第25話2-4到達するもの


 「次行きます!」



 そう言って学園長さんは【火球】ファイアーボールを飛ばして来る。

 姉さんはそれを魔力を乗せたなぎなたソードで強引に跳ね返す。



 あっ、弾くのが弱いから僕の方へ飛んできちゃった。

 これはやばいね。



 ちょどぉぉおおおぉぉぉんッ!!



 ひゅるるるるぅ~


 

 ばんっ


 すたっ!




 「ソウマ、あなた一体何の鍛錬をしているのよ? 爆破されて飛ばされたり防護して飛ばされたりして受け身ばかり上手になっているじゃないの?」


 「ああ、シェルさん、見に来ていたんですね?」



 ちょうど出入り口付近まで爆発で飛ばされた僕は吹き飛ばされ落っこちるまでには態勢を整え奇麗に着地していた。


 「ソウマ君、趣旨が違っていませんの? ほんとシェル様の言う通り受け身ばかり上手くなっているのではありませんの?」


 一緒にくっついて来ていたのだろう、エマ―ジェリアさんもシェルさんの後ろからのぞき込んでいた。


 「ソウマは男の子のくせして覇気が足らないのよ! もっとフェンリルみたいにガーっと行って、だーってやらなきゃだめよ?」


 セキさんは骨付き肉をかじりながら僕に忠告してくれている。


 

 うん、分かってはいるのだけど僕あたりがどうこう出来るレベルじゃないような気がする。

 学園長もまずは姉さん中心で鍛えている感じだし、僕も一緒に鍛錬に参加しているけど、どちらかと言うと姉さんの足手まといになら無い様に立ちまわってばかりいるもんね。




 「フェンリル、あなたの本気はその程度ですか? もっと気を練りなさい!」


 「くぅうううぅっ、これでもやってますってば!!」


 姉さんは立て続けでガレント流剣技を放っているものの学園長さんには全く通じない。

 最終の九の型でさえ学園長さんに弾かれ姉さんもいよいよ魔力切れを起こし始める。



 「ぜぇぜぇ、なんで一つも届かないの?」


 「ふむ、まだまだ力にだけ頼っていますね? 肉体の酷使には限界があります。もっと魂から来る力に身をゆだねその魔力を活性化させなさい。その点ではソウマの防御は非常に良くなっています。ソウマ、そろそろ戻ってきなさい」



 うわっ、ちゃんとこっちも見ていた!



 僕は慌てて学園長たちの所へ戻る。

 すると学園長は剣を鞘に戻し半身で構える。



 「高みに至るという事はこう言う事です。少し本気を見せましょう」



 そう言って居合切りでもするかのように構える。


 

 なんかやばい!


 僕は本能的にそう感じる。

 首の後ろがチリチリする感じ。

 本気で対処しないと大けがするあの感じだ!!



 「ね、姉さん!!」


 「分かっているって! くそうぅ、こうなったら【紅蓮業火】!!」



 ぼんっ!



 姉さん最大の魔法攻撃、【紅蓮業火】だ!

 こちらも本気で行くの!?




 「本気で避けなさい、でなければ死にますよ!」



 言うと同時に僕でもわかるほど空気が変わる。

 姉さんも魔法を展開したまま更のその炎を激しく燃え上がらせる。


 

 「行きます!」



 そう言って学園長は居合切りをすると同時に自分も飛び込んでくる。

 それは今まで以上にその居合切りの距離が遠いのに放たれた衝撃波がはっきりと見えるほど濃厚な魔力を帯び襲ってくる!?


 

 「うわぁっ!!」


 「くぅっ! こなくそぉおおおぉぉぉっ!!」


  

 がきぃいいいぃいいいぃんっ!



 姉さんはその衝撃波をなぎなたソードで迎え撃ち何とか相殺するもすぐ後ろに学園長が飛び込んでいる。


 

 「ガレント流体術三十六式が一つ、レイピア!!」


 飛び込んでくる学園長に姉さんはくるりと背を向けながら後ろ足で鋭い針のような蹴りを学園長に入れる。

 それは見事に刀を構える学園長のお腹に決まった!?


