第23話2-2記憶の断片
いきなり稽古をつけると言われ姉さんと僕は学園長さんについて丸い屋根の変な所へ来てしまった。
「ここは試験場ですが並大抵の事では壊れることは無い場所です。ですので魔法の使用も許可します。私の攻撃を良いと言うまでかわしてください」
学園長さんはそう言って刀を引き抜く。
ええ?
それって真剣の付いたやつだよね?
学園長さんは表情一つ変えずにちゃきっという音を鳴らして刀を構える。
「フェンリル、ソウマ頑張りなさい。本気で行かないとケガしてしまうわよ?」
シェルさんやセキさん、エマ―ジェリアさんも僕たちの稽古を見学に来ている。
そしてなぜかシェルさんはニヤニヤしている。
「二人同時に行きますから本気でかわすように。でないと大けがをします」
そう言ったが途端に学園長は僕たちの前にまで飛び込んできた。
「うわっ! 早い!!」
その踏み込みに姉さんは慌ててなぎなたソードを引き抜きその一撃を受け止めるけど返す刀がすぐに今度は僕を襲う。
慌てて飛び退くけどその時には既に次の斬撃が姉さんを襲っている。
何この人!?
無茶苦茶強い!!
あの姉さんが防戦一方だ!
「ふむ、基本は出来ているようですね? しかしまだまだ力に頼り過ぎている」
「くっ! このぉっ!! ガレント流剣技四の型、旋風!!」
弾いた学園長の刀が引き戻される前に姉さんはガレント流剣技四の型、旋風を仕掛ける。
学園長の目の前でくるりと一回転してその遠心力をなぎなたソードの刀身に乗せ重い一撃を叩き込むけどなんと学園長はそれをほんのわずかな力を使って刀の刃でその軌道をずらせる。
「くっ!」
「力に頼り過ぎています。隙が大きい」
ドンっ!!
弾かれわき腹が大きく空いた所に学園長の掌が入り姉さんは大きく吹き飛ばされる。
「姉さん!」
「よそ見をしない。集中しなさい!」
声が聞こえたかと思ったらいきなり足払いをされ僕は大きく倒れそうになる。
しかし宙に一瞬で浮いた僕に大きな衝撃が襲ってきて姉さん同様大きく吹き飛ばされる。
ドンっ!
「くっ!」
吹き飛ばされるも何とか防御が間に合った。
僕は壁まで飛ばされるもぶつかる前に体勢を立て直す。
「今の防御は悪くないですね。瞬間的に私の掌が入る所だけを強化魔法で防御に集中するとは。姉のフェンリルさんより弟のソウマ君の方が守りは上手いようですね?」
学園長はその後すぐには襲ってこず距離を取って僕たちを見ている。
「がはっ!」
姉さんは立ち上がりながら口から血を吐いた。
「うわっ! 姉さん!!」
僕は慌てて姉さんのもとへ駆け寄るけど同時にエマ―ジェリアさんが【回復魔法】をかける。
「姉さん大丈夫!?」
「う~、強い。あの掌も衝撃が内臓にまで来た。ありがとう、エマ―ジェリアさん」
「学園長は伝説の英雄と言われた方ですわ。シェル様の話では遠い昔『狂気の巨人』とまで戦った事がある英雄なのですわよ?」
えっ!?
あの伝説の「狂気の巨人」と戦ったって!?
昔、本で読んだことあるけど山よりも大きな化け物で人々を喰らっていたっていうあれ!?
僕は思わず学園長さんを見てしまう。
すると学園長さんは刀を鞘に納めゆっくりとこちらへ来る。
「あなたたちの今のレベルでは『魔王』は倒せませんね。もっと精進する必要があります」
「くっ‥‥‥ 確かにそうかもしれません」
そう言って姉さんはうなだれる。
僕は驚く。
あの姉さんが素直に負けを認めた。
村では負けても先生にすぐに立ち向かっていた姉さんが!?
「ソウマ君も受け身は良いですが絶対的に戦い方が悪い。君には伸びしろがあるはずです。ソウマ君も精進する事をお勧めします」
そう言って学園長さんはくるりと後ろを向いて行ってしまった。
「何よユカ、『同調』について教えてあげないの?」
「それは自分で理解するしかありません。ですがフェンリルさんは力に頼り過ぎです。目覚めてないからでしょうか? 前回の彼女ならすぐにでも出来たというのに」
「今回はもうあそこまで大きくなって見つけたからね。しかもまだ全然思い出していない。母さん大丈夫かな?」
「セキ、言葉には気をつけなさい」
「おっと」
むこうで学園長さんとシェルさんたちが何か話している。
僕はその場でうなだれたまま拳をじっと見つめている姉さんが気になっている。
「姉さん‥‥‥」
「私は‥‥‥ 私はもっと強くなりたい‥‥‥」
そう言って立ち上がる。
「師匠! もう一本お願いします!!」
姉さんはそう言いながらもう一度を学園長を見る。
学園長はゆっくりとこちらを振り向き目元を覆うマスクを外す。
そしてエマ―ジェリアさんは慌てて僕たちから離れていく。
「師匠ですか‥‥‥ 最初の貴女もそう言ってくれていましたね。よろしい、相手をしましょう!」
「へ? あ、あたし今『師匠』って言ってた? あれ?」
「うわっ! 姉さん来たぁっ!!」
言うと同時に学園長さんはこちらに飛び込んできた。
「「のっひゃぁぁあああぁぁぁぁぁっ!」」
そして僕と姉さんの悲鳴が上がるのだった。
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