めた。


 向こうではまだアイミと同調をしてセキさんと稽古をつけているけど、同調した姉さんが扱うアイミが凄いのなんの。

 僕なんか瞬殺だった。



 あれって村に有った「鋼鉄の鎧騎士」なんてもんじゃないよ。




 『ねえ、あたしは人間の食べ物いらないからね?』


 リリスさんは僕たちが食事の準備をしていると覗き込んできてそう言う。

 

 「だからと言ってソウマに手は出さないでね? 魔王ミーニャも言っていたでしょう、ソウマの初めては彼女の物だって」


 『ううぅ、まあしばらく食事しなくても大丈夫だけど、魔王様も最初なら手慣れた相手の方が良いのにねぇ~』


 シェルさんとリリスさんは何かミーニャの事言っている。

 そう言えばミーニャってシチューの中の人参が大嫌いだったよなぁ~。

 

 エルフ族のせいかシェルさんがご飯作る時はいつも野菜や果物がメインだった。

 その都度セキさんが「お肉たらなぁ~いっ!」って騒ぐんだけどね。


 そう言えばリリスさんて何食べるんだろうか?

 やっぱり悪魔だから人間食べるのかな?


 僕はリリスさんを見てちょっと引く。



 『なによ少年? 大丈夫だって、君に手は出さないわよ? それとも魔王様に内緒でお姉さんが色々教えようか?』



 「だ、駄目ですわぁっ! ソウマ君もそんな誘惑に負けてはいけませんわぁっ!!」



 ずいっと近寄るリリスさんにいつの間にか来ていたエマ―ジェリアさんが僕の腕を引っ張って遠ざける。



 ふにっ!



 なんかやわらかいものが当たるな‥‥‥

 ああ、そうか、これってエマ―ジェリアさんの胸か!


 姉さんと比べて小さいから分かるのに時間かかっちゃった。



 『はいはい、分かった、分かった。聖女様とか言うのもその少年にご執着なの? まあ美味しそうだけどそんなにいいのかしら? 胸なんか押し当ててアピール?』


 「はへぇですわ‥‥‥」


 リリスさんにそう言われてエマ―ジェリアさんは僕の腕にしがみついていている自分を見る。

 ぎゅっと抱き着かれた腕に小さめのエマ―ジェリアさんの胸がしっかりと押し付けられている。



 「!?」



 なんか声にならない驚きをしているエマージェリアさんだけど、どうしたのだろう?

 もしかして‥‥‥


 「大丈夫ですよ、姉さんも成人する前はそんなに大きく無かったですもん。きっとこれから大きくなりますよ!」


 昔姉さんに聞いたけど女の子って胸が小さいと落ち込むんだって。

 ミーニャもそんな事言ってたけど、僕が姉さんの事を話すと膨れてから「そうよ、大人になれば私だって!!」とか言ってたもんなぁ。


 僕はにこにこしながらエマ―ジェリアさんにそう言うとふるふると涙目になって真っ赤になりながらすっと離れる。



 あれ?

 そんなに気にしていたのかな?



 「ソウマ君の‥‥‥」


 「はい?」


 「ソウマ君のバカぁっですわっっ!!」



 ばちーんっ!



 そう言いながらエマ―ジェリアさんの平手打ちがいつもより強力、当社比三倍くらいの力で僕の頬を叩く。

 流石にこの強さだと頭が持って行かれちゃう。


 僕はそのままゴロゴロと地面に転がる。



 「うわぁーんっ! シェル様ぁっ!!」



 起き上がってみるとエマ―ジェリアさんがシェルさんに泣きついている。

 なんか不味い事言っちゃったのかな?



 「あら? ソウマどうしたのこんな所で座り込んで?」


 「ふぃ~ぃ、流石にアイミ相手だと疲れるわねぇ~。まあ好い運動にはなったけど! お腹すいた、シェルお肉ちゃんと入れた!?」


 ぴこぴこ。



 座り込んでシェルさんたちを見ていた僕に稽古から戻って来た姉さんたちが覗き込んでくる。

 そして向こうでシェルさんに泣きついているエマ―ジェリアさんを見てからリリスさんもついでに見る。


 何故かリリスさんはニヤリと笑っているけど、なんで?

 


 「ソウマ、何が有ったの? なんでエマ―ジェリアさんがシェルさんに泣きついているの? それにリリスのあの顔、何が有ったの!?」


 「いや、僕もよくわからないんだよ」


 頬を擦りきょとんと姉さんを見る。

 するとリリスさんがこっちへやって来て姉さんに話をする。



 『あの子その少年に胸押し付けてアピールしてたみたいだけど小さいって言われたみたいよ~。大きければいいってもんじゃないんだけどね~』



 リリスさんがそう言うといきなり姉さんがガシッと僕の肩を捕まえる。


 「ソウマ、やっぱり大きい方が良いのね‥‥‥ よかった、お姉ちゃん大きくなりすぎてソウマが嫌になっちゃったかと心配だったのよ、うれしいっ!」



 むぎゅぅ~っ!



 またしても姉さんに抱き着かれる。

 そしていつもの窒息状態!



 「むぐぐぅぅううぅぅっ!!」


 「ふんっ! ソウマ君なんてフェンリルさんに窒息死させられればいいのですわぁっ!!」



 シェルさんとセキさん、そしてリリスさんの笑い声が聞こえる中僕は姉さんの胸でもがくのだった。



 * * * * *



 「見えてきたわね、どうやらあれがサスボの村の様ね」



 先頭を歩いていたシェルさんが丘の向こうに見えて来た集落を見つける。


 そこそこ大きい村みたい。

 そしてそのさらに西には険しい山々が連なっている。




 僕たちは見えてきたサスボの村へ向かうのだった。  


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