 と思ったら学園長の姿が揺らぎ全く別の所から学園長の一撃が姉さんに入る。



 どがっ!



 がんっ!!



 姉さんは見事に吹き飛ばされ試験場の壁にまで飛ばされ背中から打ちつけずり落ちる。



 「姉さんっ!」



 慌てて駆け寄るけど【紅蓮業火】のお陰でダメージは少ないようだ。

 と姉さんの【紅蓮業火】が消えて炎の柱も消える。



 「ぐっ、な、何よあれ? 反則よ‥‥‥」


 「相手の力量が自分を超えている場合こうなるのです。敵わない相手を目の前にしてあなたはどうしますか? あなたの大切な弟を守る事無く殺されますか?」


 学園長は姉さんを見下ろしながらそう言う。

 そして刀を向けて無表情のまま姉さんを見る。



 「‥‥‥ソウマは、ソウマは誰にも殺させない!!」



 え?

 なになになにっ!?



 魔力切れぽかった姉さんがゆらりと立ち上がる。

 両手をだら~んとしていて、なぎなたソードも落としたままだけど姉さんからどんどんと闘気が膨らむ。



 「ソウマは絶対に私が守る!」



 ドンっ!!


 

 「うわっ、姉さん!?」


 見れば姉さんは瞳の色を金色に変え髪の毛を逆立てて仁王立ちしている。



 

 「ソウマは私が守るわっ!!」



 叫びながら姉さんは学園長に突っこむ。

 そして学園長に手刀を差し込む!



 ざしゅっ!



 「えっ!?」


 僕は思わず声を上げる。

 姉さんの手刀が学園緒を貫いた!?

 その貫かれた手は学園長の血で真っ赤に染まっている!?



 「がるルルルルるるるぅぅ‥‥‥   はっ!? えっ!? あ、あたしっ!?」



 学園長を貫いたままの姉さんは我に戻り初めて自分が学園長をその手刀で貫いているのに気付いたようだった。



 「うわぁっ! し、師匠っ!? わ、私なんて事をっ!!」



 姉さんが慌てて手を引き抜こうとした時だった。

 その学園長は姿を揺らぎ消え去ってしまった。




 「上出来です。フェンリル、今の感覚を忘れないでください」


 何が起こったか理解できなかった姉さんは今まで血で真っ赤だった手を見て驚いている。

 なんとその手は今は元の通りで血の一滴もついていない。

 そして更にかけられた声に驚く。


 そこには学園長が刀を鞘に納めながら歩いて来ていた。



 「え? ええ? い、今のは??」



 「見事でした。あなたはあなたの魂と体を見事に『同調』してその瞬間私の反応速度を超えました。見事私を討ち取ったのです」


 自分の手と学園長を交互に見比べ姉さんは驚きに目を見開いている。

 碧眼に戻ったその瞳は学園長の姿を確認するとじわりじわりと涙があふれ始めた。


 「良かった、師匠が無事で‥‥‥ 私、取り返しのつかない事しちゃったって思った‥‥‥」


 「いえ、確かにあなたは一度私をその手で貫きました。ただ私にはこう言ったことが出来るのです」



 そう言って学園長はその場で二人に分かれた。



 「「はいっ!?」」



 姉さんと僕の驚きの声が重なる。

 だって目の前で学園長さんが二人に分かれた。



 「私は異界から来た者です。その時にこう言った特殊な能力を授かりました。私のどちらか一人が生き残れば私は死ぬことはありません」


 学園長はそう言ってまた一人に戻った。

 僕と姉さんは呆然とそれを見る。



 いや、それってものすごい事なんじゃ‥‥‥




 「さてさて、そうするとフェンリルはとうとう『同調』が出来るって事ね? これであの子、アイミの復活も出来そうね」


 「アイミかぁ、久しぶりね」


 「セキ、私は話にしか聞いていませんがそのアイミって何なのですの?」


 シェルさんたちもいつの間にかこちらにやって来ていた。

 そしてシェルさんは姉さんに向かって言う。



 「さあ、あなたのマシンドールを目覚めさせるわよ、フェンリル!」




 訳が分からず瞳をぱちくりさせる姉さんだった。


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